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ぼくだけを見つめてくれたきみを  作者: 夢兎
第二章 会話のない空間に表情は生まれない。
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五、紫苑 六月二日(日)十一時


 ――身体が重い。


 昨日はビリヤードの他にも、ボウリングやカラオケ、ダーツにバッティングセンターにも行った。


 身体を動かすと軋むような痛みに襲われる。

 ボウリングとバッティングセンターの野郎……今度会ったらただじゃおかねえ。


 完全なる八つ当たりを済ませ、くあと欠伸をしてベッドから起き上がる。


 筋肉痛はあるものの、それでも気分は悪くない。

 今日はなにも予定がないし、いつも通りの時間に公園に行ける。

 その事実だけで痛みは和らぐ。


 こんなもの、ぼくの決意の前には塵も同然。

 ぼくはもう誰にも止められない!

 意気揚々と自室を出る。


 階段を降りるのが信じられないくらい辛かった。

 ぼくは階段の前には無力だ。


 ブレッブレだなあ、ぼく。

 デジカメの方がよっぽど安定している。

 無機物に負けた。

 手ブレ補正とかちょっと反則じみてると思うんだが、どうだろう?


 まあ、なんにせよ、この雪辱、晴らさでおくべきか!

 ……初夏でも雪辱って言うのかな。

 まあいいか。


 恨みつらみを勇気に変えて、ぼくは今日、彼女に話しかける! 

 いくらでも後には退けるけど、退かない。

 もう停滞も後退も無しだ。

 当たって砕けろ!

 いや、砕けちゃうのかよ。


 ぼくの心は、寝ぼけているのも相まって、信じられないくらいハイテンションだった。


 これのどこがクールなんだろう。

 本当、人は見かけによらないな。

 人を見た目で判断するなってお母さんに教わらなかったのかよ。

 日本の未来が心配だぜ、やれやれ。


 ……そろそろやめとこう。


 ともあれ。

 こんな感じでぼくの朝は始まる。


 なんだか自分で自分のことが心配になるが、この百分の一くらいしか言葉にはしないから問題はない。

 誰だって頭の中はフェスティバルだ。


 ぼくは土日と平日で生活習慣が変わる。

 だいたいの学生はそうなんじゃないだろうか。


 毎日決まって同じ時間に起きて、同じ時間に寝ているやつがいるのなら、ちょっと会ってみたい。

 爪の垢を煎じて飲ませてくれ。


 別に改めようだなんて思っちゃいない。

 誰も困らないし。

 土日とかぼくの分の朝食用意されてないしな。


 早起きは三文の得どころか割りとマジで損だ。

 だいたい三文とか今でおおよそ三十円くらいだろ?

 寝てた方がマシだな。


 寝る子は育つって格言を知らないのかよ。

 つまりこれは、寝ない子は育たないってことだぜ?

 ぼくは計八時間は……あれ? 八時間?  


 そうか、ぼくは寝るのが遅いから十一時まで寝てたってみんなとそんな変わんないんだ。

 やべえ、墓穴掘った。

 これじゃタダのダメなやつだ。


 ぼくは根っからダメなやつだったんだなあ。

 そりゃあ言ってからやるまでの時間が長いはずだ。

 根が腐ってるんじゃ育つはずがない。

 逆境に打ちのめされること請け合い。


 謎の自分批判を繰り広げながら、少し早めの昼飯を食べる。

 いつもならそれから時間までゆっくりと過ごすところだが、あんまりにもダメなやつだったから、このままだらだらとしていたら決意が揺らぎそうで怖い。


 昼飯を食べ終えて支度を済ませ、ぼくは公園へと歩き出した。



 公園に着いたのは十二時半頃。

 いつもより一時間ほど早い。


 公園には誰もいなかった。

 思い返してみると、ぼくが彼女より早く公園に来たのは初めてかもしれない。


 この間の予想通り、彼女の家がこの近辺だとして、彼女がぼくと同じくらいの時間に家を出ていたなら、別段おかしくもなんともない。


 一人で本を読んでいても、やっぱり特別な空間には思えなかった。


 彼女がいなければ成り立たないのだ。

 それは分かっていたことだが、改めて認識すると、今から自分がやろうとしていることが本当に正しいのかと不安になる。


 いや、正しいか正しくないかなんて関係ないか。

 ぼくがそうしたいのだ。

 それが彼女の意思を踏み躙ることだとしても、ぼくはそうありたい。


 身勝手かもしれない。

 自分勝手かもしれない。

 でも、今更だ。


 ぼくはもともとダメなやつなんだから、身勝手でも自分勝手でもなんらおかしくない。

 むしろ、それでこそだ。

 人間誰だって自分勝手だと開き直るくらいでちょうどいい。


 しかし、その決意も全て、伝える相手がいなければ意味をなさない。



 時刻は午後一時半、彼女が現れるだろう時間になった。


 確か二時くらいが一番暑いんだっけ? 

 六月上旬、ベンチに座っているだけなら暑さはそれほどでもない。


 空を見上げれば水色の絵の具をぶっかけたような色の空が瞳に映る。

 障害物がないため、太陽光線は遠慮なくぼくの瞳を潰しにかかってきた。

 目が、目がー!


 そんなふざけたことを考えているうちに、二時になってしまった。

 ……まさか、今日は来ない?


 昨日はぼくが来れなくて、今日は彼女が来なくて、なんて、そんな偶然があるのだろうか。

 悪いことは重なると言うが、その典型のようだ。


 なにか用事があって遅れてやってくるという可能性はそんなに高くはない気がする。


 ぼくは彼女に用があるから、遅れても来ようという気になるが、彼女もそうだとは限らない。

 今日はもう行くのはやめておこうとなるのが、一般的だと感じる。


 それでも、絶対に来ないとは言い切れない。

 まだ二時だし。


 この時間に用事が済めば、行こうという気になる可能性もあるだろう。

 また来週まで先延ばしは出来るなら避けたいし、本を読むついでだと思って待つことにする。


 そして。



 午後四時――彼女はいまだ現れない。


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