2.5 キャラクター設定
2015.10.26追加の挿入話です。
自分の文章能力のこともあり、あとでつじつまが合わなくなるかも・・・と考えてカットした部分だったのですが、ご感想にて指摘を頂いて、少々手直ししてアップすることにしました。
だいぶODOの設定に絡む部分だったので、ぼかそうとか思ってたわけですが。
なので、もしかしてどこかつじつまが合っていないかもしれません。あればご指摘いただければ幸いです。合うようには直したつもりですが・・・
「ボクは案内役。まずは、君の名前を教えて?」
その上笑顔が人間臭い、喋る猫?でした。
えぇっと、これはどう判断すれば。とにかく、これ、ゲームが始まったってことでいいのかな。
「あー、えっと、私の名前?」
「そうだよ。君の名前を教えて?」
名前を言うまで同じこときくんだろうな、と思った。
「あの…別に何でもいいのかな」
「本名でも、ニックネームでも、好きなのでいいんだ。ただし、防犯の観点からフルネームは避けてね」
結構親切というか、案内役っていうくらいだから皆同じような感じなのかなあ。
「名前かあ…」
当然、オンラインである以上フルネームなんてもってのほかだというのは分かる。かといって、名前そのままってのも芸がない。うーん、どうしようかな。
「決まらないときは、お勧めもあるよ」
…このゲーム、無駄に親切だな。まあでも、名前くらいは自分で決めたいよね。
「そうね…じゃあ、コハクで」
「ニャっ、コハクだね? それでいいかな?」
…ニャって言った。
「うん」
頷いた途端、ポーン、と軽い機械音がどこからか聞こえた。
<『コハク』で登録しました>
このアナウンス変な感じ。どこから聞こえてくるんだか、よくわからないなぁもう。やっぱりVRに慣れるまでしばらくかかるかな。
「では改めて、Only Dream Onlineへようこそ、コハク! これからこの世界で過ごすための準備をするよ。まずは『操作パネル』を開いてみて」
「『操作パネル』? っわ!」
口に出すと、急に視界にモニターが現れた。半透明なブルーで、景色の向こうが透けて見える。
「口に出しても、考えるだけでも『操作パネル』は表示できるよ。まずはこれを操作して、キャラクターを作ろう」
ふいっとパネルのこちら側に飛んできて、色々と教えてくれる気らしい。
パネルに目をやると、いろんな文字がグレーになっていて、真ん中に唯一白く浮かび上がった『キャラクター設定』の文字。
まあ、半分化石と化した古いRPGのように、名前だけ決めて始められるわけもない。自分の個性を持たせたキャラクターを作ってプレイする必要があるってことだ。
「『操作パネル』は指で触れても声に出しても操作できるけど、考えるだけじゃ操作できないよ。余裕があるときは指で触れるのがお勧め」
「そっか。じゃあ」
指を伸ばすと、大体距離感もうまくできているらしく、あるなと思ったところできちんと文字に指が触れた。現実で画面に触れて操作するのとそう変わりない。
「ふーん。プレイヤーネーム『コハク』、性別、年齢、身長、体型…なんだか色々決めなきゃなんないんだね」
「基本情報読み取りもあるよ」
「基本情報読み取り?」
「共通サーバやヘッドギアに登録してある身体情報を使用して、キャラクター設定が出来るんだ」
「…現実と同じ顔で大丈夫なの?」
現実の知り合いに会ったら一発で分かっちゃうんじゃなかろうか。友達ならいいけど、トラブルのある相手だったらどうするんだろう…。
「大丈夫! キャラクターはデフォルメされてるから、現実とは違って見えるよ」
どうしてこんなに自信満々なのかと思うほどの請けあい具合だ。
「読み取った後にいじれるの?」
「読み取り後に細かい部分に変更をかけることも可能だよ」
「了解。じゃあまずは『基本情報読み取り』で」
私の声に反応して、パネルには『基本情報読み取り』の文字が現れた。
<『基本情報読み取り』を開始します。しばらくお待ち下さい>
うあ、またアナウンス。急に入ってくるなあ…。
「おぉ、勝手に入力されていってる」
パネルの中で空欄部分だった。性別、年齢、身長、体型、髪色、髪型などなどがどんどん埋め尽くされていく。これをすべて一から埋める人ってどれだけ集中力・持久力を備えているんだか。
<終了しました>
「わー、ほとんど埋まってる」
正直言って助かった。こういうのあんまり得意じゃないんだ。
「どこか変えたいところはある?」
「えっと…」
ちょっと考えて、髪の毛の色と髪型を変えることにした。
髪色と髪型の内容が変更になると、小さく表示されている外観の見本が変更された。
「あれ、埋まって無いのがある」
よく見ると、パネルの空欄部分が残っていた。
「種族…と、夢?」
夢…しかも自由記入って感じの枠の取り方だ。
「いいところに気が付いたね!」
…きっと気がつかなくても突っ込み入れたんだろうなっていう、強引な入り方だったけど、今の。案内役がうざいって人は、どうするんだろうか。
「これらの空欄は、Only Dream Onlineの特徴ともいえる部分。この選択肢によって、目指す方向性を決める重要な所なんだ」
って、いざ本当のゲーム開始の前に、ターニングポイントがあるって…ゲーム的にそれはありなんだろうか。いや、ありなのかな…?
