七、紫苑 六月二日(日)十七時
午後五時を報せる鐘が鳴る。
この鐘ってどこで鳴ってるんだろ。
いや、まさか寺で鳴ってるだなんて思っちゃいないが。
……確か、防災行政無線の確認だったかな。
試験放送の一環と言うわけだ。
これでは感傷的にもなれない。
ふと空を見上げれば、白々しいほどの青空が視界一杯に広がった。
心の中は雲で覆われているというのに。
……公園に彼女はいるだろうか。
ぼくの右手にはコンビニの袋が提げられている。
小腹が空いたので、コンビニに行ったのだ。
もう今日は来ないだろう。
分かってる。
そんなことは分かりきっている。
が、心の底ではぼくが全く諦めきれていないことは明白だった。
だから、ぼくはこうして、夕飯がもうすぐだというのに、コンビニで食べ物を買って公園に向かっているのだから。
コンビニは公園の北にある。
自宅の方向だ。
とは言っても、帰り道にあるというわけではない。
公園を出て、狭い道路を通って大通りに出る。
そのまま真っ直ぐ脇道を抜けて行けば自宅に着くが、コンビニは大通りを右に曲がって五百メートルほど行ったところにある。
……五百メートルは目測だから、四百メートルかもしれないし、六百メートルかもしれないが。
だいたい公園から徒歩で十五分くらいだ。
自宅まで行くのとそう変わらないな。
そんなわけで、計三十分をかけてコンビニまで行って帰ってきたぼくは、また一人でベンチに座る。
公園にはやっぱり誰もいなかった。
……これを食べ終えたら帰るか。
また来週まで待たなければいけないと思うと気が重い。
こんなことなら昨日、メールを無視して公園に来ていればよかった。
そんなことを考えることになんの意味もないが、どうしても考えてしまう。
「はあ……」
ため息は虚空に溶けて消えていく。
コンビニ袋から出したのは、フランクフルトだ。
パンも入っている。
本当はパンを一つ買ってくるだけのつもりだったのだが……。
あの、レジに並んでる商品の誘惑には毎回負けてしまう。
どうしてだろう、そんなに食い意地は張っていないつもりなんだが。
こうしてぼくみたいなやつが売り上げに貢献するだなと思うと、本当によく出来ているものだと感心してしまいそうになる。
フランクフルトに付属されていたマスタードとケチャップをかけ、食らいつく。
パリッとした皮を破り、嚙みごたえのある肉を引きちぎると、口内に肉汁が溢れ出す。
こんな風に言うと、なんだかいかにも美味そうな気がしないでもない。
久々に食べたが、やっぱりたいして美味しくないんだよなあ。
……それが分かっててなんで買ってしまうのか。
全てこの匂いが悪いのだと思う。
とりあえずぼくが悪くないことだけは間違いない。
もしゃもしゃとフランクフルトを美味しくいただく。
流石にパンを食べる気にはなれない。
パンまで食べてしまったら、マジで夕飯を残す羽目になる。
連絡もなしに夕飯を残したら、まず間違いなく母親に怒られる。
怒られるのは嫌だ。
さて、帰るかとベンチから立ち上がり、ぼくは公園を出るために歩き出した。




