第四話 現状打開
俺たちはゾンダが何時も飲んだくれている酒場へ今日のアガリを持って行くと、店を見回しゾンダを探す…すると、テーブル席で他二人の男と賭け事をやっていた。
「ゾンダ、今日のアガリを持ってきた。」
俺たちが働いて稼いだ金を使って博打かよ。いい気なもんだ。
「あ?幾らだ?其処へ置いて、さっさとネグラへ行きやがれ!!」
今日は随分荒れてるな。どうやら負けが込んでいるらしい。
「今日のアガリは15032ゾルだ。人数分のカネをくれ。…博打の負けで溶ける前にな。」
そう言うと、テーブルに居るゾンダ以外の客が笑いだす。こっちは冗談じゃないんだがな。
勝手に俺たちの取り分を抜いてから渡したいところだが、ゾンダは奴隷商から俺たちを買うとき『カネを誤魔化して主人に伝えたら、即座に首が絞まる』と言う呪縛を追加してある。なので勝手にカネをチョロまかす分けにもいかない。なので博打で文無しなんて事になったら、こっちもお陀仏だ。
ゾンダは赤い顔をして此方を睨み付けると、チッと舌打ちをした後、テーブルの上から1200ゾル分の銀貨と銅貨を投げてきた。俺たちが少しばかり生意気な口をきいたところで、奴からすれば、此処で俺たちを殴ったりして店に目を付けられる方が嫌なんだろう。
俺たちは、日のアガリが50000ゾルを超えた時は、一人頭500ゾル貰える事になっている。…が、5000ゾルを超える事なんてめったにない。
拾ったカネを酒場の亭主に渡し、1160ゾルのパンと干し肉を分けて貰う。そして、釣銭の40ゾルから、10ゾル銅貨を皆に手渡す。これで如何にか首が繋がる。明日まで生きていける。
そして亭主が出してきた、如何考えても1160ゾル分には満たない分量のパンと干し肉を手にすると、皆でネグラへと帰る。…この店の亭主は、奴隷でガキの俺たちからもしっかりとピンハネするクソ野郎だが、俺たちに物を売ってくれる所なんぞ外に無いので、泣き寝入りするしかない。
それにしても…奴らのしているギャンブル、ありゃ何だ?四角いダイスを黒白に三面づつ塗り分け、一人が一回に3個を放り投げ、一番黒が多く出た奴の総取りと言う、酷く簡単なルールだ。
「なんでダイスが作れて、賽の目を入れようって考えが出ないんだ…」
俺だったら、サイコロにし丁半や大小、チンチロなりをやるんだが…それに賽がありゃ人を集めての盆も立つし、盆が立ちゃ先々カブでも手本引きでもできる。
如何やらこの世界の博打は、仲間内でのカネの毟り合いが基本で、賭場立ててやるようなモンじゃ無いらしい。
「これなら、元手が有れば博打で伸し上がれるかもしれねぇ。」と思ったが、それ以前に首輪だ。何をするにも首輪を外さないと先は無い。
「クソっ!どんな世界だろうと『この世の果ても、カネ次第』って事かよ…」
俺たちがネグラにしている、酒場の横の馬小屋に戻ると、皆に干し肉とパンを齧ると、する事も無いんで食い終わった奴からサッサと寝てしまう。朝はこの馬小屋の面倒もみさせられるしな。
だがこの夜、俺は纏まったカネを手にする方法をずっと考えていた。そして、如何にか実行可能な手をひねり出した。だが、その為には俺たち乞食組とかっぱらい組の両方を説得しなければならない。それには幾つか確認しなくちゃいけない事がある。
幸い靴磨き屋は昼頃には手が空くので、明日ニックに言って少し時間を作ってもらおう。何にしろ、こんな生活からは一日でも早くオサラバしなければ。死んじまうぜ。
昼になってから、少し店番をクンタに代わってもらい、街外れの娼館が立ち並ぶ区画へ。店の裏手に回ると、昼間だって言うのに結構な数の馬車が止めてあった。
さっそく馬車止めに忍び込み、お目当ての車を探す…やはりあった!何日か前、アサカが見かけていたのは間違いじゃなかったぜ。
元来た道を戻り、今度は靴磨きの台を数日前、大通りに近い場所に出した場所まで移す。すると午後、日が暮れる少し前辺りの時間に、やはりアサカが見た紋章を付けた馬車が、娼館の方から走って来た。これでもう間違いない。
後は、かっぱらいチームのリーダー、猫野郎のニーヤを口説くだけだ!奴もこのままでは数年で死ぬか、縛り首になるだけだって事は分かってるはずだ。
