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7.ふたりは兄妹

 チョコレートに甘いピンクのツートーン。エプロンドレスにおそろいのヘッドドレス。ふんだんに使われたフリルに、かなり重ね履きしている様子のパニエとペチコート。ニーソックスもフリル付きで、細いピンクのリボンが可愛らしくアクセントになっている。靴までおそろいのチョコレート色。


 足先から頭の天辺まで、見事なまでにコーディネートされた彼女は、先ほどのセリフがなければとても店員とは思えないほどに、見事な衣装に身を包んでいた。


 まあ、それを自分が着たいかどうかは別問題だけど、少なくとも彼女にはとてもよく似合っていた。


「あなた、運がいいわ。あたしには中々会えないのよ?」


 にっこりとほほ笑んだ彼女は、なんだかちょっと色っぽくてこっちが照れる。というか、この人NPCじゃない?


 入った時のセリフは定番だったけど、話している様子がすごく人間味を感じる。手元で何かしているのは、パネルを触っているのではないだろうか。それに、名前の表示が非表示になってる。


「ふーん、ピンクプラチナの子かあ…じゃあ、きっと***くんの関係者だね」


「?」


 一部が雑音が入って聞き取ることが出来なかった。


「あ、本名言っちゃった」


 ぺろっと舌を出して失敗しっぱい、と口にしている。着ている物や言動は少女といってもおかしくないのに、見た目は二十歳を超えていそうな美女だ。


 パネルを見ながら考えているのか、指先が動き、視線が手元にある。


「ふーん。まあここに来た時点で分かってたけど、生産系希望ね。着物かあ~、先は長いな~」


「あの…」


 ひとり言だとは思ったが、思わず口を挟んでしまった。


「あ、ごめんね~。あたしひとり言多いってよく言われるんだよね~」


 ひらひらっと片手を振って、にこっと笑った彼女は、私に近づいてきた。


「私ライトウェルっていうの。よろしくね! よければライトって呼んで頂戴?」


 彼女が名乗った途端、名前の表示が現れた。


「えっと、私はコハクです。…あの、ライトさんは、プレイヤーなんですか?」


「ざ~んねん。おっしいなぁ。あたしはGMなんだ」


「じーえむ…」


「ゲームマスター、略してGM。製作者側の人間ってことよ」


「え?」


 それってこんなに簡単に会える存在じゃないよね。


 思わず及び腰になって後ずさると、彼女はすかさず私の両手を掴んだ。


「逃げちゃイ・ヤ」


 ぞわっと悪寒を感じた。ミニスがつられてか、私から離れて毛を逆立ててフーフーと威嚇している。


「あっ、この子可愛いでしょ? 他の子よりもちょっとAI発達してるから、反応いいはずだよ」


 威嚇にも気にした様子を見せず、ライトはにこにことほほ笑んだ。


「あなたの手にしたODOのゲームカードは、1万人に1人の確率で当たるプラチナカードと同じ仕様になっている、特別製なのよ?」


「1万人に1人…」


「そ。詳しくは言えないけど、ちょっとした特典が色々用意されてるの。うふふ」


 別に特典はなくてもいいから、手を放してくれないかな。


 ていうかお兄ちゃん…どんな手を使ってそれを入手したのか、とっても気になるところなんですが。


 目の前のライトさんに聞くわけにはいかなかった。


 とりあえず、イベントに従ってここに来たのだし、と思って茶色のカードを取り出した。


 ライトさんが手を差し出すので、渡してみる。


「はい、確かに」


 カードを受け取ってにっこりと笑うライトさん。美人の笑顔は眼福です。


 ついでに両手が放してもらえて幸せです。


「このカードだとね~、服飾関係のスキルが覚えられるのよ」


「???」


 正直、まったく意味がわからなかった。


 そう思ったのが思い切り顔に出ていたのだろう、ライトさんはちょっと困ったみたいに首をかしげた。


「えーと、…スキルについて説明しよっか?」


「お願いします!」


 ライトさんノリの割には親切! ちょっと面倒とか思ってごめんなさい!


