第十一話 魔法具屋 ②
さて、もう一つ相談が。つか、こっちの方が俺にとっては一大事なんだが。俺はズボンのポケットから、細長い木片を取り出した。長さはは5センチ程度で、一辺は1センチ角程度の立方体だ。これは、今日から賭場で現金代わりのコマとして使おうと思っているモノだ。具体的には、これを1本100ゾルで貸出し、換金の時は1本80ゾルで換金する。この差額2割が此方の手間賃等となる。つまりはテラ銭だ。
こっちは用具の貸し出しからアドバイザーまでやって、オマケにコマの管理までするんだから、正直かなり良心的な額だと思っている。問題は、この木片を偽造されないか?と言うことだ。これも使って行くウチ、偽物を使ってくる奴が必ず出る。つか、賽を操作しようとする奴よりも、金代わりのこっちの方を狙う奴が出るかもしれない。
兎に角、賭場を開帳する以上、賽の目操作とコマの偽造。最低でもこの2つは、最初のウチに手を打っておきたい。
「婆さん、コレを見てくれ。」
俺は木片をテーブルの上に転がすと、婆さんに手に取るよう促す。
「ん?何だいこれは?」
「これは、俺が開く賭場で、カネの代わりに使わせようと思ってるモノだ。」
「んんん?何でまたそんな、面倒な事をするんだい?普通にカネを使っちゃぁ駄目なのかい?」
婆さんはテーブルの上に転がされた木片を摘み上げると、しげしげと見回している。一緒にニーヤも見回している。そういやコイツに見せるのも初めてだったな。
「まぁ、賭場では大きなカネが動くようになるからな。現金を使うとなると、かっぱらって逃げるヤツとかが出たり、目を離したスキにスられたりとか、面倒事が多くなるんだよ。」
「へぇ…そんなもんかね。しかし…アンタは色々と細かい事に気が付くねぇ。ガキが賭場なんて開いたって、上手く行く訳がないと思っていたが、コイツは如何も、結構上手く行く気がしてきたよ。如何だい、儲かるようなら、アタシにも一枚噛ませておくれよ。」
「へっ!そりゃまだ気が早いぜ。それより婆さん、問題はこれを偽造したり、複製されたりしないようにしたいんだよ。」
「ああ成程。たしかにそりゃ死活問題だ。」
「だろ?何か良い手は無いかい?魔法でチョロチョロっと判別するようなさ。」
正直、俺にはこの魔法ってモンが、何処までの事が出来るのか全くつかめていない。この婆さんなら、魔法について詳しいだろうから、この際、色々聞いておきたい。
「はっ!そんなの簡単だよ。魔石ペイントを塗っておけば良いのさ。」
「魔石ペイント?」
婆さんの説明によると、魔石ペイントと言うのは、その名の通り、魔石を砕いて塗料に混ぜたモノらしい。それを塗布した物体に、個人の魔法を流す事で、ぞの個人の魔法属性を覚えさせることが出来るらしい。そうすると、その魔石ペイントを施したモノに、同じく魔法属性を覚えさせた魔石を近づけると、魔石の質によって光ったり震えたりと、色々な反応をするそうだ。
「その木片にこれを塗って、こっちの魔石にアンタの魔力を流せばいいだけさ。これなら魔力切れになっても、アンタがまた入れれば良いだけだしね。」
「へぇ…便利なモンだな。しかし…良くこんなコッチの用途にピッタリなモンがあるな。」
「なに、こりゃお貴族サマが、自分の領で雇ってる兵の装備に塗ってるんだよ。盗んだり持ち逃げされたりしないようにね。」
「成程。流石お貴族サマともなると、抜け目が無ぇな。」
「けっ!あいつ等ケチ臭いだけさ!」
如何も婆さんは、貴族には良い感情を持ってないらしい。まぁ、ここらに住んでる連中は皆そうか。
「まぁいいさ。アンタらこれ買ってくだろ?さっきのクズ魔石と合わせて3万ゾルで如何だい?」
「おいおい婆さん。俺は1万ゾルしか持ってねぇって言ったろ?負けておくれよ。」
「バカ言ってるんじゃ無いよ!初見の客に2万も引けるわきゃ無いだろ!!それにコレでも結構負けてやってるんだよ!!」
「分かった分かった。3万払うよ。その代わり、他にも色々聞かせてくれないか?」