「後は…俺の【能力】が、人間相手に使い物になるか如何かだな…」
その後は靴磨きの仕事に戻り、夕方になって仕事を手仕舞いし、道具を片付けながら、ニックに「話がある」と、他の連中が気づかぬ様、さり気なく水を向ける。
「…って計画だ。…どう思う?」
「如何って…そんなの上手く行く訳ないよ!第一、あの手の馬車には警備兵が必ず付いてるよ!警備兵は俺たちじゃ太刀打ち出来ないだろ!」
大まかな計画を話しながら、二人で金袋を持って酒場へと向かう。今日のシノギは3000程ゾルを少し切る程度にしかならなかったので、二人で持つような重さじゃ無いんだが、万が一にも持ち逃げしないよう、金袋を持ち歩く際は、二人で持つようゾンダに厳命されている。
「大丈夫だって!ソコは自信がある。…まぁ、かっぱらいチームに話す時、お前にも見せたいものがるから、その時判断してくれても良い。取り合えず、今夜ニーヤんトコへ行くから、一緒に計画を聞いてくれ。」
「…分かったよ。その計画なら、どうせ奴らが手伝ってくれなきゃ、どうしようも無いしね。」
未だ計画自体には反対してそうだが、どうにかニックを【かっぱらいチーム】との話し合いに連れていく事はできたようだ。後は…あの猫野郎を口説けるか?にかかっている。これもまぁ、俺の【能力】が、ちゃんと人相手に発動するか如何かだ。
そしてもう一つ、計画に関する秘密を打ち明けたのち、小便したいからと言って金袋から手を放すと、もう少しだから大丈夫だろうと言って金を運ぶのをアンダと交代する。そしてクンタと荷物持ちをしながら、クンタにも話をする。
その後、ネグラに荷物をしまうと、ゾンダに金を私に行く前に、クンタとアンダに「今夜、かっぱらいチームと少し話をしに行くんで、お前らも付いてこい。」とだけ伝えておいた。
そうしてその日の夜、何時もの如くゾンダに売り上げを渡し、カネを貰ってネグラに戻り、皆でメシを済ませると、俺たちは全員でかっぱらい組のネグラへと向かった。今日はここからが本番だ。
かっぱらい組のネグラはここから20分ぐらいの所にある、安宿の下男部屋だ。俺たちみたいにネグラを借りる代わりに仕事をさせられている訳じゃない。宿屋で働いている下男共が、強盗を引き込んだりとか、店や客の品物を盗んだりしない様、監視をしているのだ。
「何だお前ら、乞食連中が何しにきやがった。食いモンなら恵んでやらねぇぞ?」
ニヤニヤと薄笑いを浮かべ、猫男が扉の前に立ち塞がる。
かっぱらい組は総勢6人で、今は全員が猫系の獣人だ。たしか目の前のコイツは、かっぱらい組の中では一番の年下の筈だが、それでも俺たちより頭一つは大きい。
俺たちは同じゾンダの道具だが、奴らは全員、俺たちを乞食野郎と言ってバカにしている。けっ!奴隷なのは同じだっての。
「いや、ニーヤに話があって来たんだ。取り次いで貰えないか?」
いつもオドオドして、たまにかっぱらい組の連中と会うことがあっても、いつも獣人の顔色を窺って俯いているようなアサカが、今日は何故か堂々とした話しぶりをしてきたので、猫男はビックリした顔をしてしる。どうやら何か感じとったらしい。
するとそれ以上は揶揄ったりせず、黙って扉から離れる。すると部屋の中にいた、他の獣人も此方へ顔をむけてきた。
そして部屋の最奥から、やけに野太い声が、俺たちに向かって掛けられる。
「どうしたどうした。大勢連なって。」
かっぱらい組のリーダー、ニーヤだ。猫の獣人で、確か俺と同じく10歳のはずだ。猫の獣人は成長が早く、寿命も短い。大体30歳程度で死ぬ。
なので奴隷の値も安い。大抵は隷属の首輪を解除出来ず死んでゆく。だから、ここで無益に年を重ねる事は、奴らの方が焦っているはずだ。上手く話を持っていけば、きっと俺たちの計画に乗ってくるだろう。
10歳のニーヤは人間なら15~16歳に当たる。なので体はもう大人の獣人と変わらない。かっぱらい組のリーダーは短期間で変わる事が多いのだが、ニーヤはゾンダに買われた次の日に、当時のかっぱらい組のリーダーを倒し、他の連中をまとめ上げ、3年もリーダーの座を守っている。強く、頭の良い男だ。
「久しぶりだなニーヤ。大きく稼げるアテがあるんだ。手を貸してくれ!」