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ハーレム桃太郎

作者: チャンドラ

「ねぇ、桃太郎。鬼ヶ島までまだなのかしら?」

 気怠そうに旅のお供である犬山一仔いぬやまいつこが訊いてきた。

「まだまだ掛かる。我慢してくれ」

 俺は宥めるように答えた。

 やれやれ全く犬山はせっかちだな……


 俺の名前は桃太郎。

 名前の由来だが桃から生まれてきたから桃太郎とおばあさんが名付けてくれた。


 おばあさんの話では浮気性のおじいさんをシバき倒した後、服に付いた返り血を洗うべく川へ洗濯しに行き、ドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が川から流れて来たとのことだ。

 興味を持ったおばあさんはその桃を家に持ち帰り、家で保管しているとパカンと真っ二つに桃が割れ、中から俺が出てきたそうである。

 俺はおばあさんに愛情たっぷりに育てられた。

 おばあさんは八十歳を超えてるとのことだが、どう見ても二十代前半にしか見えず今も元気いっぱいである。

 これまで俺はおばあさんから、格闘術、剣術など様々な戦闘の極意を教わった。

 ちなみにおじいさんからは女の侍り方を教わった。

 本当、あのクソジジイはどうしようもない。

 何回、おばあさんを怒らせるんだ。

 そして何回死にかけてるんだ。

 無駄に高いその生命力だけは評価できる。


「桃太郎や。お前、鬼ヶ島に行ってきなさい」


 俺が齢十七歳を迎えた日、おばあさんは俺にそう告げるのであった。

 武器を揃え、おばあさんからはきびだんご(おばあさん曰く三時におやつにするといいとのこと)を渡され、鬼退治に繰り出した。


 ちなみに犬山とは昨日、出会った。

 鬼ヶ島に向かう途中の草むらで倒れているのを見かけたのである。

「うぅ.....ダメだ、お腹が空いて力がでない……」

 苦しそうに呟くのが聞こえた。

 犬山は人目を引く綺麗な銀色の髪をしており、犬耳が付いていた。

 俺は心配になり、彼女に話しかけた。

「おい、大丈夫か?」

「お腹が空いて力がでないんだ。もう一歩も動けない……」

 そう言うため、俺は腰に付けていた巾着袋からきびだんごを取り出した。

「ほら、これを食べろ。きっと美味いぞ」

 まだ俺は食べてないから確証が持てないが、きびだんごを犬山に与えることにした。

「ありがとう」

 そう言い、彼女が食べると、

「オエエエエェ! なんだこれは!?」

 犬山は顔を青くし、その場で嘔吐した。

 びちゃびちゃとした茶色い吐瀉物が地面にまき散らし、酸味のある嫌な臭いが鼻孔を突き刺し、思わず顔をしかめた。

「だ、大丈夫か?」

「み、水……」

 あいにく俺は水を持っていない。

 犬山をおんぶしてやった。

「ちょ……何を……」

「近くに村があるからそこまでおぶっていく。俺の責任だしな」

 おばあさんはよく俺に色々とおやつを作ってくれたが、それどれもがあまり美味しくなかった。

 俺はそれなりに食べ慣れていたが、あれは耐性が無い者に食わせて良い代物ではなかったんだな……

 犬山の生命を危惧した俺は急いで村へと向かうこととした。

 到着するとすぐに水と食料を購入し、犬山に渡した。

「ああ、水が美味しい。おにぎりも美味しい……」

 犬山は満足そうに水と食料を口に入れ、もぐもぐと食事を楽しみ始めた。

「いやなんていうか……すまなかったな。あのきびだんご、俺のおばあさんが作ったんだが、そんなにまずかったか?」

「ええ。食べた瞬間、三途の川が見えかけたわ」

 キリッと俺の方を睨んで答えた。

「そ、そうか。それは申し訳なかった」

「まぁ、ここまで運んできて食料をくれたのは感謝してるけど。私、犬族の犬山一仔っていうの。あなたの名前は?」

「俺の名前は桃太朗。桃から生まれたから桃太郎ってつけられたんだ」

「はぁ? 桃から生まれたですって。そんなの信じられないわ」

 まぁ、そうだろうな。

 おじいさんとおばあさん以外、俺が桃から生まれたと言っても信じてくれなかった。

「別に信じなくてもいいさ。それで、なんで犬山はあんなところで倒れてたんだ?」

「鬼に襲われたの」

「鬼に?」

 犬山は「ええ」と答え、説明を始める。

「自分の村に戻る途中だったんだけど、複数の鬼に『金目の物を渡してもらおうか』って言われてこっちも抵抗したんだけど……多勢に無勢。金品はおろか、持ってた弁当まで奪っていってしまったのよ! くそ! あいつら!」

