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異世界極道  作者: 味噌田楽
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第六話  作戦決行

「おいっ馬車が来たぞ!計画通りに頼むぜ。」

俺は横にいるニックに声を掛け、更に向こう替にるクンタにも目配せする。

ここは教会がある山麓に続く道で、丁度500メートル程の直線になっている場所だ。この位置なら見通しも良く、馬車が来ても、道に人が倒れているのが遠くからでもはっきり御者にも見える。

俺とクンタはこのまま道の真ん中に蹲るが、ニックは少し離れてもらう。そうする事で、俺たちを轢き逃げる訳にいかなくなる。なんたって、馬車には教会の紋が入ってるんだからな。

案の定、馬車は蹲る俺たちから少し離れた場所で止まる。いよいよだ。

「ビビるなクンタ!殺しは俺がやる。お前は倒れないように支えるだけでいい!」

「う、うん…」

コイツはバカだし度胸も無ぇ。口を聞かせたらボロが出る。馬車から降りてくる奴は、ニックに相手させる。

「なんだなんだ?病人か?」

馬車から腰に剣を下げた男が下りてきた。コイツは警備兵だな。一人しか降りてこなかったが、まだ馬車には数人の警備兵がいる筈だ。

俺は蹲ったまま、ニックの足を押す。するとニックが、打ち合わせ通りに喋り出す。

「そ、そうなんです!ボクの兄弟なんですが、昨日から急におかしくなっちゃって…もう教会の司祭様に見て只くしかないかと…」

「そっそうだ!山を下りてきたって事は、あれは教会の馬車ですよね!お願いです!少しで良いんで、弟を司祭様に見ていただけませんか!?」

ニックのヤツ、迫真の演技だな。いや、アレは教えられたセリフを喋ってるだけで、マジでビビッてやがる。まぁ、そっちの方が都合がよさそうだ。

警備兵ははぁ…とため息をついて

「司祭様は、これから街に降りられる所だ。お前の願いは聞いて下さらないだろうよ。」

「そっそんな!!」

「…俺の常備薬をやるから、取り敢えずはソレ飲ませとけ。」そう言うと、警備の兵士は、蹲る俺の顔を覗きこもうとした。

俺は蹲ったまま顔を上げず、兵士の足に向かって


『必殺パンチ』


を放つ。兵士は即死し、ガクっと膝を落とす。すかさずニックが上半身を支え、倒れないようにする。これで馬車からは兵士が膝をついているだけの様に見える筈だ。問題はあと何人護衛の兵士が乗っているかだが…


「おい!!何時まで待たせるんだ!サッサと車を出さないか!!」

馬車からは、壮年の男らしい少ししわがれた大声が響く。坊主は一人か?

「何やってるんだ!お前ら全員、様子を見に行けっ!」

馬車から男たちが連れ立って降りてきた。チャンス到来!これで兵士を一網打尽にできる!坊主がバカで良かったぜ。

俺は膝を着く格好で死んでいる兵士越しに、馬車から出てくる兵士の数を数える。…あと二人だ。


「おいカース!何やってんだ!」

「中で司祭様がお冠だぜ。」


先ほどと同じ装備の警備兵が降りてきて、片膝着いた格好の、兵士の死体に手を伸ばす。

一人は人間、一人は…獣人だ。ヤバいなこりゃ。先に獣人を殺して、続けて人間を殺すか…


「なっ何だお前ら!!」


馬車の中から悲鳴が上がる。獣人組が馬車に突入したようだ。

警備兵達は直ぐに馬車の方を振り返り、剣を抜いて走り出そうとする。すかさず俺は立ち上がり、二人の背に向けて、右と左の両腕で同時に『必殺パンチ!!』を放つ。


バタンッ!!


大きな音を立て、二人の男が倒れた。俺は男の手から剣を奪い、その身に突き立てる。もう一人にも同様に、剣で刺し傷を付けておく。後で調べられた時、能力で殺したと悟られるのは面倒だしな。

…死体とは言え人を刺すのは初めてだが、やはり気持ちの良いもんじゃ無ぇな。このグニって感じが嫌だわ。…俺を刺した奴も、こんな感じだったんかねぇ…

さて、此方の仕事はこれで終わりだ。後は獣人組の仕事を見に行こう。棒立ちになって震えているニックの手を叩き、気を持ち直させると俺は、小走りで馬車へと向かう。と、その前に


「クンタ!死体の身ぐるみはいどけ!!」

「うっうん!!」

「あ、ニックも手伝ってやって。」

「分かった。アサカは?」

「俺は向こうの様子を見に行くわ。」

ビビッて立ち尽くしていたクンタとニックに指示を出しておく。なんかやらしときゃ、逃げ出す事も無ぇだろ。

さて、朝っぱらから馬車出して女買いに行くような、お偉い坊さんのツラでも拝みに行くか!




