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ぼくだけを見つめてくれたきみを  作者: 夢兎
第四章 太陽があるから、ひまわりはよく育つ。
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十、葵 八月二十日(火)十六時


 公園に着いたときから、おかしいとは思っていた。


 ずっと違和感があったのだ。

 それの正体は紫苑と話をしている間に判明した。


 ――紫苑はどこから現れたんだろう。


 公園に着いたら隣にいた。

 紫苑は急いで来たのだろう、息を切らしていた。


 だが、それは葵と同時に到着したことも示している。

 それなのに、葵は公園に着くまで紫苑の姿を見ていない。

 後ろにいたのだとしても、自転車から降りたときなり、気づく機会はいくらでもあったはずなのに。



 どうして、同じ学校の同じクラスなのに顔を見たことがないのか。

 どうして、花火大会の日に紫苑と会えなかったのか。

 どうして、ラウンドワンの見た目が違うのか。

 どうして、電話が繋がらないのか。



 様々な情報を教えあった。


 葵の目には平家に見える両脇の家が、紫苑には片側が二階建てに見えること。

 葵のいる二年C組は三十七人なのに、紫苑のいる二年C組は三十八人いること。

 葵の席が窓際の一番後ろで、紫苑の席はその隣であること。


 席順が出席番号順ではないこと。

 学校が小高い丘の上にあること。

 二年生の教室は三階にあるため、和やかな田舎の景観が望めること。


 全部で五つのクラスがあること。

 転入生なんていなかったこと。

 自宅が公園の北にあること。


 歩いて十五分から二十分程度で着くこと。

 細い路地に面している公園が、紫苑には道路に面しているように見えること。

 葵の帰り道にあるコンビニが紫苑の帰り道にはなく、一番近くのコンビニは大通りを右折しなければ辿り着けないこと。


 葵には雨宮奏という友達がいること。

 紫苑には竹原晴人という友達がいること。

 その二人が付き合っていること。



 本当にいろいろなことを話した。

 話せば話すほど、遠ざかっていく気分に陥った。


 ずっと、住んでいる世界が違うのだと思っていた。

 人それぞれにある生息地のようなものが違って、この公園だけが被っているから、ここでしか会えないのだと思っていた。


 それが、実際はどうだ。

 ほとんど同じだったじゃないか。

 通っている学校も、住んでいる家も、公園までの道のりも、よく遊びにい行く場所も、クラスメイトさえも――


 ――それなのに、一度も会ったことなんてない。


 どういうことなのか。

 考えるまでもなかった。

 そして、その事実に葵は意外にもすんなりと納得できた。


 考えてみれば、おかしなところはあったのだ。


 例えば、公園を出るときに消えてしまったように見えたりだとか。

 例えば、どこを探しても見つからなかったりだとか。

 例えば、そう、紫苑から貰った本の作者が見つからなかったり、だとか。


 今まで特別不思議にも思わなかったことが、今になって思い浮かんでくる。

 納得せざるを得なくしてくる。


 ベンチに座って全てを話し終えてから、葵と紫苑は無言のまま俯いていた。


 遣る瀬ない。

 いまだに信じたくない。


 だから、この公園から出たくなかった。

 出てしまえば、それをまざまざと見せつけられる羽目になる。

 それは勘弁して欲しい。


 もう――心は傷だらけだ。



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