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Take1 闇

初めまして、小太郎と申します。

この作品をクリックしていただきありがとうございます。

これから始まりますのは、一人の大学生が織りなす波乱万丈の物語。

どうか楽しんでご覧いただけたらと思います。

 雨が降っていた。しとしとではない、まるで叩き付けるような激しい豪雨である。北海道には珍しい台風の上陸だが、生憎とうちのバイト先は営業中である。講義を終えた身としてはいち早く布団へ入り、深い眠りにつきたいところなのだが、あまけに天候も気分も最低であるが、出勤という地獄からは逃れることができない。


 「ふぅ・・・。この台風で店が壊れればいいのに」


 ネガティブな呟きだが、これは本日出勤のバイト全員の意思を的確に表しているだろう。つまり、みんな出勤なんてしたくないのだ。今日この日、出勤でシフト希望をだした一週間前の自分を呪いながら、最高につらい道を歩くのである。

 地下鉄のホームへ電車が到着した。この悪天候で外を歩く者はいない、よって移動は地下鉄か地下歩行空間しかなくなる。車内はまるで有名アーティストのコンサートが狭いライブハウスで行われているかの如く、人々がすし詰めになっていた。無理やり体を押し込むように車内へ。密集したことで温度が上がり、体から染み出る汗が蒸発し、窓ガラスは曇っていた。恐ろしい空間である。バイト先へ行くにはこれに乗るか地上を歩くかの二択。目の前の光景に圧倒され、思わず下車しようとする足を鋼鉄の意思で引き止めた。ここで降りることは遅刻を意味する。うちのバイト先は遅刻に厳しいのだ。


 「・・・なんだこの臭い」


 ドアが閉まると同時に地獄の扉が開いた。熱気、重圧、密着、汗、湿気、臭い、人間から発せられるありとあらゆるマイナスの要素がそこには存在していた。そこはまさにサウナである。サウナ地獄だ。季節は秋という事もあり、私の服装は白の厚地のシャツに赤のセーター、下は紺のデニムパンツに同色のハイカットのスニーカーである。背中に背負っている肩掛けリュックが押しつぶされ、中に入っているペンが突き刺さるのを感じ、顔を顰める。頭からにじみ出る不快な汗によって、ワックスで整えていた黒髪がぺたりと潰れ、顔にかかる。スマートフォンでも取り出すことができるのなら、気を紛らわすこともできるのだが、非常に望み薄である。腕が全く動かせないくらいの密着度は、私から行動の自由を奪っている。


 そんな地獄を数分経験すると、電車は次の駅へ到着した。まるで濁流のごとく人が流れだし、雪崩のごとく人が押し寄せる。神話であるノアの大洪水を彷彿させる人の動きを巧みにかき分け、私が席に腰を下ろしたのは三駅ほど過ぎた頃だった。バイト先まであと四駅。時間にして十分少々といったところだ。普段ならば立っているところだが、この時ばかりは不幸中の幸いとばかりに腰を落ち着けた。


 ふと横を見る。左隣には二十代後半くらいの女性、おそらくOLであろう風体を醸している。汗臭さを気にしているのか、時折自身に香水のような液体を振りかけているが、その甘ったるい匂いは逆効果である。周りからの非難の目が見えないのか、自己中心主義なのか、彼女は定期的に周りに悪臭を振りまいている。右隣にはグレーのスーツを着た中年男性、存在感を遺憾なく発揮する太鼓腹と、たるんだ顔の皮膚に閉じた垂れ目は大きな狸を思わせた。その薄くなった頭髪からは、彼の日ごろのストレスを感じさせてくる。そのストレスからか、誰に話しかけているでもない独り言をぶつぶつと呟いている。それは日本語には聞こえず、かといって英語でも中国語でもない。全く聞いたことのない言語だった。


 (しまった。座る席を間違えたか)


 不幸中の幸いは一転して、不幸でしかなかった。


 それは、あと一駅で到着という時だった。

 

 「────────ッ!!!」


 (なんだ!?)


 突然隣の中年が叫び声をあげた。

 ただ喚き散らしているのでも、怒鳴りつけているのでもない。全く理解できない言語であり、そしてその声は絶望感と失望感、虚無感を与えてきた。肌が粟立つ。髪の毛が逆立ったような錯覚まで起こる。なにか、なにか起きてはいけないことが始まってしまった感覚。私はすぐにでもここから逃げ出したくなった。


 それは乗客も同じようだ。一瞬静寂が訪れた後、一斉に騒乱が幕を上げる。皆一斉に外側へ動き出したのだ、少しでもこの声から逃れるように。この中年から距離をとるように。そして、離れたいのに体がいう事を聞かない私と、叫び声をあげる中年を残して、車内には不思議な空間ができた。


 ここでおかしな感情が私の心を占める。どこか引き寄せられる感覚が、私を襲うのだ。

 他の乗客へ向けていた視線を中年に戻す。私は驚愕を隠せなかった。


 (なんだこれは・・・)


 そこに中年の姿はなかった。中年の形を縁取り、中身をくり抜いたかのような現象。そこには彼の形そのままに闇が広がっていたのだ。それ以外にこの現象を形容する言葉を私は持っていなかった。闇。真黒な何か。その空間だけ何も存在していないような、光の一切を反射しない、すべてを飲み込もうとするかの如き存在感がそこにはあった。


 (触れたい)


 その一心が広がる。私は思わず手を伸ばした。乗客の誰かが叫んでいる、触れてはいけないと私に告げている。もしかしたらそれは隣に座っていたOLかもしれない。しかし、私は手を止めることはなかった。


 そしてついに、手が闇に触れた。


 (この感覚は・・・?)


 そこで、私の意識は文字通り闇へ落ちていったのだった。

第一話いかがでしたでしょうか。

まだ書き始めたばかり故、拙い個所が多く見受けられると思いますが、ご容赦を。

誤字脱字、感想、意見などがありましたら感想版にてよろしくおねがいします。

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