 犬山はグヌヌと歯ぎしりをし、口からは鋭い犬歯が見えた。

「そうか。それは災難だったな。俺、実は鬼退治に向かってたんだ」

「鬼ヶ島って正気かしら? 鬼ヶ島はすごい危険なところって聞くけど大丈夫なの?」

「ああ。おばあさんから色々と指導してもらったからな。腕には自身があるほうだ。宝を奪い返したら犬山の分も返しに行くよ」

 すると、犬山はその場で立ちあがった。

「私も一緒に行ってあげる」

「は?」

「だーかーらー、私も一緒に行くって言ってるの。桃太郎だけじゃ危なそうだし。私、こう見えて強いのよ」

「ありがたいが、さすがに女の子を鬼ヶ島に連れていくわけには……」

 俺の言葉が不服だったのか、犬山は眉を顰めた。

「な~に? 桃太郎、もしかして私の実力が信用できないの?」

「そういうわけじゃないけどさ……」

 言い訳を考え要ると、何やら叫び声が聞こえてきた。

「鬼だー! 鬼がきたぞ! みんな逃げろ!」

 叫び声がした方を見ると、頭にツノが生えた大きな男がこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。

 村人は一斉に鬼のいる逆方向に走り出し、家に篭っていった。

「あれが鬼か……初めて見たが、ツノが生えてる以外は普通の人間に見えるな」

「そうね。私も昨日、初めて見たけどツノ以外は普通の人間と変わらなかったわ……って、あいつ。よく見たら昨日あった鬼のうちの一人だわ!!」

 鬼は俺たちのところに近づいてきた。

「君たち、金目の物を俺に恵んでくれないかな?」

「はぁ? 昨日、私から奪っておいてまだ奪う気なの?」

 犬山は鬼にジト目を向ける。

 鬼はポンとその鬼は手を叩いた。

「ああ! 昨日の。すれじゃ、スッカラカンだよね。それじゃ、君出してくれない?」

 今度は俺に対して乞食してきた。

 よし、斬るか。俺は腰に掛けてある刀に手を掛けた。

「オラァ!」

犬山が鬼に右手で殴りかかった。

「ぐは!」

 派手に鬼は地面に倒れこんだ。そして、犬山は騎乗位のような格好になった。ちなみに騎乗位という意味はジジ……おじいさんから聞いた。

「あんた!」

 犬山は爪を立て、鬼の顔を盛大に引っ掻いた。

「ぎゃぁ!」

 続いて鬼の腕に噛み付いた。鬼の腕からは赤い血が流れた。

「痛い!」

「さんざん!」

 そして、鬼の顎に思いっきりパンチした。

「ぐふ.....」

「人の者を奪っておいて! まだ奪う気かー!」

 犬山は上方向を向いて思っ切り叫んだ。うるさいな。耳がキーンとするぞ。


「犬山。もういいだろ。そいつ、気絶してるぞ」

 鬼は白目を向いていた。顔は傷だらけである。

「ふん。まぁ、これくらいにしといてあげるわ」

 俺たちは鬼を縛り上げ村の警察に引き渡した。


「しかし、犬山。本当に強いんだな。正直、驚いた」

「でしょでしょー!」

 褒められて悪い気がしないのか、犬山は上機嫌になった。

「やっぱり一緒に鬼ヶ島に行って欲しいんだけどいいかな?」

「ええ! もちろんよ! あ、そうだ。鬼から宝、取り返したら分け前は半分ね!」

「アホか! 持ち主に返すに決まってるだろ!」

「えー……」

 犬山は不満そうな顔をした。


 そんなわけで俺と犬山は一緒に鬼退治に向かう事になったのである。

 俺達は今、鬼ヶ島を目指して、森の中を歩いている。

「鬼ヶ島って遠くない? もっと楽に行く方法ないの?」

 犬山が気だるそうに聞いてきた。

「馬車に乗るという方法もあるが、あいにくそんなに金がない。我慢しよう」

「ちぇ」


 すると、遠くにとある人影が目に入った。頭にはツノのような物が見える。

「あれは……もしかして鬼か?」

「そうね! 行ってみましょう!」

 俺たちは人影が見える方へ近づいた。


 三人の鬼が誰かを囲んでいた。

「いい加減、諦めて金目の物を渡せよ。お嬢ちゃん」

 鬼が囲んでいたのは俺より背が高い茶髪の女性だった。露出が多い着物を着ており、手には長い棒を持っている。

 額には金の輪っかのようなものをつけており、履いているズボンの尻のところから茶色い尻尾が生えていた。

「やーだね。あたいの物をあんたらなんかに渡すもんか」

 女性は鬼に対して煽るようにあっかんべーをした。

「しょうがねえな……痛い目見てもしらねえからな」

 鬼のリーダー格がそう言った。ポンポンと金棒を手のひらの上でバウンさせている。

「助太刀させてもらうぞ」

 俺がそう言うと、全員俺の方を見た。

「なんだ、お前は?」

 鬼のうちの一人が訊いてきた。

「俺の名前は桃太郎。お嬢さん、俺たちも助太刀する」

「ありがとう。私、猿本箕羅さるもとみら。よろしく、桃太郎」

 俺は鞘から刀を抜き、臨戦体制に入った。

「桃太郎もお人好しね。まぁ、付き合ってあげるけど」

 犬山は爪を立てた。

「ふん! 三人まとめて金品全部奪ってやる! 行くぞ二人とも!」

 鬼のリーダー格が叫んだ。

 さてと……戦うか。

「うおお!」

 鬼の一人が金棒を持って俺に接近してきた。

 俺は鬼が金棒を振り落とそうとする、その刹那。

 俺は一歩前に移動し、先に剣で鬼の体を斬った。

「ぐわぁぁ!」

 鬼の体からはたくさんの血が流れ出てきた。鬼の血が俺の顔に少し掛かった。鬼はばたりと倒れた。

「峰斬りだ。安心しろ」 

 峰斬りとは殺さない程度に相手を切り裂くことである。

おばあちゃんがよく稽古でやった。おばあちゃんの峰斬りは本当にえぐかった……死ぬか生きるかの瀬戸際を何度も味わった。

 犬山と猿山の方を見ると、犬山はすでに相手を倒していた。

 犬山が対峙した鬼は白目を向いて倒れていた。猿本の方はまだ戦闘中であった。

「オラァ! くらえオラァ!」

 なんどもリーダー格の鬼は金棒を振り下ろすが、ひょいひょいと猿本は避けていった。

 疲れたのかぜぇぜぇとリーダー格の鬼は息を切らした。

「この……ちょこまかと!」

「そんなノロい動きじゃあたいには一発も当たんないよ。しかも、部下たちはやられたみたいだし。もう諦めたら?」

 挑発するように猿本が言う。リーダー格の鬼はイライラした表情を見せた。

「ふざけんな! ここでノコノコ帰ったら鬼崎さんに怒られるんだよぉ!」

 リーダー格の鬼は鬼の元締めと思われる名前の人の名前を出した。

 そして、金棒を思いっきり猿本の脳天めがけて振りかざした。

「危ない!」

 俺は思わず叫んだ。しかし、猿本は、持っていた棒で金棒を受け止めてしまった。

「そんなもん? 今度はこっちから行くよ!」

 猿本は鬼の腹を思いっきり蹴った。

「ぐふ!」

 そして、鬼の胸に棒を突きつけ、

「伸びロッド!」

 そう言うと、棒が伸び、鬼を遠くに弾き飛ばした。

「うわぁぁ!」

 リーダー格の鬼は岩に体をぶつけた。近くに行くと奴は気絶しているようだった。

「お、お前やるな……」

「あんたらもね。一緒に戦ってくれてありがとう。礼を言うよ」

