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「死ね! このクソ野郎!」
目の前で囚人が拳を振り回している
拳を振り回しているのは20代後半くらいのクソな男で、しゃがんでそれを耐えているいるのは60歳くらいのクソな男だ。
俺は毎日、変わらない日々をこのクソな犯罪者共と過ごしている。
ああ、嫌だ嫌だ。
本当に看守になんてなるんじゃなかった。
あーあ、そうだな。
この見張りの暇な時間「あのー、止めないんで「黙れ」」にでも、
お前らに看守のクソな仕事を説明してやろうじゃないか。
囚人達よりも早くに起きて、朝からあの犯罪者達の醜い顔を見る。声を張り上げて一人一人数える。飯に行くのについて行ってやる。飯も食わずにいじめが無いか、ちゃんと食ってるか見張ってやる。その後の仕事や運動休憩まで見ててやらなきゃいかん。トイレもいちいち報告されてやって、叱りたくもないのに囚人を叱る。寝る前も醜い囚人を見て消灯までしてやる。そのあとも堅い椅子で見ててやる。
「おかんかよっっ!」
いや、おかんの方がましだな、奴らに可愛げなんてものはないし、女もいなけりゃ、もちろん愛情なんてない。
それに加えて、同じ保育園のママ友達も最悪だ。奴らは総じて性格が終わってる。囚人とたいして変わらん。武道訓練なんてその最たるもので1日でも休んだらくず呼ばわり、行ったら行ったで強い先輩にボコボコにされる毎日。雑魚だのなんだの罵られる。
「おいおい……あれやばくないか」
「ああ、もうあのじいちゃんぴくりともしてねえよ……」
「看守も止めないしな」
「あと、さっきのおかんっていきなりなんなんだよ……」
いやいやいや、ホントに人間のやる仕事じゃない。
ストレスフルすぎて20にしてもう禿げそうだ。
あと、交代の時間になっても次の当番がこねぇし。
次の当番は……あーーベルのやつか。
…………さっきまでの話に少し訂正がある。
まあ、その、なんだ……一部の人種にとってはここは天国かもなってことだ。
交代時間の15分遅れで通路を駆けてくる足音がする。
「いやーすまん。新入りを試したんだがなかなか具合がよくってなー。
つい二開戦までいっちまったよ……っておい! なんでケンカ止めてないんだよ!」
ちなみにここは男性刑務所だ。囚人看守共に、男しかいない。そして、施設の出入りは看守でさえ自由に行えない。
……つまり、そういうことだ。
俺は別に差別主義でないし、人のそういったことにとやかく言うつもりもない。
俺はホモと差別が大嫌いです。
しかしその苦労も今晩までだ。
これからは幾分ましになるはずだ。
ああ、今まで長かった……先輩にこびをうり、信頼されるために、所長に何度好みに合いそうな男を送ったかわからない。真面目に勤務を続けて早三年。
やっと、この数多の時間とケツの犠牲により、転属届けが受理されたのだ。
学も、これといった特技もない俺は、看守を止めて食っていける自信はない。なんやかんやいって給料はいいしな……ここ。
そういう訳で今までいた懲役犯の監獄から、併設の第一級死刑囚用の地下独房への転属を希望したのだ。
なんでも、ここの地下独房は女の囚人もいるし、研究所と併設になっているため女研究者もいるのだと。、
「ふう……なんとか命は大丈夫な様だな。おいおい! ちゃんとみててくれよー。時間的に俺の責任になるだろー。それといい加減俺の半径3メートルに入ろうとしないのやめろよなー。今日で最後なんだしさー。」
え?管理は死刑囚の方が大変じゃないかって?
あーお前マジなんもわかってないなー。いいか?
第一級死刑囚ってのってのは人権がろくにねぇんだよ。外出させなくていいし、働かせなくてもいい、ずっと檻の中だ。飯だけ出してほっきゃいい。房は違うが、男も女も一緒の棟にいる。何十にも厳重なセキュリティの奥に奴らはいるから安全だしな。そして、人数が少ない。死刑にするのが惜しい様な情報を持っていたり何かしらの特別な能力があったりするからそうそう処刑されないが、まあ増えることが少ない。何事も第一級はレアでスーパーハイスペックってことだ。世界中から集めているのにたしか今は四人しかいないはずだ。まあ捕まらないってのもあるんだろうが。
「寂しくなるなー。次配属されるのがお前みたいな男前と限らないしなー。
……なあ、一回くらい俺とヤ<バタンッ>
俺はベルをことごとく無視して、部屋から出た。
俺はこの時まさか、あんなことになるなんておもいもしなかった。
思っていたら行かなかったから当たり前だが……。もしもベルが遅刻していなかったら……。もしもベルがもう少し話しやすい内容で話しかけてきていたら……。ベルがホモじゃなかったら……。
…………なんか全部ベルのせいじゃん。腹立ってきた。これだからホモは…。
主人公はノンケです。