公募ガイド「虎の穴」第16回『浦島太郎 後日談』
第16回課題
終わったところから始まる物語
「桃太郎」「うらしま太郎」など昔話の後日談
『浦島太郎 後日談』 あべせつ
乙姫様から貰った玉手箱を開けると、白い煙がムクムクと立ち込め、太郎はお爺さんになってしまった。いきなり老人になってしまい途方にくれた太郎であるが、知り合いもなく、金もない。とりあえず今夜過ごす場所をどうにかせねばならない。
先程訪れた村に戻ると、古道具屋を探して、この玉手箱を買って欲しいと申し出た。出てきた古道具屋の親父は、強欲そうな顔をしており、玉手箱を見るなりキラリと目を光らせた。
『しめしめ、こりゃあすごい宝だぞ。何とかこいつを騙して安く取り上げてやれば大儲けじゃ』
そう考えた古道具屋は太郎に
『こりゃあ、安物じゃ。古いばかりで値打ちがないわい。まあざっと、こんなもんじゃな』と3日分の飯代にもならない金額を口にした。
太郎は乙姫様がくれた玉手箱が、そんな安い値段であるはずもなかろうと、首を横にふり、店を出て行こうとした。すると行かせまいと、肩に手を掛けた親父と小競り合いになり、太郎はいきなり頬を殴られた。
『泥棒じゃ、泥棒が入ったぞ』
古道具屋の親父は大声を上げ隣近所の人たちを呼び寄せた。
なんだなんだ。何事じゃと人がわらわらと集まってくる。太郎は恐ろしくなって、ほうほうのていで逃げ出した。
確かに玉手箱は太郎のものである。しかし自分はここでは余所者で、あの玉手箱が自分のものであるという証拠がない。泥棒にされて、どんな目にあうかわからぬか考えると太郎は抗う勇気がなかったのである。
人里を離れ森の中を歩いていると、殴られた頬が痛くてたまらない。触ってみると、コブのように腫れて垂れ下がっていた。
エライことになったなあ。
寝場所を求め、ふらふらと当てもなく歩いていると焚き火をしているのが見えた。
こんな森の中に人がいる。やれ嬉しやと近づいていくと、なんと鬼が宴会を開いていた。
ご馳走を前に笛や太鼓で大にぎわいである。
鬼とわかると太郎は腰を抜かさんばかりに驚いたが、楽しそうなお囃子につられ踊り出てしまった。
鬼たちは、なんだなんだと驚いたが、太郎は伊達に竜宮城で三年間、毎日毎日鯛や平目の舞い踊りを見ていただけではない、。自らも超一流の踊り手になっていたのである。
鬼たちは太郎の素晴らしい踊りにやんややんやの大喝采で、酒やご馳走をふるまってくれた上に、邪魔な頬のコブまで取ってくれた。
『明日もまた来いよ』
鬼たちはそう言って土産まで包んで太郎を送り出してくれた。
太郎が先を急ぐと、深い山の中に一軒家があった。中を覗くと山姥が一人住んでいた。
白髪を振り乱し、恐ろしい形相をしていたが、太郎は闇夜を貫く狼の遠吠えのほうが恐ろしく、一夜の宿を山姥に頼んだ。
山姥は鬼から貰った土産に目をつけ、それをくれるならと泊めてくれることになった。
朝になり、太郎が一夜の礼を延べ、出て行こうとすると、雀が縁側に遊びに来ていた。
『可愛い雀じゃな』と太郎が、そこにあった山姥の洗濯のりを少し与えると、山姥が鬼のように怒り、雀の舌を切り取ってしまった。
『お前の舌も切り取ってやろうかあ』
山姥は鬼婆となり太郎を追いかけてくる。
太郎は雀とともに一目散に逃げた。
鬼婆の姿が見えなくなり、ようやく人心地がついた時太郎は思った。
『俺は亀の時もそうだが、生き物に慈悲を出すと、エライ目に会うなあ』
申し訳なく思い傷ついた雀を探し探し歩いた。
『お爺さん、お爺さん、ここですよ。先程は優しくしてくれてありがとう。
お困りのご様子ですから、このツヅラをどうかお持ち下さい』
太郎は小さいツヅラを貰い、丁寧にお礼を言って別れた。
その後、雀の里まで追いかけて来た山姥は大きいツヅラを選んで腰を抜かしていたらしい。
太郎が山を下りる途中、のどが渇いたので、サラサラと流れるキレイな山の清水を口にした。
そのとたん太郎はみるみる若返った。
乙姫様と一緒に暮らした頃の太郎である。
やれ、うれしや
太郎が喜んでもう一口と飲もうとすると、追いかけて来た山姥がそれを見ていたのであろう、太郎の体を突飛ばし、ぐびぐびと飲み干さんばかりの勢いで飲み始めた。
山姥は一口ごとに若返り、あれよあれよという間に赤ん坊になってしまった。
太郎は仕方なく、その赤ん坊を里に連れて行き、雀にもらった宝を元に家を買い、そこで『かぐや』と名付けて大事に育てた。
めでたしめでたし。