 猿本が手を出してきたので、俺は握手した。

「あなた、なかなか強いのね」

「まぁ、これでも村の防衛隊を勤めているからそれなりにはね」

「そうなのか。俺たちは鬼ヶ島を目指していたんだ。昨日いた村にも鬼が来たんだが……ここにも鬼がいたとはな」

「鬼はいろんなところで悪さするからな。しかし、二人で鬼ヶ島に行くのか? 幾ら何でも危険すぎるぞ」

「ああ。だけど、それでも鬼を倒す。困ってる人たちがいるのに鬼たちを野放しになんかできるもんか」

 そう言うと、猿本が微笑んだ。

「とんだお人好しだな。私も一緒についていこう。いいだろう?」

「確かに心強いがいいのか? 危険だぞ?」

「そんなこと十分承知だよ。私も一緒に戦う。桃太郎がそうしてくれたようにね。私も桃太郎の力になりたい」

 猿本が俺の手を握ってきた。猿本の顔が近かった。力強い目をしており、見つめていると思わず吸い込まれそうな感覚に陥った。

「ちょっとちょっと! 二人とも! 近すぎ離れて!」

 犬山はなぜか怒り、俺と猿本の間に割って入った。猿本は不機嫌そうな顔をした。

 すると、グーという音が猿本から聞こえた。

 猿本は恥ずかしそうに顔を掻いた。

「あはは……桃太郎。助けてもらった身で悪いが実はお腹が空いていてな。何か食べ物持ってないか?」

 すると、犬山が俺の巾着袋から勝手にきびだんごを取り出した。

「それじゃこれあげる!」

 犬山は猿本にきびだんごを渡した。

「な.....お前!」

「ありがとう。いただくぞ」

 止める暇もなく猿本はきびだんごを口に入れた。すると、

「なかなかおいしいな、これ」

 美味しいという予想外の感想を猿本が言った。

「う、嘘だろ……」「嘘……」

 俺と犬山が同時につぶやいた。猿本は首を傾げて俺たちのことを見た。

「ん? どうした?」

「い、いやなんでも」

「あははは……」


 そして猿本を仲間にして、三人で鬼ヶ島を目指し出発した。

 歩くこと三時間ほどすると、日が暮れてきた。

「もう少しで街につく。今日はどこか宿に泊まろう」

「はぁ、でもそんな金あるの?」

 犬山が訝しんだ様子で聞いてきた。俺は自分の貨幣の枚数を確認した。

「うん……二人分しか泊まれないかもな」

 しょうがない。犬山と猿本を宿に泊まらせ、俺は野宿にしよう。

「大丈夫だ。私が払おう。助太刀してくれたお礼にな」

 猿本が大きな金貨を取り出した。

「すごい! 猿本、結構お金持ってるのね!」

「これでも働いてるからな」

 防衛隊で働いていると言っていたが、そうなるとおそらくは俺より年上だろうか。

「そういえば、二人って今何歳なんだ? ちなみに俺は今十七だ」

「私も桃太郎と同じ十七よ!」

 犬山が答えた。

「女性に年齢を聞くとは桃太郎はデリカシーのないやつだな。だが答えてやろう。私は今年で二十一になる。まぁでも気にせずタメ語で話してくれ」

 猿本は俺と犬山の四歳年上のようである。

「そっか。分かった」


 やがて、街についた。ついたのはかなり大きな城下町でたくさんの人が街に溢れていた。

「うわぁ! すごい人がいるね。私の村とは大違いだわ」

 犬山が感心したようにそういった。

「私もこんなに多くの人を見るのは初めてだ」

 猿本も同意した。俺はそもそも、おじいさんとおばあさん以外の人と会うことがない。

 基本的に自給自足の生活をしている。

「そうだな。とりあえず早いとこ、宿に行こう。おそらく明日、鬼ヶ島に到着するから今日はゆっくりとやすまないとな」

『助けてー! ひったくりよー!』

 突然、悲鳴が聞こえてきた。

 俺は悲鳴の聞こえてきた方向を見た。

緑色の髪をした人が手に巾着袋を持って走っていた。周りの人はその様子を見ているものの、誰も追おうとはしない。

 俺はひったくりを追いかけるため、走り出した。

「ちょっと! 桃太郎!」

 犬山が叫ぶが振り向かずそのまま走った。

「しょうがない! 犬山、追いかけるぞ!」

「全く、本当お人好しね」

 ひったくりはそこまで足が早くない。どんどん距離が近づいた。

 奴は後ろを振り向いた。

「げ!」

 そう叫ぶと、嫌そうな顔をした。遠目でわからなかったがひったくりしたのは少女であった。

動きやすそうな緑の着物を着ており、背中がむき出しという変わった着物だった。

「しょうがない!」

 そう言うと、ひったくり犯人から翼が生えた。そして、翼をはためかせ飛びあげった。

「何!」

 驚きのあまり声をあげた。どんどん距離が離されていく。くそ、これでは追いつけない。

「大丈夫だ桃太郎! 私に任せろ!」

 猿本が叫んだ。

「伸びロッド!」

 そう言うと棒が伸び、推進力を使い大きく猿本が飛び上がった。空中でひったくりにしがみついた。

「逃がすか!」

「わわ! バカ! やめろ!」

 二人は空中で暴れ出し、地面に落ちた。

「お、おい! 大丈夫か!」

 俺は心配になり、二人の近くに行った。

「いてて……」「あいたたた……」

 二人は背中を打ったようだがとりあえず無事そうだった。二人の着物がはだけ、非常に目のやり場に困る状況になっている。

 俺は見たさと罪悪感に苛まれた。

「いて」

 犬山が俺の足を蹴ってきた。

「犬山、何するんだ!」

「じ、ジロジロ見てるんじゃないわよ……桃太郎のバカ」

「み、見てないし! てか不可抗力だろ!」

 ギロッとひったくりが俺のことを睨むと俺に対して銃を向けてきた。

「動くな」

 俺は腰の刀に手をかけた。

「銃をおけ。盗んだものを返すんだ」

「なんで赤の他人にとやかく言われなくちゃならないんだ。これは私のもんだ。それ以上近づくなら撃つぞ、いいのか?」

「ほう、撃ってみろよ」

 挑発するように俺は言った。ぐぬぬとひったくりは歯ぎしりをしている。こいつは恐らく撃つ覚悟はないと感じた。

「や、やめろ! 桃太郎を撃つな!」

 猿本がひったくりの腕を掴んだ。しかし、ひったくりの方も抵抗すべく暴れ出した。

「離せ! おい!」

「離すか!」

 ひったくり犯は俺の方を見ていない。俺は鞘を納めた刀でひったくり犯が持っていた銃を弾き飛ばした。

 銃が空高く舞い上がった。

「ああ!」

 再びひったくり犯は翼を出した。しかし、奴が飛び上がる前に俺はジャンプし、銃を手に取った。

「もう観念しろ」

「うう……」

ひったくり犯はうなだれた。

「お前、なんでひったくりなんてしてたんだ?」

「お、鬼に財産を奪われて生活が困窮してたんだ……」

バツが悪そうにひったくり犯が言った。

「鬼か。だが、事情があるにせよ、関係のない人からものを奪ったらそれは鬼と同類だぞ」

「で、でも! お金もなくて……お腹もペコペコだったんだ」

 すると犬山は再び俺の風呂敷から勝手にきびだんごを取り出した。

「そう。それは不運だったわね。それじゃこれあげる」

「お前なぁ……」

