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『タクシー』~息抜き短編集~

作者: 神城弥生

『タクシー』~息抜き短編集~


 時刻は23;45、あと15分ほどで終業時間だ。タクシーは24時間働いて24時間休むというかなり変則的な仕事の為、定年前の体にはかなり堪えた。


「だがあと少しだ。頑張ろう」


 自分に言い聞かせてハンドルを握り直すと、再び夜の街を走る。田舎街な為この時間は人通りがあまりなく、客を一人捕まえるだけでかなり苦労する。駅前で人が電車から降りてくるのを待ってもいいが30分に一本しかない電車、さらにすでに駅前には行列のタクシーが出来ていて流石にそこに並ぶ気にはならなかった。


 特に聞いてるわけでもないが眠気覚ましにラジオを流し鼻歌を歌いながら駅周辺を適当に車を流してみる。


 すると駅から一本路地に入った所で人が立っているのが見えた。


 だが俺は直感する。


 こいつはまずい、と。


 だが仕事の為家族の為、ここで止まらないという選択肢はとれなかった。


 立っている人に近づきその容貌がヘッドライトによって照らされる。全身真っ白な服を着て顔は髪の毛で覆い隠されて俯いていた。


 確実に幽霊だ。


 車を止めてドアを開ける。彼女は音もなく乗車してきた。


「どちらまで?」


 声を震わせながら振り向き尋ねると彼女はまっすぐ指さす。そっちの方向へ行けという事かな?そう思い俺はドアを閉めアクセルを踏む。


 あまり見たくはながバックミラーで彼女を確認すると、そこには何も映ってなかった。


 冷静に、冷静にと自分に言い聞かせながら赤信号で止まった隙を見て振り返ると確かに女性はそこにいた。ほら、幽霊だよ絶対。


 この仕事をしているとたまにいわくつきの話を耳にする。だが実際に体験したのは始めてだった。


「方向はこちらで間違いないですか?」


 振り向いた手前何か話さなきゃと思い声をかけると彼女はただ真っ直ぐ指をさすだけだった。


 兎に角目的地に連れて行って降りてもらおう。それしかないと思い再びアクセルを踏む。


 車は次第に人気のない街の郊外へと向かっていた。緊張して気づかなかったがいつの間にか何故かラジオの音は聞こえなくなっていた。故障かな?とおもい音量を調節するつまみを回してみたが音は出なかった。これもこの幽霊のせいだと思い諦める。


「こちらで間違いないですよね?」


 信号で止まるごとに、存在を確認するように何度も振り返り女性を確認するが女性は常に一定方向をさしたまま身動き一つしなかった。


 再びバックミラーを確認する。いない。振り返る。確かにいる。


 最早気がおかしくなりそうだった。だが目的地まで連れて行って下ろさなければいつまでも彼女はそこにいるだろう。


 時刻はすでに12;30を指していた。帰りたい気持ちを抑え安全運転を心がける。道連れなんてごめんだ。俺には家族がいるんだ。そう何度も言い聞かせる。


 車はついに山道に入った。人気なんてあるわけない。


「こちらで間違いないですか?」


 再び尋ねると変わらず彼女は一定方向をさしたまま動かなかった。どこまで行けばいいのか不安になりながら山道を進む。すると今度は道路がコンクリートから砂利道に変わった。揺れる車の中で俺は「死」を覚悟し始めた。もしかしたらこのまま戻れないかもしれない。そんな予感がしながらも車を走らせる。


 だがいきなりヘッドライトは「通行禁止」の看板を照らし、車を止めると目の前の道はそこで終わりあとは獣道が続くだけだった。


 俺は勇気を振り絞り振り返る。


「この方向で合ってますか?」


 何度目かわからない質問をすると女性は相も変わらず進行方向を指さすだけだった。


 どうしようか、進行方向は行き止まりだ。ため息をつきながら再び前を向くと、そこにはヘッドライトに照らされた首を吊った女性が照らされていた。


 俺は声にならない声を上げ振り返ると、そこにはすでに女性はいなかった。


「見つけてくれてありがとう」


 消えたはずのラジオからそんな女性の声が聞こえた。


 次の日、警察の話では最近行方不明になった女性で間違いないという事だった。女性が消えたのは一週間前だという。そして女性の死因は首を吊った事ではなく性的暴行を加えられたことによるものだった。


 さらに犯人はこの女性をタクシーで乗せた路地裏の道にある家に住んでいたことがわかる。


 彼女は見つけてほしかったのだろう。そして犯人を捕まえてほしかったのだろう。


 俺は毎年彼女の墓にお参りに行っている。安らかに眠ってくれと、おかげで事件は解決したよと報告しながら。

 

 今日も俺はタクシーを運転する。


 俺はどんな乗客がこようとも、たとえそれが幽霊でも必ず目的地に連れていくために。

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