「スキルは、まあその名の通り技術の事なんだけど、何段階かに分かれて進化していくものなの。よくゲームじゃスキルツリーなんて言うんだけど、まあそれはいいや。ODOにおけるスキルの特徴は、制限がないことと、組み合わせ自由ってことね~」


「………」


「うん、分からないだろうな~って分かって言ってるから、今のところの説明は忘れてもいいよ? まあとにかく、スキルって技術を集めると、いろんなことが出来るようになるわけ」


 その説明ならまだ分かるけど、具体的にはどういうこと?


「そうだな、服飾に関して説明すると…家庭科で雑巾作ったことある?」


 あるある、あります。こくこくと頷く。


「作るまでに、布の大きさを決めたり、切ったり、縫ったりとするでしょ」


 しますします。私の場合布の合わせ目がずれてたり針で自分の指をさしたり、縫い目がガタガタだったりしたけど。


「それらの一つ一つがスキルに当たるの。裁断とか、裁縫とかね。そして、服を作る作業なんかになってくると、型紙を作ったり、縫い方を変えたり、サイズを図ったりなんかするでしょ。それらの一つ一つもスキルなのよ」


「…あの、スキルって一言で言いますけど、それって無限大に…」


「その通り。服飾に限らず、各分野にそれぞれのスキルがあり、また違う分野でも同じようなスキルがある。それこそ無限大にね。でも、だからこそ可能になるのよ。『唯一の夢オンリー・ドリーム』がね」


 正直、ただのVRゲームかと思っていたけど、ライトさんの説明を聞いていると途方もなく思えてきた。


「これ、なんかすごいゲームなんですね」


 そう言うと、ライトさんは少し笑みを深くした。


「まあとにかく、スキルはゲームしてると勝手に理解できるから大丈夫~。ここではスキルで使う道具を上げる」


 ライトさんは、手に持った茶色のカードをくるりと鮮やかな手つきで回して見せた。


 すると、カードだったそれは茶色の木箱に変化した。


 大きさは、ちょっと厚手の辞典ほど。蓋の上部は丸みを帯びていて、二つの蝶つがいと鈍色の留め金が付いていた。


「はいどうぞ~」


 差し出されたので受け取ると、またあの音がした。『初心者の裁縫セット』となっている。


「開けてみて?」


 勧められるまま、突起に噛ませるだけの留め金を外し、ふたを開ける。


「あ…」


 すると中には、裁縫道具が詰まっていた。


 針、待ち針、それらが刺さった針山、指抜き、裁ちばさみ、糸ばさみ、そして、糸がすでに巻かれた糸巻きが白黒ひとつずつ。


「あとは、これね」


 じっと箱の中身を見ていた私の視界に、白い封筒が飛び込んできた。


 受け取ると、『紹介状:裁縫師』となっている。


「NPCの裁縫師に渡すと、基本のスキルを教えてもらえるの。道具持っててもスキルがなきゃただのガラクタ。どこかで裁縫師を見つけて教えてもらってね」


「…それ、NPCじゃなきゃだめなんですか?」


 ふと思いついてそう言ったのだけど、ライトさんの笑顔が若干固まったように見えた。


「もしかしてライトさんからでも、教われるんじゃないですか?」


 駄目押しでもう一言。正直NPCの裁縫師なんてどうやって探したらいいかわからないから、ここでライトさんに教われるならそのほうがいい!


 思わず必死にライトさんのほうをじっと見つめると、視線を明後日のほうに反らすライトさん。


 しばらくそのまま、じっと見つめた。


 見つめて、見つめて、見つめて…


「あーもうっ! 分かった分かった! 本当は裏技なんだからね?」


 よし勝った!


「ありがとうございます!」


 仕方ないわね、と言いたげに、ライトさんは深いため息をついた。






「間違いなく、***くんの身内だ! もう絶対」


 ライトウェルは心の中で叫んでいたが、もちろんそれがコハクに聞こえることはなかった。

3月5日 題名変更しました

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