プロローグ:ある研究者のわかりやすーい(笑)説明
この世には、異能が存在する。異能を持つ者は少なくはないが、その存在は公には知られていない。
故に、教室の一番後ろに座っているクラスメイトが実はそういう存在であったとか、弟もそうだったとか――そんなことはよくある話なのである。
理由などなく、理屈などなく、そうあるからそうなっているものなのだ。
異能が発現する理由は人それぞれだ。好きな人を守りたいからという単純だが確固たる思いをもとに異能を得たというものもいれば、病気で満足に動けない体を憎み、異能が生まれた者もいる。
なぜ現れるのかはわかっていない。一説によれば、強すぎる思いに体が反応した、というかろうじて科学的な説から神が授けてくださった、というトンデモ説まである。――ようするに、まったくもって理解ができていないのだ。
そして、異能がもたらすものは大きく二つ。一つは身体能力の向上。これには個人差があるが、もっとも力のないものでも二十代の男性10人程度を相手にすることができる。この恩恵はそこまで重要視されていない。二つ目こそが重要だと、異能者同士の大きな差を作っているといわれている。それは、異能を得た理由による能力の違い。「人の眼に触れたくない」と願った少女は“透明化”、「弟の病気を治したい」と願った青年は“治癒”の異能を授かった。
最後になってしまったが、もっとも重要なこととして、異能は伝染するとも考えられている。これは正確な表現ではなく、異能を持つほど強い思いは、他者にも伝わる、といったところだ。実際、異能者のかかわる事件に巻き込まれた者は83.9%異能者となっている。また、再び巻き込まれる確率は、97.1%である。
だが、この結果は異能が感染するというよりも、別の結果を示していることのように思える。
異能を知ってしまった者は、異能を惹きつけ、同時に異能に惹きつけられる―そのことを示しているように。
(ミジンコでもわかる異能入門より抜粋)