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12.現在地は…

「ミニス、召喚!」


 光のエフェクトとともに、羽の生えた藍色の毛並みの猫が姿を現す。


「おかえりコハク」


「ただいまミニス!」


 宙に浮いたミニスを捕まえ、触り心地のいい毛並みを思う存分堪能する。最近、ダイブの度の恒例のようになってきた。


 ミニスをなでなですりすりしていると、どうしてこんなに落ち着くんだろう。


 そろそろ若干の抵抗をし始めたミニスの、そんな顔もちょっといいなあなんて思いながら手を放そうか悩んでいたら、ぴこん、と可愛らしい電子音が耳元で聞こえた。


 この、フレンドコールというものだけは、音が違うのですぐに慣れた。


 展開したパネルに触れ、コールに出る。


 名前を確かめる必要はない。だって、相手は間違いなく一人しかいないのだから。


『あ、コハク、一体いつまで始まりの町にいるつもり? ここ2、3日待ってたけど、一向に第1の町に着いたって連絡がないじゃないの』


 そう、相手は言わずもがな、初めてのフレンドであるエリステルである。


 ゲームを始めて2週間ほど経つが、実はまだ始まりの町でのんびりしているのだった。


「今日も元気だね、エリステル。レベルは上がった?」


『そりゃ勿論。周辺は平原ばかりだし、そろそろ戦い方もだいぶ慣れたしね~、って、違うよ、コハク! もういい加減こっちきて、一緒にレベル上げしようよ』


「でも、町から出なくてもレベルは上がってるよ? 昨日レベル3になった」


 声しか聞こえないはずの通話の向こうで、エリステルの呆然とする顔が 見えたような気がした。


 しかしちょっと失礼じゃあるまいか。直接の経験値がスキルの向上だけだから上がりは悪いかもしれないけど、スキルのほうはそこそこ見られるようになってきた。


『コハク、私のレベルがいくつか教えてあげる。10よ、10。それも、夜に1時間だけのダイブで、だからね?』


「おぉ、すごいね! …というか、そのレベルならもう少し先に進めるんじゃないの?」


 いくら第1の町といっても、段々とレベルは上がりにくくなるはずで、エリステルのレベルならもう少し先の町に進めていてもおかしくない。


 というか、もしかしてまた道に迷っていたりするのだろうか。


『言っておくけど、道には迷ってないわよ』


 おぉう、エスパーですかエリステルさん。


『コハクと一緒にレベル上げするつもりで、しばらく待ってたのよ。でも、ログインもまちまちで時間合わないし、前回聞いた時から土日挟んだし、これ以上待ってたらお互いのレベル差開きすぎてやりづらいんじゃないかと思って連絡したんだけど…正解だったみたいね』


 んんん?


 ゲームにはだいぶ慣れてきたけど、今のエリステルの会話は半分くらいわからなかったかも。


「レベル差が開くと、やりづらい?」


 一応聞き返してみたら、思い切りため息が返ってきた。


『コハクってば相変わらず。あのね、モンスターを倒して手に入る経験値は、レベルと反比例するの。スキルの経験値もそう。レベルがどんどん上がるほど、得られる経験値は少なくなって、レベルが上がりにくくなるの。分かる?』


「あー、うん。それは分かる」


 始まりの町でただのほほんとしていたわけではない。一応黙々とちくちく針を進めてスキル上げに励んでいました。


 だって私の目的は、着物が作れるようになることですから!