「もう成りたい自分の姿が決まっているなら夢を先に選ぶと良い。もしも夢がなくっても、後から夢を決めることもできるんだ」
なんだか後者のほうが自由度高い気がするなあ。ゲームなんだし、そう言う進め方もありかなあ。
そんな風に思っていたら、猫は私に尋ねた。
「コハクの夢は何?」
「私は…」
そうだ。もう、決まっていた。
「私は、この手で着物が作りたい! おばあちゃんのように、誰かの大切な着物を縫えるようになりたい!」
つい叫ぶように答えていた。誰にも大きな声に出して言えなかった、私の夢。
私の声に応じるように、夢の欄に文字が現れる。
『誰かの大切な着物を縫えるようになりたい』
そう。これが、私の夢。
「夢が決まったね! おめでとう! あとは夢に合った種族を決めよう!」
「っていっても、どんな種族があるの?」
「うん。大まかには三つ根幹の種族があって、細かく分類すれば数十種類の種族があるんだ。まずは根幹の種族について説明すると…」
「あ、説明いらない! 一番器用な種族でお願いします」
「…本当にそれでいいの?」
「うん。いい」
だって長くなりそうな気配がした。面倒なので飛ばしたい。
「うーん、一番器用な種族…っていうと、半獣の狐族かな」
半獣?って聞くとやっぱり説明が長くなりそうなので、うっかり声を出しそうになったのを呑み込んだ。
「じゃあそれでいい」
「じゃあって…本当にいいの?」
「うん」
ということで種族が埋まった。『半獣:狐族』。
「本当にそれでいいの?」
また聞くんだね。
「うん」
考えるの面倒くさいし。
「一度選ぶと、選択し直すには相当の手間と時間がかかるけど、それでも?」
「うん。大丈夫」
だって着物が作れれば、問題ないし。
これで、全ての欄が埋まった。
「基本の髪型や肌、髪の色、瞳の色や体型は、今のままでいい?」
「うん、いい。もうこのままで大丈夫」
これ以上何かをいじる気力はないので。
「わかった。じゃあ最後に、ボクを使い魔にすることが出来るよ。使い魔にするなら名前を与えて、しないなら、そのままスタートボタンを押してね」
その言葉に反応してなのか、パネルの一番手前にスタートボタンが現れる。
「…使い魔にしないとどうなるの?」
「今後の案内は、全て自動音声が行ってくれるよ」
「………」
あの、頭の中に響くアナウンスが、基本になるってことだよね。何か知りたい度に? 無理。
「じゃあ、名前は『ミニス』で」
「うん、ミニスか! 気に入った。これからよろしくね、コハク!」
「うん」
<使い魔に魔法猫『ミニス』が設定されました。ゲームを開始します。始まりの町への転送を開始します。しばらくお待ちください>
って、結局このアナウンスからは逃れられないのね…。
自動で一気にパネルが閉じていき、周囲の景色がぶれる。
胸元に飛び込んできたミニスを抱え、私は目をつむった。