「おっお前らっ!こんな事をして、只で済むと思うなよ!!縛り首!いっいや、今直ぐ警備兵に殺させるからな!!!」

馬車の中では、ハゲ頭の太ったおっさんが、ニーアを睨みながらぎゃあぎゃあと騒いでいた。豪勢な服着てるし、コイツが司祭なんだろ。

「…警備兵なら全員始末したぜ?」

馬車に乗り込みながらそう坊主に声を掛けると、ニーヤの横に膝を着く。

「状況は?」

「御者は縛って猿轡をかけてある。後は金を貰うだけなんだが、コイツが中々金を出さねぇんでな、如何するかってトコだ。」

成程、坊主は状況が理解できてないんだな。んーかと言って、外に出して死体を見せるのも面倒くせえしな…

「仕方ない。殺すか。」

俺はあっさり決断する。モタモタしてる訳には行かねぇ。さっさとズラかんねぇとな。

教会に行く一般の信徒連中は、正面に向かう方の道を使うから、こっちは余り使用頻度は無い。とはいえ、そうもグズグズしてらんねぇ。

この後、馬車だって始末しなくちゃなんねぇし。外の死体も片付けないとだし、後始末が大変だ。

…が、その前にもう一度だけ説得しみるか。


「おい、司祭さん、警備兵なら全員死んだぜ?この騒ぎで、何時までも馬車に現れねぇんだから分かるだろ?」

坊主はキョトンとした顔で俺を見つめる。獣人なら兎も角、人間の子供に脅されているこの状況に、頭が追い付かないんだろう。

「さっさと金を出さないと、お前を殺して馬車ん中探さなきゃなんねぇ。…素直に出せば、命だけは助けてやるが?」

「ひっひいいいいぃ!!」

怒りで頭まで赤くなっていた顔が、今度は青くなって、最後は土気色に変わっていった。顔色ってこんな短時間で変わるのか。

「喚かなくていいから、さっさと金を出せ。」

大声を出さず諭すように坊主に語りかけると、ガタガタと震えながら、座席の脇へ手を伸ばし小柄な宝箱を出してきた。

「こっこの馬車にある金はコレだけだ。ころっ殺さないでくれぇぇっ!」

坊主の手から宝箱をひったくり、ニーヤに渡す。

「鍵。」

「あっああ…」

坊主の懐から鍵が差し出される。それもそのままニーヤに渡し、俺は坊主を睨み続ける。

「おおっ!こりゃ…すげぇ!!」

ニーヤの周りに集まった獣人組から感嘆の声が上がる。どうやら想定以上のゼニが入っていたようだ。俺は坊主から視線を外さず、ニーヤに声を掛ける。

「ニーヤ!」

「おう!こりゃ…500万はあるぜ!それに、宝石とかもあらぁ!」

おおっ流石は坊主。信者から貪ってやがる。信徒共もまさか己の布施が、坊主の女郎買いに使われてるとは思ってないだろな。まぁんな事は如何でもいいや。

「かっカネは渡したんだっ!殺さないでくれるんだろうなっ!」

「ん?いや殺す。『必殺パンチ!』」

俺の小石のように小さな拳を、坊主の膨らみ切った腹に当てると、坊主は声も上げずに、その場にゴトリと横たわる。

「よしっ!撤収準備!」

必死にカネを数えていたニーヤ達、獣人組に声を掛ける。カネ勘定は後にしてくれ。

「…殺したのか?」

「ああ、足が着いたらヤバいからな。」

「御者はどうする?」

そうなんだよな…殺しても良いんだが、そうすると馬車が動かせない。せめて街道から外して、林の中に捨てていきたいんだが…

「えっ!馬車捨てちまうのかよ!勿体ねぇだろ!」

「こんなん俺たちがカネにはできないだろ。それに、俺たちが教会紋付の馬車なんて馬車屋に持って入ったら、強盗しましたって言っているモンだぜ?」

バラして金目の物を漁る時間もないしな。兎に角、馬車が動かせない以上、御者を殺して逃げるしか無いか。

「馬車、動かせるぜ?」


結局、御者は目隠ししてグルグル巻きにすると、警備兵の死体と司祭の死体と共に、馬車の中に寝かせておいた。

そうしてクンタとニックと獣人組に宝箱を持たせて逃がし、俺とニーヤは馬の横に並んで立つ。

「で、如何するんだ?」

ニーヤは馬の轡を持つと、強引に引っ張って街道脇に頭を向けさせる。

「何、簡単さ。こうやって頭を林の方に向けて…離れてろ!!」

そう言うと、ニーヤは自分の爪を伸ばし、馬の尻を切り付けた。驚いた馬は、興奮して物凄い勢いで、林の中に突っ込んで行った。

「これでまぁ、林の奥まで勝手に行くだろ。」

「あの勢いじゃ、街まで抜けちまわないか?」

「大丈夫だろ。馬車が邪魔で林は抜けられない。抜けるとしたら、裸馬になるかだ。」

確かに。それにあの勢いじゃ、舗装されていない林の中では馬車の車輪がもたない。どの路、馬車は立ち往生だな。

馬車が林の中に消えるのを確認すると、俺はニーヤに声を掛ける。

「…俺たちも行こう。今日はこの後も忙しいぞ。」

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