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ぼくだけを見つめてくれたきみを  作者: 夢兎
第一章 変わりたい。
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六、葵 四月十四日(日)


 今日も公園に来た。

 今までも来てたから今日も来たという理由ではない。

 葵はもうほとんど、彼に会いたいからという理由で公園に向かっている。


 昨日はおおよそ一週間ぶりに彼の姿を見た。

 今日も来てくれるだろうか。

 そう思いはしても、それほどの不安はない。

 なぜか分からないが、必ず来てくれるような気がしている。



 葵の期待通り、彼は公園に現れた。


 一人と一人の空間。

 それがひどく心地いい。

 この空間が好きだとすら思える。

 彼も自分と同じなのだろうかと、葵は思索にふける。


 葵と同じというのはつまり、話すことが苦手だということだ。

 そう考えると、わざわざ自分のいる場所に来て隣のベンチに腰を下ろしたのに、なにも話しかけてこないことも納得できる。


 同じだったら嬉しさ半分、悲しさ半分。

 嬉しさは当然、自分と同じような人がいてくれて、共感めいたものを覚えられるから。

 悲しさは、そうであれば話しかけたときにこの空間が失われてしまう可能性が高いからだ。


 葵が非干渉だから彼はこの公園に来ているのだとすれば、葵が話しかければ彼はこの公園からいなくなる。

 それは嫌だ。


 昨日、再びこの空間で読書をして過ごし、葵は彼に話しかけてみたいと思った。

 隣にいるのに名前すら知らない彼のことを知りたい。

 読書ではなく、会話をしてみたい。

 でも、彼がそういう人ならそれはしない方がいい。


 ――彼のせいにしちゃダメだ。


 本当は出来ないだけだ。

 彼が嫌がるだろうからしないのではなく、彼が嫌がって来なくなるのが嫌だからしない。

 怖い。


 葵はこの空間を気に入っている。

 一人と一人の空間は心地いい。

 失いたくない。

 けれど、二人の空間になったらと考えてしまう。


 出来ない理由はそれだけではない。


 話しかけるのは苦手だ。

 なんて話しかければいいのか分からない。


 おはよう? こんにちは?

 いきなり話しかけられて驚かせはしないだろうか。

 いつもここに来てますね、とか?

 それはなんだか責めているような感じがする。


 うん、分かった、いいよ、ごめんなさい。

 葵が使えるのは、言われる側のセリフだけ。

 それも一言。


 ――こんなのでどうやってコミュニケーション取るの?

 ――もっと会話する練習とかしとけばよかった!


 心の中で自分に悪態をつく。


 いくら文句を言ったところで、喋れるようにはならない。

 自分は今までなにをしてきたのだろうと呆れてしまう。


 思えば、小学生の頃、躍起になってこの性格を直そうとしたのは、そういうことだったんだろう。

 彼と話したかったのだ。


 今も確かにそう感じている。

 話しかけたい。そのためには、自分を変えなければならない。

 その先に待つのは喪失かもしれない。


 でも、もう、なにもせずに失って後悔するのは嫌だ。

 彼の家庭がよく引っ越しをするのなら、また別れがくる。

 そのときは、ちゃんと知っていたい。

 失うのは怖いし、知ってしまったら戻れないかもしれないけど、知らないまま失うくらいなら、知りたい。


 だから、葵は変わりたい。


 たとえ、その先に喪失しかないのだとしても。


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