プロローグ
そこでしか会えない人がいた。
そこにしかないもの、そこでしか見れない景色、そこにしか吹かない風。
多分、それと似たようなものだ。
行けばそこにいるから、会おうと思えば会えるのに、そこ以外ではすれ違うこともない。
それは例えばコンビニだったり、図書館だったり、レストランだったりする。
顔は覚えているからすれ違えば分かる。
だから、本当にそこでしか会えないんだと思う。
多分、住んでいる世界が違うのだ。
上流階級と下流階級とかではなくて、人それぞれが持つ生息地のようなものが違う。
他全てが違くて、その場所だけは被っているから、そこでしか会えないのだ。
それが自分の場合は、公園だった。
小学生の頃、自分はいつも本を読んでいた。
昔から、人と話をするのが苦手だった。
話しかけられる分には、一応の受け答えは出来る。
でも、自分から話しかけたことは、なにかどうしようもない用事があったときを除けば記憶にない。
一応の受け答えだって、おはようと言われておはようと返す。
遊びに行こうと言われてうんと返す。
その程度のものでしかない。
もっと言えば、自分の気持ちを表現するのが苦手だった。
端的に言ってしまえば、コミュ障というやつだ。
だからだろうか。
大勢の人が集まる場所は好きじゃなかった。
いつの間にか、寂れた公園が自分の居場所になっていた。
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気づけば公園にいた。
――夢?
知識として明晰夢という現象があることは知っていたが、なんだか不思議な心持ちだ。
そこには、自分の他に一人の子供がいた。
その人もいつも本を読んでいた。
なにか仲間意識というか、共感めいたものを感じはしたが、自分は結局話しかけることが出来なかった。
ただ、それでよかったんじゃないかと今では思っている。
遊具一つなく、人の気配がない公園。
ぽつんと取り残されたように置かれた二つのベンチ。
片方に自分が座って、もう片方にその人が座る。
お互いに無干渉で、ただ静かに本を読む。
二人の空間ではなく、一人と一人の空間だから、心地よかったのだ。
居心地のいい空間をわざわざ居心地が悪くする必要はない。
たとえ、それが逃げでしかないのだとしても、それでいいはずだ。