番外編①
実に下らない話です。
「んーー…っ、結構疲れたなあ」
ずっと同じ姿勢だったせいか、それとも初めてのダイブが意外と堪えたのか、体が固まっていた。
伸びをすると非常に気持ちいい。
時計を確認すると、ちょうど昼ごはん時だった。
そして、ふと視界に入ったのは、私のベッドで横になるお兄ちゃん…お兄ちゃん?
思わず動きが固まった。
ヘッドギアをつけ、楽な姿勢で「私のベッドで横になるお兄ちゃん」。大事なので二度言いました。
どうしてくれようこの男。
別に嫌いじゃないけど、お父さんの次くらいにはベッドに横になってほしくない…と思う。
少なくとも、私がソファで寝てるのに、その横でベッド使うって、どうよ。
しかし、叩こうにも蹴ろうにも、相手はヘッドギアをつけてダイブの真っ最中。ヘッドギアが起動しているので、そんなことは一目瞭然だ。
どう考えたって張り倒していい状況ではない。ヘッドギアには安全装置が付いているとはいえ、注意書きのトップに書いてあるのが「ヘッドギア使用中は急に外さないでください」の赤文字である。明確に被害があるわけではないが、電気ショックを与えられたような状況になり、昏倒、気絶、脳震盪に近い衝撃が脳に伝わるとか何とか。
下手すれば入院沙汰になるらしい。
いくらなんでも、たとえこれが赤の他人だとしたって、ダイブ中の人間に衝撃を与えるようなそんな行為はしたくない。
だからこそ、この衝動をどうしよう。
「…よし」
人のベッドで気持ちよく寝ている間に、地獄を用意されているとは思うまい。
ヘッドギアの電源を落とし、ソファに置いて部屋を出る。
「お母さーん! 今日の夕飯、ピーマン尽くしにしてー!」
階段を降りながら、キッチンにいるはずのお母さんに叫ぶ。
今から涙目のお兄ちゃんの顔が、目に浮かぶようだ。
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