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異世界極道  作者: 味噌田楽
3/12

第三話   新たな世界と新たな体

「…ってぇなコラってええええええっ!!!!」

自分の声が、まるで女のようになっている。なんじゃこりゃ!?慌てて口元に手を当てる。と、新たな疑問が。手が小せぇ。

「はぁ!?なんなんだこりゃ!?」

思わず大声で喚き立てると、さっきまで目の前でいきり立っていた、犬の面をした男は逃げる様に小走りで去っていった。なんなんだ。全然分けがわからねぇ…

ついさっきまで、変な白い所で訳の分かんねぇ奴に説教臭え筝言われてたと思ったら、今度はオレがガキになってる!?展開が早すぎて頭がおっつかねぇ。

呆然と立ち尽くしていると、段々と頭の中がクリアになってきて、今までの経緯や【鳴海阿坂】としての記憶も徐々に戻ってきた。

…そうだ、俺は転生して、このガキになったんだ…

すると、何処からか手が出てきて、俺の頭に何か布切れのような物を当ててくれた。

「大丈夫?アサカ、頭から血がでてるよ。」

「あ?ああ本当だ。すまねぇ。」

どう言う偶然か知らないが、この世界でも俺の名前はアサカらしい。別に愛着のある名前では無いが、まぁ面倒が無くていいや。

取り合えず、頭の中で記憶を整理して行く。鳴海の記憶は蘇ったが、この世界で今日まで生きてきたガキのアサカの記憶も残っている。なので、この世界の言語も理解できる。それと大体の社会環境なんかもだ。


俺が飛ばされたこの世界は、前の世界よりは文明水準で随分と遅れた感じだ。詳しくはないが、日本で言うと大正辺りか?

例えば、道路は舗装されておらず、土が踏み固められている。そこに馬に似た動物が車を轢かされ走っていた。あれがこの世界での、主たる交通手段の様だ。

街灯があるんで電気があるのかと思ったが、電気の光では無く炎だったし、ガス灯か何かだと思う。

街道では俺たちの外にも何やら食い物の屋台が合ったり、店を構えて服などを売っている所もあったりと、結構な賑わいがある。

更にアサカの記憶を探って行くと…この辺りはいわゆる城下町で、商業施設が集まった辺りらしい。

俺たちのネグラは更に街外れの方らしいが、其処まで行くと靴の汚れなんざ気にする奴は居ないので、この辺りまで出てきて仕事をしているわけだ。

そして改めて自分の状況を確認すると、今の境遇は…10歳程度の孤児らしい。…らしいってのは、物心付いた頃にはもう親は無く、俺の歳を数えてくれる存在は居なかったって事だ。周りのガキどもを見て、自分で大体そんなもんだろうと検討を付けたらしい。

「災難だったね。あの犬野郎、いつも何かしら因縁つけて、靴磨き代を踏み倒していきやがるんだ!」

口を尖らせて怒っているのは、俺と同じグループで物乞いを担当していたニックだ。俺たちはこの辺りで物乞いやら靴磨きやら、まだ如何にか真っ当と言える仕事をしている。

今日は俺ともう一人、クンタが靴磨きを担当し、ニックとアンダが物乞いをしていた。クンタとアンダは年下なので、自然に俺とニックで面倒をみる格好になっている。

…如何やらもう、アサカの記憶は俺の記憶となったらしい。まぁ当然か。二重人格とかでは無く、記憶を融合させただけだからな。

しかし、性格は大きく変わっている。前のアサカの性格は、一言で言えば【卑屈】だった。まぁ、親に捨てられた孤児だしな…


俺たちはみんな、戦災孤児だったり農村の口減らしだったりの親無しで、教会や道端などに捨てられていた所を人買いに買われ、奴隷として育てられた。

この世界では、俺たちみたいなのは孤児奴隷と呼ばれ、そう珍しいものでもない。大抵は6・7歳にで売りにだされる。男は商家や農家に買われ、死ぬまで下働きとしてこき使われる。女は娼館に売られるが、見目の悪いのは下働きだ。

俺は数年前にゾンダって呼ばれている小悪党に買われ、奴のシマで物乞いや靴磨き、商店の小間使いなどをこなして、小金を稼がされている。鵜飼の鵜みたいなものだ。

俺たち以外にも働かされているグループはあり、そっちはかっぱらいやスリなどの真っ当でない仕事をさせられていた。が、その分、俺たちよりマシな待遇を受けている。


「で、今日のアガリは如何?こっちはさっぱりだよ。やっぱ午前中、雨降っていたのが響いたね。」とニックが苦笑いしながら、持ち手の外れた鍋を俺の目の前にぶら下げてみせた。その鍋の中には、薄汚れた数枚のコインが入っている。これなら商家を回って仕事を探した方がマシだった。

「まぁ逆に夕方には俺の方が仕事になるかもな。お前も物乞いは手仕舞って、靴磨きをしてくれよ。」と、顔を上げニックに声を掛けると、その拍子に押さえてあった布切れから、吸収しきれなかった血が一筋、額を伝って垂れ下がってきた。