 他人に自分が食べて吐いたものを進めるとか鬼畜すぎるだろ。ひったくりはきびだんごを受け取ると、怪訝そうにきびだんごを見つめた。

「おいしいの? これ」

「やめておけ。まずいと思うぞ」

「ふーん」

 特に警戒することもなくひったくりはきびだんごを口に入れた。

「まっず……でも、不思議と腹は膨れた」

「そ、そうか」

 割と普通の感想が帰ってきた。

「えー? 私は美味しかったけどな」

 猿本が不服そうに言った。お前の舌はおかしいのだろう。

「俺たちは鬼退治に向っている。鬼から財宝を奪い返したらお前のも返しに行くよ」

「そう、なら私もついていく。鬼をこの銃で撃ち抜く」

 ひったくり犯がそう言うと、

「はぁ?」「えぇ!?」

 犬山と猿本が同時に驚いた。俺も驚きである。

「や、やめておけよ」

「なんでだ? 私は結構強いぞ。鬼には弾切れで負けたが、今度こそ負けない。あいつら! 絶対に許さん!」

 三人の中で一番、血の気が多そうである。こいつを制御できる自信がない。

「いいだろ? なぁ! ええっと……」

「俺は桃太郎。桃から生まれたから桃太郎って名前をつけられた。お前の名前は?」

雉島趙きじしまちょう。今年で十五歳になる。普段は動物を狩って、動物を市場で売りさばいて生活をしている。桃太郎、これからよろしくな」

 これからよろしくってなんだ。もうついて行く気まんまんじゃないか。

「いや、だからな……お前をついていくわけには」

「たく、あの鬼どもめ! 何が『へへへ、つるぺたのお嬢ちゃん。金目の物を出してもらおうか』だ! 失礼な奴らめ! くそ!」

 全然話を聞いていない。それにしてもつるぺたね……

 確かに三人の中じゃ……

「おい桃太郎。今、失礼なこと考えなかったか?」

雉島は鋭い眼光を俺に向けた。

「き、気のせいだろう」

「そうか。まぁいいや。それじゃ鬼退治に行くか!」

「ちょっと待った!」「待て待て!」

 犬山と猿本が同時に言った。

「ん? なんだ? 犬娘と棒女」

「犬山一仔よ! 何よ犬娘って!」

「猿本箕羅だ! 安直すぎる呼び方はやめろ」

「悪い悪い」

 へらへらと雉島が笑いながら雉島は謝罪した。二人はイライラしながら雉島を睨んだ。


「ま、まぁとりあえず盗んだ物を返しに行くか」

 俺は盗まれた人のところへ巾着を渡しに行った。雉島もひったくりをしたことについては反省したようで、

「すみませんでした……」

 と素直に頭を下げて謝った。


「ねぇ、桃太郎。本当にこいつ連れて行くの?」

 犬山がイライラしながら言った。

「まぁ、本人が来たいというからな……それに実力は確かに高いと思う」

 さっき銃を手に持った時、ズシリと重力感を感じた。あの重い銃を持って走ったり飛んだりしていたのだから身体能力は確かに高いだろう

「このお人好し女たらしが!」

 猿本がひどいことを言ってきた。女たらしって。俺はおじいさんと同類ってか。真面目をモットーに行きて来たのに……

「猿本! お前、ひどいなぁ」

 猿本は手に額をあて、うんざりしたような顔をした。

「さすがは桃太郎。私の実力を分かってるなぁ……さぁ行こう。桃太郎。鬼どもを虐殺しにな」

「虐殺はするな!」


 その日、俺たち四人は宿で泊まった。

 次の日、四人で鬼ヶ島を目指して歩き始めた。

 歩きながら、雉島は念入りに銃を磨いていた。

「なぁ、雉島。お前、その銃はどこで手に入れたんだ?」

 銃はあまりこの国では見ない。ポルトガルでは主流の武器として使われているらしいのだが。

「えっと、種子島に言った時、なんか海に浮かんでたから拾った」

「そ、そうか」

 なんかもう突っ込む気が失せた。



 やがて、俺達は海岸にたどり着いた。

ざざーん、ざざーんと絶え間なく続く波音が妙に心地良い。

「桃太郎。あれが鬼ヶ島?」

 犬山が前に浮かぶ島を指差した。

「ああ、そうだな」

 おばあさんから渡された地図を確かめた。あの、遠くに見える鬼型の大きな岩。間違いない。

あれぞまさしく鬼ヶ島。

「ねぇ。桃太郎。どうやってあそこまで渡るんだ?」

 猿本が訊いた。

「船を借りれる場所が近くにある。そこまで行こう」

 すると、船を借りれる小屋まで歩いた。三分ほどでついたが、小屋には、「本日は定休日。ごめんね!」と看板が立っていた。

「くそが」

 バンとその看板を雉島が銃で撃った。

「おい、やめろバカ!」

 俺は軽く雉島の頭を軽く小突いた。

「ひどいな。桃太郎。だいたい、これじゃ鬼ヶ島にいけないじゃん。どうすんだ?」

「う……」

俺は言葉に詰まった。はっきり言って何も考えてない。

「まさか、何も考えてないわけじゃないわよね?」

犬山がまじまじと見つめてきた。ええ、はい。考えてませんとも。

俺は顔を逸らすと遠くで子供達が木の棒で何かを叩いてるのが見えた。

「何だあれ?」

少し子供達に近づいた。

「お前らー、もっと叩いてやれ!」

何とかバシバシと子供達は亀を叩いていた。

「と、止めないと!」

雉島が慌てた様子で銃を取り出した。

「手伝うぞ、桃太郎。死なない程度に撃ち込んでやる」

「お前は頼むから大人しくしていてくれ!」

俺は子供達のところに駆け寄った。

「ちょっと! 桃太郎! 全くどんだけお人好しよ……」

犬山が呆れた様子だが、亀とて俺にはほっとけない。

「君たち! 亀が困ってるから叩くのはやめなさい」

「お兄さん誰?」

体格が良さげな子供が俺の名前を訊いた。

「俺は桃太郎。桃から生まれたから桃太郎って言うんだ」

すると、子供達は

「桃から生まれただってー!」

「ウケるー!」

「頭おかしいんじゃねー?」

一斉に笑い出した。

このク〇ガキ共……腹立つな。

「ちょっとあなたたち!」

犬山が子供達に食ってかかろうとした。

「待て、犬山!」

俺は犬山を制止した。

「桃太郎……」

俺は小銭入れから銀貨を2枚、取り出した。

「君たち、俺にこれで亀を売ってくれないかな?」

「うん! いいよー!」

銀貨を受け取ると、子供達は満足そうに去って行った。

俺は亀を助けることに成功した。

「全く……桃太郎も甘いわね」

犬山が呆れた顔をした。

「全くだな」

猿本も同感のようである。

「助けていただき感謝いたします。桃太郎殿」

なんと亀が突然、喋り出した。

「か、亀が喋った!」

犬山が叫び声を上げた。猿本も驚愕の表情をしている。雉島は驚いた素振りをみせない。

「はい。私は人間の言葉が理解出来、話すことができるのです。本当に助かりました。なんとお礼をしたら良いことか……」

「いいよ、お礼なんて」

「亀さん、何かくれるの?」

雉島が見返りを求めた。全く、こいつは。

「お前なぁ……」

「もちろんでございます。あなた方を竜宮城へご案内いたしたいのですが、いかかでしょうか?」

「おい、竜宮城とはなんだ?」

猿本が質問した。

「私やお姫様が暮らしている水中にあるお城でございます。おいしい料理や美しい人魚達でたっぷりとおもてなしさせていただきます」

