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プロローグ

 そこでしか会えない人がいた。


 そこにしかないもの、そこでしか見れない景色、そこにしか吹かない風。


 多分、それと似たようなものだ。

 行けばそこにいるから、会おうと思えば会えるのに、そこ以外ではすれ違うこともない。


 それは例えばコンビニだったり、図書館だったり、レストランだったりする。

 顔は覚えているからすれ違えば分かる。

 だから、本当にそこでしか会えないんだと思う。


 多分、住んでいる世界が違うのだ。


 上流階級と下流階級とかではなくて、人それぞれが持つ生息地のようなものが違う。

 他全てが違くて、その場所だけは被っているから、そこでしか会えないのだ。


 それが自分の場合は、公園だった。



 小学生の頃、自分はいつも本を読んでいた。


 昔から、人と話をするのが苦手だった。


 話しかけられる分には、一応の受け答えは出来る。

 でも、自分から話しかけたことは、なにかどうしようもない用事があったときを除けば記憶にない。


 一応の受け答えだって、おはようと言われておはようと返す。

 遊びに行こうと言われてうんと返す。

 その程度のものでしかない。


 もっと言えば、自分の気持ちを表現するのが苦手だった。

 端的に言ってしまえば、コミュ障というやつだ。

 だからだろうか。

 大勢の人が集まる場所は好きじゃなかった。

 いつの間にか、寂れた公園が自分の居場所になっていた。


    ****


 気づけば公園にいた。


 ――夢?


 知識として明晰夢という現象があることは知っていたが、なんだか不思議な心持ちだ。


 そこには、自分の他に一人の子供がいた。

 その人もいつも本を読んでいた。

 なにか仲間意識というか、共感めいたものを感じはしたが、自分は結局話しかけることが出来なかった。


 ただ、それでよかったんじゃないかと今では思っている。


 遊具一つなく、人の気配がない公園。

 ぽつんと取り残されたように置かれた二つのベンチ。

 片方に自分が座って、もう片方にその人が座る。

 お互いに無干渉で、ただ静かに本を読む。

 二人の空間ではなく、一人と一人の空間だから、心地よかったのだ。


 居心地のいい空間をわざわざ居心地が悪くする必要はない。

 たとえ、それが逃げでしかないのだとしても、それでいいはずだ。


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