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6.イベント進行中

「お前さんは、これから何をしたいんだい?」


 行き先を決めてもらおうかといった割には、フランデールはそう聞いてきた。


 これから…というのは、まあ今なにをしたいか、ということではないんだなというのはなんとなくわかった。


 それはエリステルも同じようで、すぐに答えを返した。


「私は宝石集め。ここには現実にあるのもないのも、いろんな宝石があるって聞いているから、今から楽しみ」


 おお、エリステルはそういう目的を持っているんだ。


「うむ。楽しんで集めなさい」


 フランデールも楽しそうだ。


「お前さんは?」


「私…私は、着物を作りたいです」


「着物かい。なかなか大変な道だが、頑張るんだね」


 フランデールは何を考えているのか分からないが、コックリ深くひとつ、頷いた。


「さて、ひとつ頼みごとをしたいんだが…これを娘に届けておくれでないか」


 そうして、小さい紙に走り書きのされたメモのようなものをそれぞれ渡された。


 走り書きは文字のようだが、私には読めなかった。


「頼んだよ。次のクエストも、気をつけてお行き。…ああそれと、ここにチケットがある。一枚ずつ、お嬢さんたちに上げよう」


 受け取ると、ピン、と高い音がして小さくウィンドウが展開した。『交換チケット:イベント専用』と表示されている。


「それは交換チケット。武具店、防具店、道具屋のいずれかで使うことが出来る。交換できる品は決まっているが、お嬢さんたちには必要な品が手に入るだろう」


「ありがとうございます」


 チケットは町から出なければ有効だということだった。


 話はどうやら終わりのようで、フランデールは何も言わなくなったので、二人で顔を見合わせて、部屋を後にした。


 ところでフランデールの娘さんって、誰なんだろう、と考えながら宿の受付に戻る。


「あの、フランデールさんの娘さんって…」


「ああ! 私だよ」


 尋ねようと思ったら、受付のおばさんが快活な笑顔ですぐにそういった。


「何か預かったかい?」


「えと…これを」


 メモを渡すと、それを呼んでおばさんはしたり顔でうなずいた。


「どうやら気に入られたみたいだね」


 そういうと、私には茶色のカードを、エリステルには白いカードをひとつずつ差し出した。


「それぞれ、しかるべき場所に届けてちょうだい。よろしくね」


 これもクエストの一環だろうか。ウィンドウには『茶色のカード:イベント専用』となっていて、説明は特にない。


 今度は泊まりにおいでよ、といっておばさんに見送られ、フクロウの塒を後にした。


 外に出て、エリステルと目が合う。


「…次、一緒に行く?」


 そう言ったら、エリステルの目がきらきらと音を立てそうな輝きを見せた。


「一緒に行ってくれるんだ!?」


「もうここまで来たら一緒に行くよ」


「コハク…!」


 よっぽど方向音痴で困ってるのか、思い切り抱きしめられました。ただ、ちょっと締めすぎじゃないですかね、エリステルさん。


「ちょっと苦しい気がする…」


「コハク、鈍くはなってるけど感覚はあるからね、町の中はHPたいりょく減らないけど、外に出たら気をつけてね」


「え、体力減るんだ!?」


 ミニスのアドバイスにびっくりである。どんなリアリティ…?