竜宮城か。実はある人物から竜宮城のことを訊いたことがあった。

「竜宮城よりも向こうの島に俺達を運んで欲しいんだが……可能か?」

「はい。それくらいは朝飯前です」

すると、亀は巨大化した。少し大きめの船くらいの大きさになった。

「どうぞお乗りください」

「ありがとう。助かるよ」

俺は亀の甲羅の上に乗った。

「さすが桃太郎! 考えたわね」

「これで鬼ヶ島に乗り込めるな!」

「私、竜宮城行きたかったなー」

三人も亀の甲羅に乗った。


「それでは皆さん! しっかりと捕まっていてください!」

亀はものすごい速度で発進した。盛大に水飛沫を上げながら鬼ヶ島に向かう。

油断すれば振り落とされそうである。

「く……やばーい!」

後ろにいた犬山が俺の腰にしがみついてきた。ふと柔らかい感触が背中に感じられた。

「ず、ずるいぞ! 犬山!」

なぜか猿本も便乗して俺の横にしがみついてきた。

「お、お前ら離れろ!」

 雉島まで俺のしがみついてきた。こいつら、何がしたいんだ。

俺は叫んだが二人は離れない。

「なんか楽しそー! 私も混ぜて!」

雉島は俺の方に手をかけてきた。俺は女性三人にしがみつかまれている状態である。

「いやぁ、桃太郎殿はモテモテですなぁ……」

亀は呑気に話した。

「お、お前ら……いい加減にしろー!」

五分後、ようやく鬼ヶ島に到着した。俺達は陸に上がる。

さっきまで女性三人にしがみつかまれ、俺はすでに疲労困憊である。

「到着しました。皆さんのご武運をおいのりしています。それでは!」

亀は水中に潜って行った。

「ちょっと……帰りはどうすんの?」

犬山は不安そうな顔をした。

「鬼ヶ島から一隻船を借りよう」

「それしかないだろうな。桃太郎、準備はいいか?」

猿本の真剣な表情を見て、思わず緊張感が走った。

「ああ」

俺達はおばあさんから渡された地図を頼りに島の中を探索した。道は草木が生え茂っており進むのに一苦労だった。

探索してから十五分後、洞窟の入り口を見つけた。入り口の前には門番と思われる金髪の鬼と銀髪の鬼が立っていた。どちらも身長がかなり高い。

「見張りか……」

「安心しろ。一瞬で打ち抜いてやる」

雉島は銃を構えた。

「やめんか」

俺は雉島の頭を叩いた。

「いたいなぁ……ならどうするんだよ?」

「そうだな……こっちは四人だ。二手に分かれてやつらに襲いかかろう。俺と猿本は金髪の方、犬山と雉島は銀髪の方を狙う。なるべく相手を殺さず気絶させるだけにしろよ」

「分かったわ。雉島、あなたは鬼の脚を撃って頂戴」

「しゃーない。了解した」

 雉島は鬼の脚に狙いを定めた。

「桃太郎、私はまず伸びロッドで攻撃するからその後はお願い」

「ああ、任せてくれ」

一瞬で相手の懐に入り、峰打ちを決めてやる。

「伸びロッド!」

「喰らえ」

猿本と雉島が同時に攻撃した。

「うぎゃあ!」

「いてぇ!」

二人の鬼は奇襲を受けて面食らったようである。

俺と犬山は一瞬で鬼の近くまで詰め寄った。

無言で刀を鞘から抜き、絶命しない程度に鬼の体を切り裂いた。

「うりゃあ!」

犬山は思いっきり鬼の身体を引っ掻いた。

「ぎゃあぁ!」

「うわぁぁ!」

二人の鬼が同時に叫んだ。俺は鬼ヶ島からの血しぶきを浴びた。

鬼は二人とも気絶したようである。

「よし。上出来だな。洞窟の中に入ろう」

「ええ、そうね」

洞窟の中には狭くて薄暗くジメジメしていた。

「な、なんか気持ち悪……」

犬山が不安そうに呟いた。

「大丈夫。何が来ようとも撃ち抜いてやんよ」

雉島は相変わらずのテンションだっな。

通路を抜けると広い場所に出た。

そこでは松明がいくつも置いてあり、たくさんの鬼が酒や食事をして楽しんでいた。

ざっと見た感じだと二十人くらいはいるな。

「お、鬼がたくさん……」

「あ、なんだお前ら?」

一人の鬼が近づいてきた。頭がハゲており、ツノが日本生えている。また、酔ってるのか顔が赤い。

「あなたたち! 人から奪ったものを返しなさい!」

ビシッと犬山が鬼に指を指した。

「なるほど、わざわざノコノコと取られたものを奪い返しにきたってわけか。おめでたいやつらだな。わっはっは」

豪快に鬼は笑い出した。すると、鬼の腕に銃弾が命中し、腕から大量の血が流れた。

撃ったのはもちろん雉島である。

「い、いてぇ! テメェ、何しやがる!!」

他の鬼たちがジリジリと囲みながら近づいてきた。

「桃太郎。こいつだ。私をつるぺたとか言ってきた鬼は」

 雉島の綺麗な緑色の瞳からは静かな怒りが感じられた。

「そ、そうか。だけどお前、いきなりぶっ放すなよ……」

「おい! みんな来るぞ! 構えろ!」

猿本が警戒を促した。俺は刀を取り出し襲撃に備えた。

「お前ら! 徹底的にこいつらを痛めつけろ!」

 先ほど雉島に撃たれた鬼が叫んだ――と同時にたくさんの鬼が俺達に向かってきた。

「うらぁ!」

 俺は体勢を低くし、一気に三人の鬼を刀で切った。バタバタバタと三人の鬼は血を流しがら倒れていった。

 他の三人の状況を見た。

 雉島は洞窟の中を飛び回り、鬼を正確なショットで腕や脚を撃ち抜いて相手の機動力を奪っていた。

 犬山は五人の鬼と一人で戦っており、苦戦していた。

「オラ!」

 一人の鬼が犬山に金棒を振りかざした。犬山はそれを避けるが、別の鬼が犬山の横腹にパンチをした。

「がは!」

 犬山は横方向に飛ばされた。じわじわと鬼が近づいてきた。

「へへへ、お嬢ちゃん。悪いな。容赦しねえぜ」

「な、舐めるんじゃないわよ」

 犬山は息を切らしながらも鋭い爪と牙を出した。

「うがぉぉ!」

 雄叫びを上げて、鬼どもに突進していった。

 三人の内、二人の鬼は鬼山の突進を押さえ込んだ。そして、もう一人の鬼が犬山を攻撃しようとした。

「くらえ」

 犬山は頭に血が登っているのか、自分が攻撃されそうなことに気づいていない。

 俺は犬山を攻撃しようとしている鬼の後ろに移動し、奴の背中を切り裂いた。

「ぎゃぁぁぁ!」

 鬼は背中から血を出し、倒れていった。

「な、何!?」

 犬山の攻撃を押さえ込んでいる鬼が俺の攻撃に驚いたようである。残りの鬼も刀で切り裂き、気絶させた。

「はぁ……はぁ……桃太郎。助かったわ」

「気にするな」

 俺は猿本の方を見た。猿本も複数の鬼と退治しており、不利そうである。

「犬山! 猿本を援助するぞ!」

「分かった!」

 俺と犬山で猿本を援護した。三人で連携して応戦した結果、なんとか鬼を退けることができた。

 雉島も無事そうである。俺たちは次々と鬼を気絶させていった。

 残りはハゲ頭の鬼ただ一人。

「ぐぬぬ……お前ら! よくも仲間を!」

「おとなしく奪った金品を返すんだな」

 刀をハゲ頭の鬼に向けた。

「く!」

「なんの騒ぎじゃ?」

 突如、上の方から声が聞こえた。上の方を見ると、高い所に鬼が立っていた。その鬼は金と銀の派手な着物を身にまとい扇子を手に持っている。

