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ぼくだけを見つめてくれたきみを  作者: 夢兎
第四章 太陽があるから、ひまわりはよく育つ。
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エピローグ


 そこでしか会えない人がいた。


 そこにしかないもの、そこでしか見れない景色、そこにしか吹かない風。


 多分、それと似たようなものだ。

 行けばそこにいるから、会おうと思えば会えるのに、そこ以外ではすれ違うこともない。


 それは例えばコンビニだったり、図書館だったり、レストランだったりする。

 顔は覚えているからすれ違えば分かる。


 だから本当に、そこでしか会えないのだ。


 住んでいる世界が違うから、そこでしか、会えない。


 それが自分の場合は公園だった。



 自分もその人もいつも本を読んでいた。

 なにも話さず、ただ本を読むだけ。

 一人と一人の空間は心地よかった。


 でも、いつからだったろう。

 話しかけてみたくなった。


 その欲求は日が経つごとに膨らんでいった。

 時間はかかったけれど、話しかけることが出来た。


 そうして、自分とその人は友達になったのだ。


 友達になってからは、二人の空間になった。

 たいした話はしていないけれど、話しているという事実だけで胸が喜びで満たされる。


 いつしか、その人のことを好きだと思うようになった。


 もっと知りたい、もっと話したい、もっと一緒にいたい。

 そう感じるようになったのだ。


 ただ、いくらお互いが想っていたとしても、報われることはない。

 自分とその人は、世界が違う。

 ここ以外では会うことすら出来ない。


 でも、それでも、諦めることは出来なかった。



「おはよう」

「うん、おはよ」



 そっちにはない本を貸して、こっちにはない本を借りて。

 向こうの友達の様子を聞いて、こちらの友達の様子を話して。



「もう夏も終わりだねえ」

「だな。秋休みもあればいい」

「ふふっ、本当それだね。あ、わたし、シルバーウィークは毎年結構暇だったりするよ?」

「ははっ、そっか。なら、来るしかないな」

「やった!」

「嬉しそうだな」

「うん、だって、嬉しいから。……紫苑は?」

「……嬉しくないわけない」



 他愛もない会話をして、照れ笑いをするきみにときめいて。

 ふと顔を上げて、読書中のあなたの横顔にどきどきして。



「秋、かあ。紫苑の季節だね」

「そっか。そうだな……普通は紅葉とかって言うんだろうけど」

「わたしにとっては、紫苑の季節、なの」

「それは、なんていうか、光栄だな」

「誕生日プレゼント、楽しみにしててね」

「ああ」



 忘れるまでもないくらいに一緒にいたい。

 ずっと見つめ続けていたい。


 もしかしたら、一生見つけることは出来ないのかもしれないけれど、いつか二人で出られることを願う。


 だから、これからも――


「じゃあ、また」

 きみに――

「うん、また明日」

 あなたに――


 ――会いにここに来る。



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