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最終話です。
縦横無尽に空を駆け回る一機の飛行艇と、それを追従する複数の無人戦闘機。今、その内の一つが飛行艇からの攻撃によって撃墜された。
「博士!? 明らかにオーバーテクノロジーなんですが!」
飛行艇の後部座席に立ち、両手に仰々しい兵器を抱えたリアが叫ぶ。無理も無い、彼女が運用している兵器からは、明らかにこの時代のものではない技術によってレーザが発射され、無人戦闘機を次々と撃墜しているのだから。
「まあそれはね。だってリアに装備されている兵器は全部異世界の技術だからねぇ」
「異世界!?」
「ちょっと前に博士が異次元に繋がるワームホール技術を開発しちゃったの。そのときに繋がったのが明らかにSFっぽい世界でね、そこでちょっくら技術をお借りしてきたってわけ」
エルキュールが淡々と説明するが、そんな簡単に説明していいような事では無い。
「ほらリア、また増えたよ。次はあれだ、次元倉庫にあるあれを出そうか」
「次元倉庫? あれ?」
リアの疑問はよそに、隣でディスプレイを操作するエルキュールの手によって、リアの背後の空間が歪む。そこから現れた二体の人型の兵器は空中へと飛び出すと、次々と無人戦闘機を撃墜していく。
「何あれ!? ロボット!?」
丁寧であった口調もどこへ行ってしまったのやら。驚きを口にするリアをよそに、二体のロボットは縦横無尽に飛び回る。
「もう何が何やら……」
「博士、そろそろじゃ無いですか?」
「そうだね、粗方追っても撒いたし、いやちょっと残ってるね。どうせなら全滅させてから行こうか」
撃墜された無人戦闘機の奥から現れた新たな戦闘機に向かっていくロボット二体を見つめながら、リアは呟く。
「なんか深く考えてた自分がバカみたいだ……」
追っ手を全滅させたホーキンス一行は。とある国の島、本島からはかなり離れた無人島に飛行艇を下ろしていた。
「なあ博士、こんな所に来て一体どうするんだ?」
「リア、なんかいきなり随分と口調が荒っぽくなったね」
「なんかもう色々面倒になった」
「まあこれはこれでいいですけどね」
人の手の入っていない森を歩きながら、リアがホーキンスに問いかける。
「まあいいか。こんな時の為に異世界転移の技術は移しておいたのさ。君の兵器の技術を提供してくれた人たちに協力してもらってね」
「そいつらも良く手を貸してくれたなー」
「あちらの世界は兵器とかに関する技術はやたら進んでたけど、人工知能の技術とかは遅れていたからね。こちらからも色々と提供したのさ」
そんな会話をしながら、森の中を進んで行く一行。一応道の様なものはあるが、それでもほとんど原生林の様な状態だ。
リアがその手に持つ巨大な振動するナイフで木々を切り開きながら進んで行く。その先に見えてきたのは、コンクリートで作られたドームの様な施設。
進み出たエルキュールが、そのコンクリートの壁に手を当てながら、手に持った端末を操作していく。
「そういやエルは何で博士に着いて来たんだ?」
「とうとう私にも敬語使うのやめたんだね。まあいいけど……そうだなー、まあ博士の考えにも共感できたし、まあでも一番は面白そうだったからかなー」
かたかたとキーボードを叩きながら、そう答えを返すエルキュールに、怪訝そうな顔をするリア。
「む、イマイチ得心行かない感じだね。大事だよ、面白そうっていう気持ちは。まあ快楽主義って言われたらそれまでだけど。あ、開いた」
ガガガ、と音を立てて、今まで何も無かったコンクリートの壁が二つに割れ、開いていく。
「さ、入ろうか」
コンクリートの門をくぐり、目の前の階段を下りていく。前時代的な蛍光灯が怪しく照らし出す空間の中、三人が無言で歩みを進める。
階段を降りきった先に広がっていたのは、ホーキンス邸の地下にあったような研究室。こちらのほうが随分と広いが、壊れかけの蛍光灯やむき出しの配線等がホーキンスの趣味を伺わせる。
「はあ、いつの間にこっちもこんな感じにしたんですか博士……」
「向こうにも同士が居てね」
異世界にも趣味の合う人間が居るものさ、と満足げに語るホーキンスを尻目に、呆れた表情のエルキュールとリア。
幾多の配線が繋がれ、台座の上に備え付けられた巨大な装置。これが異世界へと繋がる扉を開く装置だという事がリアにも分かった。
「これで異世界に逃げるんだな」
「リア、それは違うよ。僕らは逃げるんじゃ無い、新たな世界へ旅立つのさ」
「同じ様なもんだと思うけど」
今まで何度もした、呆れた様な表情で機械を見て回るリアと、腰に手を当ててドヤ顔で立っているホーキンス。
そんな二人をよそに、エルキュールの手で起動した機械たちが、それぞれ音を立てて発光する。
「にしても凄いな。異世界なんて本当にあるんだな」
「まあ僕もびっくりしたさ。これは偶々出来上がった物だからね」
「え……マジで?」
「そうだよ。なんか博士がどこからか買ってきたよく分からない機械を解析していたら偶々出来ちゃったの。だから理論がどうなってるのかとか良く分からないし」
科学者としてその発言はどうなんだ、とでも言いたげなリアと、目を背ける二人。
「まあちゃんと動くのは立証済みだから、大丈夫でしょ」
「まあ異世界の技術者も首をかしげていたがな」
何故か自身満々なホーキンスと、楽観的なエルキュール。本当に大丈夫なのだろうかという疑問を隠しきれないリアを尻目に、機械は音を立てて起動していく。
「よし、こんなもんかな」
「さすがエル君。仕事が速いね」
「博士は何もしねーのな」
そんなリアのツッコミの最中、転移装置の起動が完全に終わる。
光を放ち音を立てる転移装置の前に立つ三人。
「これでこの世界とはさようならだ。皆、思い残した事は無いかい?」
「無いですね」
「無いな」
ホーキンスの最終確認にも、あっさりとした返事の二人。ホーキンスもそれを見て、満足げに頷く。
「じゃあ、行こうか」
そう呟くと、三人は光り輝く装置に、一歩を踏み出した。
光放つ装置に乗ると、一瞬にして景色が切り替わる、三人の前には一つの小さな扉。リアはその扉に手をかけると、横開きのそれを一気に開ける。
目の前には、前時代的な和式の小さな部屋。そしてそこに座る一人の青年と、一人の少女。
異世界での始めての人間。悪い印象を与えてはいけないと思ったリアが、真っ先に口を開く。
「おいっす兄ちゃん、あーしの名前は……」
これにてリアの物語は終了。本編である「最近俺の部屋が異世界に繋がり過ぎな件」に繋がります。
まあ未だに博士とエルは登場していませんが、その内登場する予定です。




