18.スキルとレシピ
「ちなみに、レシピはウィンドウのメニューから『作成』を選ぶと手っ取り早く見られる」
アキラのアドバイスに従い、ウィンドウを開いて、言われたとおりに『作成』を選ぶ。そこには『裁縫師』という選択肢があった。さらに選ぶと、ここからもさらに細分化していきそうな気配があるが、今現在選べるのは『基本』のみだ。
さて、『基本』を展開すると、例えばこの布の袋、これの材料と作り方がレシピに当たるってことだよね。
で、詳細を出すと、『作成する』というボタンがある。
「出てきたか?」
「うん」
「ウィンドウからレシピを選んで作れば、時間短縮になる。ただし、熟練度と比例して成功率も違うし、より質のいいものを作ろうと思えば、どうしても手順を踏んで、手作業で一から作る方がうまくいく。ショートカットは大量生産したいとき向けだな」
「でも、これがあると覚書の必要がないから、結構便利?」
「そうそう。教わるようなレシピは一度作れば残るから、後で参照して手作業するときにも役に立つ。自分のオリジナルになると、レシピに残すにもひと手間必要だけど、まあ、今は覚えなくても問題ない」
後半は聞き流すことにした。いま頭に入れても覚えておける自信がない。
「スキルとレシピは、生産職にとっては切っても切れない関係だ。スキルを覚えることと、レシピを覚えることはほぼイコール。スキルの熟練度を上げるには、レシピをひたすら手作業でなぞっていくのが一番早いんだ」
ということは、図らずも布の袋の作成は、スキルとレシピの熟練度上げを行っていたということになる。
「レシピにも難易度があって、得られるスキルの経験値は難易度が高いほうが多くなるし、かといってスキルランクが追いついていないようなレシピは作成することが出来ない。逆に、スキルランクが高いのに、難度の低いレシピを作っても、大した経験値は得られない。スキルランクに合ったレシピを作成していくのが、スキルランクを上げていくコツになるかな」
私の頭では正直あまり理解できていない気はするが、要は布の袋をいつまでも作ってても、スキルランクは上がらないってことだろう。事実、中々スキルランクは上がらなくなっていたわけで。
「まあ、そんなに深く考えるな」
難しい顔をしていたのか、アキラは軽くそう言った。
「始めのうちはクエストを受けて、スキルやレシピを増やすことを考えればいい。そうしているうちになんとなく分かってくるから」
「そういうもの?」
「そういうもの」
自信ありげに言い切った。そういうものか。
「さて、さっそくクエストでも受けに行くか?」
教えるからには、ある程度面倒を見てくれるとのこと。
「いいの? 何にもお礼とかできないけど」
「はは…気にしない気にしない」
ちょっと苦笑いで、何か裏がありそうな…。
エリステルの方を見ると、にっこりとほほ笑む。
「いいのいいの。私が頼めば、アキラは断れないんだよ?」
小首を傾げるその仕草、すごくかわいいんですけどね、エリステルさん。ちょっと言っていること、間違ってません?
「あー…弱みでも握られてるの?」
アキラを振り返って聞くと、何とも言えない顔でごまかされた。
ああ、そうですか。リアルでのことなんですね、わかります。
私もお兄ちゃんの事がばれそうになったらきっとこんな反応をするだろう。
「えっと…、クエストってどこで受けられるの?」
あからさまに話を戻してみると、アキラがほっとした顔をした。この選択肢、正解のようである。
「クエストを受けるなら、クエストボードを探すのが一番早い。大体、町には一つシンボルになる建物や施設があって、クエストボードはそういう場所に設置されていることが多い。エリア内で受けられるクエストがそこに自動的に表示されるように出来てるわけだ」
「この町でシンボルって言うと…?」
「町役場だね」
大きな街になってくると、複数のシンボルがあって、そのそれぞれにクエストボードがある場合もあるらしいけど、地域の拠点になるような相当大きな街でない限りは、大体一か所にまとまっているとのこと。
町役場を目指しながら、あの食堂の料理がうまいとか、この通りは店が多いからクエストがあったりするとか、ちょこちょこ説明を受けながら移動した。
到着した町役場は、プレイヤーで賑わっていた。
「ほら、あそこだよ」
クエストボードは、町役場に入って左手に設置されていた。思ったよりも省スペースで、若干人の壁が出来ている。
「…あの状態で、見られるの?」
人を押しのけてまで見る勇気はない。
「まあまあ、とにかく近くに行ってみて」
エリステルがちょっと嬉しそうにそう言う。
背中を押されて、三人でクエストボードの方に近づく。
人垣の傍まで来た時、ピン、という音とともにウィンドウが勝手に開いた。
『クエストボードが閲覧できます。閲覧しますか?』
文章の下にイエスとノーの選択肢。
「そっか、実際の掲示板とかとは違うんだ」
「そういうこと。クエストボードに近づくと、自分のウィンドウで一覧を見られるようになってるの」
「ちなみに、パーティを組んでると、クエストボードを一緒に見ることも出来る」
とりあえず閲覧はあとにするように言われたので、一度ウィンドウを閉じる。
「エリステル、コハクとパーティ組んでる? 俺も入れて」
「オッケー」
手元で何か確認したアキラは、エリステルに向かって声をかけた。多分、クエストボードを一緒に見るつもりなのだろう。
音とともにウィンドウが開き『 アキラ がパーティに加わりました 』という表示が現れる。
「コハク、二回床を叩いて」
こう、といってアキラが見本に見せてくれる。かかとを地面につけたまま、つま先を二回持ち上げるような形で床を叩く。
真似してみると、先ほどのクエストボード閲覧の画面が開いた。
「いちいち離れなくても、ウィンドウをもう一度出したいときは今みたいにすると再表示される。今度は閲覧してみて」
「うん」
イエスを選択すると、もうひとつウィンドウが開く。
『パーティで閲覧しますか?』
きっとこれが目的だったんだろうと思ったので、何も言われなくともイエスにする。
すると、若干大きめのウィンドウが展開し、目の前に半透明の掲示板が現れたような形になった。
「この状態になると、三人で同じウィンドウを操作できる」
「へえ」
クエストボードの操作を、実際にアキラがやって見せてくれた。
「まず、ある程度は分類されている。『討伐』『採取』『運搬』…『収集』『生産』、あったこれだ」
ずらりと並ぶ種類別の欄から、アキラが『生産』を選ぶ。そのほかにも、報酬額、難易度など、条件をつけて探すことが出来るようだ。
「えーっと、裁縫師向けだと…」
職業の条件欄にアキラがチェックを入れる。選択肢の文字に触れると、色が変わって選択されたことになり、報酬額や難易度は下限上限の範囲をドロップダウンで設定できるようだ。
「全部で三つか。ま、第1の町ここじゃこんなもんだな」
内容を見てみるように言われて、出てきた三つに目をやる。
『急募! 裁縫師求む。
条件 <裁縫>スキルランク1~
内容 第1の町『メルト裁縫店』にて裁縫補助及びスカート制作
報酬 スカート製作1枚につき5q』
『布の<裁断>手伝い。
条件 <裁縫>スキル所有者
内容 第1の町『メルト裁縫店』にて布の<裁断>
報酬 スカートの型紙』
『型紙<パターン>の切り出し。
条件 <裁縫>スキルランク2~
内容 第1の町『メルト裁縫店』にて型紙<パターン>の切り出し
報酬 型紙1枚につき30q』
…正直に言おう。何がどう違うのか、分からない。
なんといっていいのか分からずアキラに目をやると、分かってると言わんばかりの表情だった。