 で、スキル上げをしていて気づいた。ひたすら袋を作っていて、最初は着々と数字が増えていくのに、満足のいくのが出来たなーとか、かなりミスが減ったなーとか思った頃、中々数字が増えなくなったのだ。


 スキルには、ランクという物が設定されていて、経験は、例えば0/1000というような表記がされる。


 ちなみに、袋を作ったりする過程で多様なスキルが徐々にレベルが上がっているわけだけど、正直言いたくないくらい数が多いので割愛。


 ひとつ言えることは、上位スキルと下位スキルというものがあって、ランクが設定されているのはこの上位スキルだ。下位スキルは、上位スキルの細々した技能の内訳みたいなもの。言いたくないくらい数の多いのは、下位スキルだ。


 例えば、私の持っているスキルで行くと上位スキルは<刀術>で下位スキルは<突き><切り><構え>などなど。とにかく下位スキルは一つ一つの動作に名前が付いていて、熟練度?というのは帯表示だ。左側から徐々に色が付いていくので、なんとなくどのくらい上がってるかは分かる。


 上位スキルは、その帯の上がり具合が経験値に反映されているらしく、何をどの程度すればいくつ上がるのかは今のところ分からない。こういうのを分析する人たちもいるらしいが、その気が知れない。


 お兄ちゃんが言うには上位スキルにはレア度みたいなものもあるらしいけど、どの上位スキルがレアなのかは、公開されていないとか。


『……でね』


 おっと、エリステルが話してる最中だった。いけないいけない。


『仲間で組んだらそのグループをパーティって呼ぶんだけど、パーティ内でレベル差があると、経験値の手に入る具合はレベルの高い人に合わせる形になるのよ。だから、コハクと私でパーティになってモンスターを倒すと、モンスターと私のレベル差で、経験値の量が決まっちゃう。だから、レベル1のモンスターを倒したら、コハク一人なら20~30はもらえるところ、私とパーティを組んでると1~2くらいになっちゃうのよ』


 それだと確かに、レベルが高い人と組むのは中々大変かもしれない。


「でも、それならエリステルとレベルの変わらないモンスターを倒せばいいんじゃないの?」


『あのね、簡単に言うけど、モンスターは、戦闘態勢に入るとレベルの低いプレイヤーに向かっていくように出来てるの。そうならないように、注意をひきつける技とか方法はいろいろあるけど、完璧にうまく出来るわけじゃないし、そうやってモンスターに低レベルのプレイヤーが襲われたら、すぐに死んじゃうわよ。死んだらゲーム時間で4時間の間、ステータスが半減、HPとMPは回復時間が普段の倍になるし、経験値取得が20%まで落ち込むの。しかも、ログイン中の4時間しか換算してくれなくて、ログアウトしても12時間空けないとリセットされない。それから…』


「わー! もう、分かった! とにかく、いっぱい損するってことでしょ!?」


 そんなに一度に言われても分かるわけないよ!


 途中から何を言われているのか全く分からなかった。


『コハク、これは覚えておかないと後で損するよ?』


「でも…、そんなに一度に言われたって分からないし、それに、モンスター倒すのは街道の移動中だけだし。死ぬようなモンスターには挑まないから、大丈夫だよ」


『んー…まあ、それもそうかもしれないけど』


 納得はし切れないけど、これ以上言っても無駄だろうなというのは感じ取ってくれたらしく、それ以上は言わないでくれた。


『まあとにかく、一度第1の町に来てよ。レベル3なら、HPとかも最初より少しは上がってるでしょ? 街道を歩いてくるくらいなら死ぬようなことないから。心配なら初心者ポーションとキャンディ目いっぱい持って来ればいいし。こっちに着くころには、きっと2、3はレベル上がると思うし』


 モンスターと戦うと、レベル5まではあっという間に上がるのだそうだ。そこからは、もう少しレベルが上のモンスターじゃないと中々経験値が手に入らないんだとか。


『コハクはあんまり戦闘したくないかもしれないけど、せっかくフレンドになったんだし、一回くらい一緒に戦おうよ』


 あ、今、エリステルのちょっとさみしげな笑顔が思い浮かんだ。


「…うん、わかった」


 戦うのはあまり気が進まないけど、フレンドと一緒にゲームらしいことをしてみるのも、ありかなと思えた。


「じゃあ今から第1の町に向かうから、待っててね」


『ほんと!? 約束だからね!』


 すごく嬉しそうなエリステルの声に、跳ねんばかりに喜んだ姿が見える気がした。

4/3数値変更、表現訂正

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