「あのクソ犬野郎…今度会ったら蹴っ飛ばしてやる!」


夕方になると、朝からの雨で靴を汚した客が大勢やってきた。しかし、クンタの奴はすっとろいので、客が増えると焦ってしまい余計に手が遅くなる。なのでニックにクンタと交代してもらい、クンタには磨く前のブラシ掛けのみをやらせ、如何にか客を捌いた。

こうやって靴磨きをしていると、俺が本当に転生され、生まれ変わったって事と、転生されたこの世界には、様々な種族が居ることを思い知らされる。

犬頭に猫頭、小人に蛇人間。人の体に馬の胴体なんて奴もいた。足が4本で靴も4足なのに「一人分なんだから一人前の500ゾルしか払わないぜ!」なんてぬかしやがる。クソ野郎が。

アンダは盲目なので、物乞い以外の仕事は出来ない。しかし、どうやらエルフの血が入っているらしく、見た目が良いので物乞いでは結構稼ぐ。だが、一人で物乞いをさせるのは危なっかしい。ニックがこっちの手伝いをすると、奴も物乞いは手仕舞わせる。が、遊ばせておく訳にもいかないので、客から銭を受けとる係をやらせる。流石に盲目のガキが手を出す所で、銭を誤魔化したり因縁を付けたりする奴はいないだろうから好都合だ。

日が完全に落ちる頃には如何にか客も捌け、そこそこの銭が貯まる。物乞いの分と合わせると、今日のアガリは15032ゾルだった。

この世界での銭の単位はゾルと言う。1ゾルが1円程度で、生前(?)の俺の感覚にも当てはめやすいので有難い。そして1ゾル、10ゾル、100ゾルまでは、大きさの違う銅貨で作られており、500ゾルからは銀貨、1000ゾルは大銀貨と呼ばれている。5000ゾルからは金貨になっているんだが、俺たち孤児奴隷は金貨なんぞ見た事もない。

「…この10倍のゾルがあれば、俺の首輪が外せるんだが…」

今日のアガリを纏め、金用の革袋に入れると、俺とニックの二人がかりで持ちあげる。クンタとアンダは、靴磨きの道具を持たせ、後ろから着いて来ている。万が一の逃亡防止として、金袋は二人で持つように言われているが、本当はそんな事をしなくても、俺たちは【隷属の首輪】によって、見えない鎖でつながれているから、反抗の仕様がないんだがな。


【隷属の首輪】とは、特定の者に対し、反抗すると締まるようになってる魔法の印だ。それが俺たち孤児奴隷には付いている。ゾンダが人買いから俺たちを買った時に付けられたものだ。

人買いは、必ずこの魔法が使える。コレが使えないと、売った先で奴隷が反抗したりして問題が発生した場合、自分の所為になるからだ。

この一見、非人道的なシステムだが、しかし奴隷に一方的な負担を強いるだけの足枷替わりじゃない。首輪には【一定額の金を飲み込ませると、魔法が解除される】仕組みになっている。


5年ほど前、隣国との戦争で戦災孤児が大勢出来た時、王都では『昨日まで普通に暮らしていた筈の友人の子が、何時の間にか奴隷に落ち、酷い眼にあっている』なんて姿を目の当たりにする人が大勢出て『流石にこの魔法は酷すぎるだろう』と多くの声が上がり、奴隷を利用している店にまで、悪い風評が立つまでになった。

すると、流石の奴隷商人達もバツが悪くなったのか、その改善策として、王都の法律で『この魔法を掛ける場合【一定期間、金を入れないと首輪が締まる】【設定額を入金すると、魔法が解除される】の二つの条件が義務づけられる事となったのだ。

つまり、奴隷の使用主は一定の金額を奴隷に支払わなければならず、そして設定した金額を支払われた奴隷は、晴れて解放されるって訳ある。そして【設定金額は、奴隷購入時の最高10倍まで】と決められていた。

俺たち孤児奴隷は大体1万ゾルで買われて来ていたが、日にゾンダがくれる銭は、一人頭300ゾルである。それにはメシ代も入っていたので、最低でも1ゾルは首輪に入れるとして、この世界の一年は286日なので、10万ゾル貯まるには大体350年近く掛かる計算だ。…普通に死ぬわ!!

だが、俺たち以外にもゾンダは孤児を飼っていて、そっちはかっぱらいやスリなどをさせていた。かっぱらい組は、一人頭600ゾルを貰っている。俺たちの倍だが、向こうは体力勝負だし獣人の子供ばかりだし、それに孤児のかっぱらいは、役人に捕まったら最悪しばり首だ。なので俺みたいな人間のガキは、かっぱらい組には入れない。

「…何をするにせよ、先ずはコイツを何とかしないとな…」

右手で金袋を持ち、空いた左手の指先で、首に巻かれた紐の様に見える魔法印を撫でながら、思い出した【鳴海阿坂】の記憶と、この世界で生きてきた【アサカ】の記憶を漁り、現状を打開する手を模索する。

「このまま使い潰されてたまるかよ!!なんとか成り上がってやる!」


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