褐色肌をした若々しい姿だが、どことなく俗世離れしたような妖艶な雰囲気を醸し出していた。

ゆっくりとそいつは下に降りてきた。

「お、鬼塚様! こいつら侵入者でございます!」

 こいつが鬼塚か。猿本を襲った鬼が言っていたリーダーがこいつのようである。

「なるほど……こいつら四人が乗り込んできて妾たちの宝物を奪いに来たと」

「左様でございます!」

「何言ってやがる! 元はといえば、お前たちから奪ったんだろ!」

 ふんと鬼塚は鼻で笑った。

「なぁ、鬼道……」

「はい!」

 すると、鬼塚は扇子を開き、それを使ってハゲ頭の鬼の身体を斬った。

「ぎゃぁ!!」

 かなりの切れ味である。あれは鉄扇だろうか。ハゲ頭の鬼の体からたくさんの血飛沫が出てきた。

「役立たずめ。あっさりと侵入を許した挙句、誰一人倒せてもいないとは」

「も、申し訳ございません……」

 こいつ、自分の部下を……恐ろしい奴だな。

 すると、鬼塚はジロリと俺たちの方を見た。

「自己紹介がまだじゃったな。妾は鬼ヶ島のリーダー、鬼塚路代おにづかみちよじゃ。さて、妾は今不機嫌じゃ。痛い目を見たくなければ……このまま帰るがよい」

「冗談じゃないわ! 私の物もあんたたちは奪っていくし! 奪った物を返しなさい!」

「やれやれ、聞き分けのない小娘じゃな。ならもう容赦はせんぞ」

 恐ろしいまでの殺気を肌に感じ、思わず悪寒を感じた。

倒れながらも意識を保っていた鬼たちは全て気を失った。

「な、何これ……」

「身体がおごかない……」

 犬山と猿本がそうつぶやいた。二人は身体をブルブルと震わせている。

「大丈夫か二人とも!」

 俺は心配になり、二人に声を投げかけた。しかし、反応がない。なんだこれ? 奴の能力か? なんで俺は動けるんだろうか。

 そんな中、雉島は銃で狙いを定め、鬼島めがけて発泡した。

 しかし、鬼塚は鉄扇で銃弾の軌道を逸らした。

「ほう……妾が放つ殺気の中、動けるとはお主なかなかやるな。褒めてつかわそう。名はなんという?」

「雉島趙。悪いけど一瞬で終わらせる」

 雉島は翼を出し、そして飛んだ。

「ほう……そんな芸当ができるのか」

 鬼塚は口に扇子を当てて余裕そうにつぶやいた。再び雉島は発砲したがあっさりと鉄扇で防がれてしまった。

鬼塚は雉島に気を取られている。攻めるなら、今だろう。

「鬼塚ァ!」

 俺は鬼塚に斬りかかった。いつもなら、峰斬りを狙うが、手を抜けないと判断したため本気で斬りに行った。

 しかし、刀を鉄扇で、しかも片手だけで防御されてしまった。力を入れているが鬼塚の腕はぴくりとも全く動かない。かなりの力である。

「ふむ、なかなかいい太刀じゃな」

 くそ、こいつ。全然余裕そうだ。俺は雉島を確認した。よし、いけるか。

「いまだ! 雉島撃て!」

 バンという音がこの洞窟内に鳴り響いた。よし、命中しただろうか。

 鬼塚を確認すると、なんと指には銃弾をつまんで持っていた。

「なかなかいい作戦じゃったな。だが、雉島よ。そろそろ妾を高いところから見下ろすのはやめてもらおうか。非常に不愉快じゃ」

 すると、鬼塚は指で銃弾を弾き飛ばした。銃弾は雉島の片翼に命中した。

「く!」

 雉島は地面に落下した。

「雉島!」

「おっと、お主よそ見してる暇はあるのか?」

 刀を弾き飛ばされた。刀が回転しながらくるくると上に舞い上がる。

「終わりじゃ」

 鉄扇で思いっきり腹を切られてしまった。

大量の血が俺の腹から流れ出た。俺は激痛の渦にさらされ、その場で倒れた。

「ふん……所詮は人間、脆いもんじゃの」

 鬼塚は鉄扇に付いた血をペロリと下で舐めながら俺を見下ろした。

「桃太郎! お前よくも!」

 動けなくなっていた犬山が動けるようになり、鬼塚に向かっていった。しかし、ことごとく攻撃を避けられ、犬山は背中を傷つけられた。

「ぎゃあぁ!」

 犬山は叫び声をあげながら倒れた。

「い、犬山……」

 だんだんと意識が朦朧としてきた。

「こ、この!」

 猿本も何とか動き、応戦を始めるが、全くもって鬼塚には通用しない。猿本も鉄扇で身体を傷つけられ倒れこんだ。

「さ、猿本……」

「ふん……所詮こんなもんか。まぁ、それなりに楽しめたかの。さて、そろそろ終いにするかの。まずは犬耳のお前から始末するか」

 ゆっくりと鬼塚は犬山に迫っていった。

「た、助けて桃太郎……」

 犬山が俺に助けを求めた。

 しかし、出血が多いせいか身体に力が全く入らなかった。

「や、やめろ……」

 鬼塚はちらっと俺の方を見た。

「せいぜい仲間が死ぬのを黙って見届けるが良い」

 犬山の近くまで行き、鉄扇を持った腕をあげた。

「やめろ!」

 信じられない力が俺の体から湧き出てきた。俺は刀を拾い、今まで出したこともないスピードで鬼塚に接近し、刀で奴を刺しに行った。

「お、お主……まだそんな力が」

 鉄扇を持ってない方の手で鬼塚は刀身の部分を握った。手からは血が流れ出ている。

「そういえばまだお主の名前を聞いていなかったな。お主、名はなんという?」

 鬼塚が俺の名前を尋ねてきた。

「俺の名前は桃太郎……桃から生まれた桃太郎だ!」

 すると、なぜか鬼塚は顔をひきつらせた。

「な、なんじゃと……?」

「おらぁ!」

 刀を引き寄せ、今度は奴の頭めがけて斬りにいった。絶対に倒してやる。

 しかし、鉄扇で防御された。しかし、鬼塚の余裕がなくなってきたように感じた。

 距離を取り再び狙いを定める。

 今度は腹を狙って横から斬りに行った。殺してやる……

「くたばれぇ!」

 またもや鉄扇で防がれる。中々、刀身が奴の身体に当たらない。

「随分と荒い口調じゃの。鬼としての本性が出てきたのではないか? のう、桃太郎?」

「う、嘘……桃太郎の頭からツノが!」

 犬山がそう言った。最初、言葉の意味が理解できなかった。

 は? 俺の頭にツノ? 俺は自分の頭を触った。とんがっている突起物のような物が頭に生えているのが分かった。

「どういうことだ……俺が……鬼?」

「我々、鬼はな。普通の人間と違って女性から産まれるわけじゃないのじゃ」

 鬼塚が説明を始めた。

「ど、どういうことだ。それは?」

 雉島が立ち上がり質問した。頭から血を流している。あいつ、無事だったか……

「鬼の女性は子供を産む際、口から桃を出す。しばらくすると桃は大きくなり、やがて桃の中から一人の鬼が生れるのじゃ。ツノが生えるのは個人差があるがだいたい15歳前後くらいじゃな。感情が大きく高ぶるとツノが生えてくると言われておる」

「そ、そんな馬鹿な! それじゃ……」

「ああ。桃太郎。お前は鬼でありながら人間世界で暮らしていたということじゃな。それにしても、どうして人間世界に鬼が生まれる桃が紛れ込んでしまったのかは謎じゃが。まぁ、そんなことはどうでもいい。これからは鬼として暮らすがよい」

 俺は刀を手放し、頭を抱えた。

自分が鬼? 

