八、葵 六月二日(日)十七時
――間に合わなかった。
十七時を報せる鐘を聞きながら、悲嘆に暮れる。
しかし、足は休めずに自転車を漕ぎ続ける。
――まだ、いるかもしれない。
ここで諦めたら来週になってしまう。
それは出来れば避けたい。
もう来週まで待っているのは嫌なのだ。
今日、会いたい。
本心では、おそらくいないだろうと思っていた。
彼はいつも十七時には帰ってしまう。
今日に限って帰らないとは思えない。
それに、土曜日に彼は現れなかった。
もしかしたら、今日もいないかもしれない。
いるかもしれないし、いないかもしれない。
行ってみなければ分からない。
だから、行く。
決意は固い。
行きも急ぎ、帰りはさらに急ぎ、もうなんだかランニングハイみたいな状態になっている。
明日は筋肉痛になることだろう。
全身は汗に濡れているし、正直、会った瞬間引かれるのではないだろうかと思うが、なり振り構っていられない。
だから、葵は漕ぎ続ける。
西から自宅のある東へ。
そこからいつも通っている道を通ってようやく公園に辿り着いた。
ちらりと腕時計を見やると、時刻は十七時十分頃。
路地裏、ブロック塀の横に自転車を停め、飛び降りるようにして公園へと走る。
ほとんど直角に曲がって公園に踏み込む。
「――え」
「――あっ!」




