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Who am I ?  作者: 霜雪雨多
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『Who is she ?』

私たちはいつの間にかあの円柱の部屋に戻ってきていた。


「おいおい、何だったんださっきのは……俺たちこの部屋のことを忘れて、何の疑問もなくツチノコ探してたよな」


「そうね」


「イマイチ、手帳に書いてあったシナリオがどういうことかもわからなかったし、どうしたもんか。南がサラダ食べてるところでなんか終わっちゃったからな」


「そうね」


「おい、南、ちゃんと聞いてるのか」


「聞いてるわよ」


霜雪は私の単調な返答に苛立ちを覚えたようで、小さく舌打ちをした。


「一通りの部屋は見て回ったが、別に何かが起こるわけでもない、か。とすると残るのはあのノートパソコンだけだが……」


霜雪はノートパソコンをちらりと見ると深くため息をついた。


霜雪の言葉には相槌を打ったが、私には『Scenario』の部屋がどういうものかについては想像がついていた。

いや、こういうべきだろうか。

『Scenario』だけでなく、『Despair』『Memory』『Experience』『Library』を含めたこの空間についてほぼ予想がついていた。


むしろ簡単すぎて笑えてくる。


理解が追い付いていないあたり、霜雪の方は相当に鈍いらしい。白衣を着ていて頭の良さそうな外見をしているくせに……どうしてこうなった。


だがまだ、私の想像を確信に変えるには、あと一押し足りない。ならばその一押しはどこへ行けば手に入るか。



それは―――



「おいどこへ行くんだよ、南。『Library』はもう調べただろ。というか大半の本が読めなかっただろう。きっと無駄だぞ。

お前も一緒に『Who am I ?』の回答について考えてくれなきゃ困るぜ」


霜雪めんどくさっ。私なんてほっといてくれればいいのに。


「『Library』に取り逃していた情報があるのよ。それがあればきっと、この停滞した状況を打破できるわ」


「ないない。読める本がないし、日本語なんて、古事記の他にあるにしても、きっと古今和歌集が関の山だぜ。仮に翻訳して読もうとすればそれこそ何年もかかる。

部屋は全部見まわったことだし、俺たちをこの空間に閉じ込めたやつが、俺たちにこの『Who am I ?』に答えさせようとしたのなら、情報はみんな集まってると思うぞ。」


なんなのよその根拠のない思い込みは。


「いいえ。私たちが手に入れるべき情報がまだ『Library』に必ず残っているはずよ。それも日本語のね」


「どうしてそんなことが確信できるんだ」


わからずやね。ロールプレイにこだわりすぎて融通が利かないと嫌われるわよ。


「だって、私もあなたも『Library』で〈図書館〉に失敗したじゃない。次成功させれば情報が出てくるわ」


「図書館?『Library』は図書館に違いないが、失敗ってどういうことだよ」


「ロールプレイにそんなにのめりこまなくてもいいと思うわよ。話が面倒くさいし。

それに、少なくともこのシナリオではガチガチのロールプレイは求められていないと思うわよ」


「このシナリオってどういうことだ。お前はやはり知ってるのか」


「さあね。少しは自分で考えてみたら?」


霜雪にそう言い残して私は再び『Library』の部屋へと足を踏み入れた。



「勝手に行動するなっ」


霜雪のそんな言葉が聞こえてきたが、彼は別に追ってこなかった。無理に引き留めるよりも、私の気が済むまで放っておいた方がいいと思われたのかもしれない。


彼は、私の行動がただの自己満足であると思っているようで、それは正直ちょっと不愉快だ。

最初に私たちが『Library』を調べた時のまま床に大量の本が放置されているが、今は関係ない。


私はPCである南夏希の持つ技能の一つである〈図書館〉を使用する。この技能は書物の中から目的の本をいち早く発見するための技能だ。


一度は〈図書館〉を使用したのだが、失敗してしまったため、見つかった本の中に、この状況を打破する手掛かりになるようなものではなかったのである。

だが、時間を置いた今ならもう一度〈図書館〉を使える。


私は本棚を一つ一つ丁寧に調べていく。

こうして背表紙を眺めているだけでも一日を過ごせそうだ。


外国の本が多いことに加え、全体的に古い。


綺麗好きの私としては大掃除を敢行したいところだが、残念掃除用具がない。はたきとか雑巾があればいいのに。


それは冗談にしても、この古びた本の数々。なんとなく正体に察しはついている。


魔導書だ。世界観と本に書かれてた紋様からして、きっと『Despair』にいた怪物たちを召喚できちゃう系の危険なやつだ。


それに動物の皮とか使ってるんだろうなーっていう質感の紙が何冊かあったし、絶対何割かは人の皮でできてるでしょ。やばいよ怖いよ。

え、それに気付いたから正気度チェックですか。そうですか。


あ、減った。


いや、いったん落ち着こう。これらすべてが魔導書だったとすれば色々納得できる点は多い。


あのいや、それにしたって多すぎませんか?

そうしてつまらない一人問答をしながら数十分が経過しただろうか。いくつ目になるのかもわからない本棚に、それはあった。


本の題名は



―――クトゥルー神話TRPG




〈図書館〉が成功したのである。


「本当にあった。マジであった。これは傑作ね」


笑いが止まらない。


私は早速その本を開き本を読み進める。

いや、読み進めるという表現には少々違和感を覚えるかもしれない。

なぜならクトゥルー神話TRPGとは読み物ではなく、クトゥルー神話TRPGというTRPGの基本ルールブックだからだ。


ざっと見た感じ、わたしの知っているものと違いはない。

ただ、一点無視できない部分があった。あるページに開き癖がついていた。

私は自分の想像が間違っていなかったことを確信する。


満足した私はクトゥルー神話TRPGを持って、意気揚々と円柱の部屋へ戻った。


霜雪はノートパソコンへ何かを打ち込んでいっているようだ。


「おう、おかえり。あきらめて戻ってきたか」


「そんなことしないわ。ちゃんと収穫あったわよ」


「おいおい、早くないか?まだ一時間もたってないぞ」


そういいつつも、霜雪は少しうなだれていた。


「しっかし収穫あったのかよマジか…… 俺はずっとパソコンに回答を入力してたんだが、一切成果なし」


「あなたはさっき『Library』に情報なんて残っていないといった発言をしたけれどそこのところはどう思う?


「そうだな。お前が正しかったよ」


霜雪は潔く自分の非を認めた。


「じゃあ早速『Who am I ?』の回答を入力してもいいかしら」


「いいんじゃないか。間違えても別にペナルティとかはないみたいだしな」


私はノートパソコンの前に立ち嘆息する。


きっと正解。だけれど、よくこんな面倒な過程を踏ませたものだ。



私は人差し指で『G』と『M』を入力する。



そしてエンターキーを押し込んだ。

クトゥルー神話を知っていたら想像はついていたかと思います

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