いまだに信じられない。俺はどうしたらいいんだ。

「現実が受け入られんか。無理もない。しかし、妾が可愛がってやろう。お主、よく見たらなかなかの男前出しの。強さも申し分ない。妾の右腕として寵愛してやろう」

うなだれている俺の肩をポンと鬼塚が叩いた。

 鬼として暮らすか……悪くないかもしれない

「いうことを聞いちゃダメ! 桃太郎!」

 犬山が叫んだ。鬼はいろんな所で敵視されている。

 おばあさんとおじいさんも俺の正体を知ったら侮蔑の目で俺のことを見るだろう。

「お前は私たちと同じ人間だ! 桃太郎!」

 猿本も叫んだ。だが、俺の心には全く響いてこない。

いっそ、鬼塚の言う通り、ここで暮らしていけばいいのかもしれない。

「うわぁ!」

 銃声が聞こえてきた。鬼塚が叫び声をあげた。肩から血を流している。撃ったのはもちろん雉島だった。

 雉島がゆっくりと俺に近づいてきた。

「お、お主……! よくも!」

 鬼塚が先ほどよりもっと強い殺気を放った。しかし、雉島は意に介さぬようであった。

 雉島が俺の前に立つと、ある物を差し出してきた。

「桃太郎。これを食べろ」

 手に持っていたのはきびだんごだった。

「なんでこんなもの……」

「犬山から聞いたぞ。お前だけこのまずいの食べてないらしいな。自分だけずるいぞ。食べろ」

 こんな時に何を言ってるんだ、こいつは。そう思ったがきびだんごを見て、三人と出会った時のことがフラッシュバックされた。

「食べればいいんだろ」

 俺はきびだんごを口に入れた。

うん、やっぱりあんまり美味しくない。

しかし、おばあちゃんのつくるお菓子の味だ。不思議と体力が回復したような気がする。

「桃太郎。鬼とか人間とか関係ない。桃太郎は桃太郎。それ以上でも以下でもない」

 雉島が真顔で俺のことを見てきた。やれやれ、こいつに諭されるとは。

「雉島。貴様、死にたいようじゃな。今すぐあの世に送ってやるわ」

 鬼塚が雉島に鉄扇を振りかざした。さてと……

「お主、正気か?」

 雉島の前に移動し、鉄扇を刀で受け止めた。

「桃太郎や。妾たちは昔から鬼というだけで今まで差別されてきたのじゃぞ。今更お主が人間社会で行きていけると思うか?」

「さぁ……それは正直、分からないな」

 だが、これだけは言える。

「でもな、この三人なら俺を受け入れてくれるはずだ」

 俺は力強くそう言った。

「ええ!」「ああ!」「もちろんだ!」

 三人ともうなづいて同意してくれた。

「やれやれ、しょうがない。ならば、まとめて始末するかの。貴様ら覚悟するがよい!」

 鬼塚から今日、一番の殺気を感じた。警戒せねば。

 犬山と猿本も俺の近くにやってきた。

「みんな! 行くぞ!」

 すると、猿本が俺の肩に触れた。

「桃太郎。少し下がってくれ」

「え? ああ……」

俺は猿本の後ろに移動した。

「伸びロッド!」

 棒が伸び、ものすごいスピードで鬼塚に迫って行った。しかし、あっさりと手で捕まれ防がれてしまった。

「何度やっても無駄じゃ!」

 間髪入れずに雉島が発砲した。

 鬼塚が慌てた様子で銃弾を鉄扇で弾いた。

「く! 小癪な!」

 そして、犬山が俺の腕を掴み、鬼塚の近くまで先導した。

「今度は私たちが行くわよ桃太郎!」

「ああ!」

 近距離から犬山と二人掛かりで攻めた。俺の太刀は鉄扇で防御され、犬山の爪攻撃や噛みつき攻撃は華麗な動きで避けられた。

 やはり、これでもまだ有利な状況には持ち込めない。

「うおお!」

 猿本も棒を片手に参戦した。やけくそに棒を振り回した。

「お、おのれ! 小賢しい!」

 ついに鬼塚が後手に周り始めた。何度か猿本の持っている棒が鬼塚の体に当たり、痛いのか顔をしかめている。

「あぐ!」

 バンという銃声の後、鬼塚が声を上げた。

鬼塚の脚から血が流れていた。雉島が床に寝そべりながら銃を握りしめていた。銃口からは煙が巻き起こっていた。

 どうやら低い位置から狙撃したようだ。鬼塚の動きが鈍った。

 そして、犬山と猿本が二人掛かりで鬼塚の身体を押さえ込んだ。

「今だ! やれ!」

「止めよ! 桃太郎!」

 さすがにやばいと思ったのか、鬼塚は青ざめた顔をした。

「や、やめろ! 桃太郎! 同胞である妾を殺す気か!?」

 俺は鬼塚の首に刀身を当てた。

「斬れ! 桃太郎!」

 雉島の声が俺の耳に届く。

 刀に力を入れた。


 俺はおばあちゃんとの稽古を思い出した。

 以前、おばあちゃんにこんなことを言われたことがある。

「桃太郎や。お前は甘さがある」

 その時の俺はむしろおばあちゃんの方が容赦無いと思った。

毎度毎度、稽古で死にかけたからな。

「そ、そうかな……」

「ああ。戦う時は相手を殺すつもりで戦わなきゃならん。いいか? 世の中には話し合いじゃ通じない時もあるからの」


 俺は今まで誰も殺めたことがない。しかし、今こそこの鬼を殺す時。


「うぉぉ!」

 鬼塚の首を斬った。頭部と首が分離される。

 頭部を失った首から、まるで噴水のように大量の血が吹き出てきた。

 ボトッと鬼塚の頭が地面に落ちた。

 何とか、鬼塚を倒せた。


「みんな、大丈夫だったか?」

 俺は三人の安否を確認した。

「ま、まぁ」

「問題ない」

「うん」

 鬼とはいえ、俺は初めて他人を殺めた。

これが正しいのか自分でも分からない。

「俺は正しかったのだろうか?」

 ひとりごとのように呟いた。

「あたいの意見だが、桃太郎は正しかったと思うぞ。いくら言っても鬼塚は考え方を改めないだろう」

 猿本が諭すように言った。

「そうね。鬼塚は人間を恨んでいたけど、でもそもそも人間と仲良くしようと思ってなかったわ。それよりも桃太郎。早く鬼達が奪ったものを持ち帰りましょう!」

「そうだな」

 洞窟の中を隈なく探すとたくさんの金品、宝物の類が出てきた。三人で協力し、海岸沿いまで運び出した。

「さてと……次に船を探さないとな」

 突然、水中から何かが出てきた。

現われたのは俺たちを鬼ヶ島まで運んでくれた亀である。

「これはこれは、皆様負傷しているようですが大丈夫ですか? すぐに向こうの島に届けてあげましょう」

「ありがとう。それよりもこの荷物量だと一度に全員で戻るのは難しそうだな。ちょっと、船を探してくる」

 鬼ヶ島にきた時よりも鬼達から取り返した金品や宝物で荷物が格段に増えた。

「それならご安心を。増援を呼んでおきました」

 すると水中から二匹の大亀が出てきた。

「どうぞ我々にお乗りください!」

 おお、なんと準備のいいことだろうか。

「やるわね、あなたたち!」

 犬山は感心したように言った。