「大丈夫! PKプレイヤーキルオフにしておけばプレイヤーからの攻撃は無効だから、HP減らないよ!」


「あ、よかった。じゃなくて! いいかげん離して、苦しいし…」


「ごめんごめん」


 どうにかエリステルの腕から逃れられた。


 ええと、PKってどこでオフにするんだろう…と思ってパネルを操作していると、エリステルに止められた。


「レベルが20を超えるまでは、PKはオンに出来ないから安心していいよ」


「なんだ、よかった」


「コハクは事前情報何にも仕入れてないんだね」


 エリステルの声はどこか感心したような様子だった。


「いや、お兄ちゃんにゲーム勧められて、そのまま始めちゃったから…」


「本当に!? じゃあ、時間圧縮倍率も知らないで始めたの?」


「…そう言えばそうだね」


 考えてみたら、キリのいいところまでやったら一度ログアウトしようとは思っていたけど、現実でどのくらい時間が経つのかなんて、考えてもなかったな…。


 学校の授業で聞いた範囲だと、国際安全基準で定められている通常の時間圧縮倍率は1~5倍まで。後は、使用時間などの制限がかかった状態では、制限に応じて6~20倍までの圧縮倍率も認められている。


ODOオンリードリームオンラインでは、通常時の時間圧縮倍率は4倍。現実時間で6時間プレイするとアラームで知らされて、イベントなんかが開始できなくなるんだよ。連続ダイブ制限は12時間だけど、6時間を超えると2時間ごとにアラームで注意が促されるようになってる」


 おおう、結構厳密に決まっているみたいだ。


「安全装置もあるから身体的にはあんまり心配ないけど、現実リアルの予定があるんだったら気をつけてね」


「ありがとうエリステル」


 今日が休みで予定もなくて、本当によかった。ていうかお兄ちゃん教えてほしかったよ…。


 正直VR初心者の私では思い至らなかったし。


「ちなみに、パネルにちゃんとODO時間と現実時間、両方ついてるからね」


 エリステル…そのことを教えてくれただけで、出会ったことに感謝できるよ。


 思わず両手を合わせて拝むと、変な顔をされた。これ、友達にもよく注意されるんだよね、気をつけないと。


「さ、時間もないし、次のクエスト行ってみよう!」


 エリステルと一緒に、それぞれクエストの内容を確認する。


 クエスト欄を見ると、新たにNew!と表示され、クエストが更新されていた。



『お使いクエスト3/5』

『フクロウの塒で預かったカードを、東大通りのテンプル服飾店に届けよ』



「あれ、もう3/5だ」


「ああ、さっきのおばさんに渡したのが二つ目だったみたいだよ。クエスト欄に書いてあるでしょ?」


「え…と、あ、ほんとだ」


 クエスト1/5と3/5の間にきちんと存在していた。内容はフクロウの塒のご隠居からその娘にメモを届けるとなっていた。


「コハクは、次の行き先どこになってた?」


「? テンプル服飾店だけど」


 答えると、エリステルはちょっとため息をついた。


「やっぱり違うか。私のはエンバーの雑貨屋よ」


「うーん、やっぱりカードの色が違うから?」


「まあ、さっきフランデールに質問されたから、それに応じた行き先なんだろうね」


「じゃあ別行動…しない! しないからそんな顔しないの!」


 別行動と言いかけただけでまるで捨てられた子犬のような顔になったエリステルに、思わず叫んでいた。


 その途端、エリステルは満面の笑み。


 あれ、やっぱり選択肢間違ってるのかな、私…。


「私のは東大通りにあるらしいけど、コハクのは?」


「こっちも東大通り。じゃああんまり時間掛からないで済むかな」


 思った通り、先ほどまで東大通りを端から端まで歩きまわったため、いくつかある服飾店、雑貨店の位置も大まかに記憶に残っていたので、すぐに見つけることが出来た。


 運のいいことに向い合せ。時間ももったいないし、それぞれでお店に行ってくることになった。


「いい? 絶対に終わっても、どっか行っちゃわないで、迎えに来てね!」


「分かってるよ」


 本当に必死だなあもう。


「ね、ミニス?」


 エンバーの雑貨屋に入っていくエリステルを見送ってミニスに問いかけると、返事のように鳴き声が返ってきた。


 すべすべふわふわのミニスの毛皮を撫でて、私もお店に入った。


「いらっしゃいませー」


 中にいたのは可愛らしい衣装に身を包んだ、女性の店員だった。

3/23表現訂正

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