 俺たちは無地、鬼ヶ島から戻った。

 そして、鬼達から取り返した金品や宝物を返して回った。

「鬼達から取り返したものも無事、全て持ち主達に返し終えたな」

「そうね、桃太郎。あなたはこれからどうするの?」

「俺はおばあさんとおじいさんの所に戻る。そして……自分が鬼であったことをちゃんと伝えるつもりだ。犬山はどうするんだ?」

「自分の村に戻る……って言いたいところなんだけど、私も桃太郎のおじいさんとおばあさんに会いに言ってもいい?」

「え? 別に良いけど、どうしてだ?」

「それは……桃太郎を育てた人がどんな人なのか興味が湧いたっていうか……」

「私も気になる。会いに行きたい」

「私もー!」

 猿本と雉島もおじいさんとおばあさんに会いたいようだ。

「しょうがない。それじゃみんなで行くか!」


 それから約二日後、俺は家に戻ってきた。

「ただいまー!」

 ガラガラと家の扉を開けた。

「おかえりなさい。桃太郎。いやー無事に戻ってくれて何よりだ。ん? 何だいこの子達は?」

 おばあさんが笑顔で出迎えてくれた。ちなみに俺は今、頭に笠を被り、ツノを隠している。

 犬山達三人はおばあさんを見て、驚いたような顔をした。

「ああ。紹介するよ。鬼ヶ島に一緒に行ってくれた俺の仲間だ」

「犬族の犬山一仔です」

「猿族の猿本箕羅です。どうぞよろしくお願いします」

「えー、雉族の雉島趙っす」

 三人はそれぞれ自己紹介した。

すると、犬山が俺に耳に小さい声で話しかけてきた。

「ちょっと、桃太郎のおばあさん、若すぎじゃない?」

「あーでも一応、今年で八十三だ」

「嘘でしょ!?」

 すると、おばあさんはこんな質問をした。

「そうかそうか。この子達が桃太郎と一緒に鬼ヶ島に……それで、桃太郎。どの子が彼女だ?」

「は!?」

「え!?」

 犬山と猿本が変な声を上げた。

「お、おばあさんからかうのはやめてくれ.....」

 すると、遠くから眺めていたおじいさんが近くに来た。

「いやーみんなめんこいなぁ。おじちゃんと一緒に遊ばない?」

 おばあさんから凄まじい怒気を感じた。

「あんた! 次から次へと見境なく女に手を出して!」

「ぎゃー! 助けて桃太郎!」

 おばあさんはおじいさんをシバき倒した。

雉島ですら、おばあさんの暴力にドン引きしている。

「うう、ひどいよ……」

 おじいさんは床にうなだれた。まぁ、いつものことだしほっておこう。

「おばあさん。伝えておきたいことがあります」

「ん? なんだい?」

 俺は笠を脱いだ。鬼の証であるツノを見せた。

「俺……実は俺、鬼らしいんだ。鬼のリーダーと戦っている時に生えてきた」

 果たしてどんな反応するだろう。ショックを受けてしまうのではないだろうか。

「ああ。知ってたよ」

「ええ!?」「えー!?」「何!?」「は?」

 俺たち四人、おばあさんの言葉に驚いた。

「実は昔、海安隊に勤めていてな。鬼とは何度かやりあったことがあるんじゃが、鬼がどんな風に生まれてくるのか知ってたのさ。大きな桃が川から流れてきた時、すぐに鬼の桃だって分かったよ」

「そ、それじゃおばあさんは俺が鬼であることを知りながら育てていたのか……」

「まぁ、そうだな……隠していて悪かった。だが私は別にお前が鬼とか気にしなかったからの」

 どうやら俺が抱えていた不安は杞憂だったようだ。

「そっか。そういえばおじいさん。鬼ヶ島の近くの海で竜宮城に連れて行ってくれるとかいう亀に会ったよ」

「おお! 本当か! いやぁ、懐かしいな。竜宮城。確か五十年位前に行ったか。桃太郎も竜宮城に行ったのか?」

「いや、その亀に竜宮城の代わりに鬼ヶ島まで運んでもらったよ」

「かー! もったいないな! 鬼ヶ島なんて後に行けば良かったのに」

「あんた! あんな玉手箱をもらっておいてまだあんなところに行きたいとかいうのか!」

 おばあさんは再び怒り出した。おじいさんは怯えて表情をした。

「い、いえ! もうこりごりです」

 おじいさんは昔、いじめられていた亀を助け、竜宮城でおもてなしを受けた。

帰りに土産として玉手箱を貰い、その玉手箱は絶対に開けてはならないと釘を刺されたのだ。

 しかし、おじいさんは何を考えたのか戻ってきてすぐに玉手箱を開けたらしい。

するとあっという間に老人の姿になり、さらに鶴になるという不思議な力も手に入れた。

 よくおばあさんに暴力を振るわれそうになると鶴になって逃げ出すことがある。

「桃太郎のおじいさん、竜宮城に行ったことがあるんだ」

 羨ましそうに雉島が言った。そういえば、こいつ行きたそうにしてたな。

「まぁな」

「桃太郎。実はな、鬼ヶ島はこの国に複数、存在する。しばらくしたら、また鬼退治に行ってきて欲しい」

 おばあさんが俺に再び鬼退治の使命を課してきた。

鬼ヶ島って一つだけじゃなかったのか。

「分かりました!」


 俺は一度、三人と別れ三日ほど自宅で過ごした。

 そして、再び鬼退治の旅に出る。またもやおばあさんからきびだんごをもらった。

「さーてと.....出発するか!」

 少し歩くととある三人組の姿が見えた。

「待ってたわよ!」

 犬山と猿本、そして雉島だった。

「お、お前ら……どうして」

「また桃太郎と鬼退治に行きたいの! 構わないでしょ?」

「防衛隊に所属しているあたいとしては悪さをする鬼はほっておけないからな!」

「この銃が暴れたいと叫んでるんだ!」

 俺は思わず笑みが溢れた。やれやれ、こいつらは。

「よし、それじゃ。みんなで鬼ヶ島に出発だ!」

「おー!」「おー!」「おー!」

 三人で腕を空に上げた。


 鬼ヶ島に向かう途中、ガタイの良い男と女がのそのそとこちらに近づいてきた。

男の方は『金』と大きく描かれた赤色の変わった着物を来ている。

女の方は大人っぽい感じの美人でスタイルがいい。髪は肩までかかる長さの栗色である。

 二人は俺の顔をまじまじと見てきた。

「何こいつ?」

「さぁ?」

「やばそうなやつだな。撃つか」

 ガチャっと雉島が銃を取り出す。

「おい、やめろ雉島。あの……」

「お前が桃太郎か?」

 その男が訊いてきた。

「そうだが……あなた達は?」

「私は熊族の熊谷奥留くまがいおくとめ! よろしくね!」

 熊谷と名乗る女性は俺にウィンクしてきた。

「そして、俺の名前は金太郎! お前の噂をとある村で訊いた。鬼を退けたというその力、確かめさせてもらうぞ! 勝負だ! 桃太郎!」

「へ?」


 それが俺と金太郎との初めての出会いであった。

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