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11.一休み

「いらっしゃいませ」


 今度のお店は防具店とはいえ、おしゃれな雰囲気の内装で、カウンターにいる女性がここの店主なんだろうなと思わせる。


 先ほどの店とは違い、ずらりというほど商品が並んでいるわけではないが、目立つ所に飾られた全身鎧とか、皮装備の並んだ様はいかにも防具店だ。


「何をお探しですか?」


 今度の店員さんは見た目通りに親切なようだ。


 先ほどと同じようにチケットを見せると、交換できるもののリストを見せてくれた。


「頭、体、手、足、いずれかの装備品になりますが、種類はいくつかありますよ」


 布やら皮やらで出来た初心者装備が揃っているようだ。


「試着とかできます?」


「それでしたら、操作パネルから装備品のウィンドウを開いて頂いて、試着のタブを選択してください。店内にいる間は、装備可能な品の試着をすることが出来ます」


 そんな機能もあるのか。


 しかし、この操作パネルって色々と項目がありすぎて覚えきれそうにないなあ…。


 とりあえず、説明の通りに試着してみる。試着ってことはタダなわけで、遠慮はいらないだろう。


 えーと、旅人の服…? を選んでみる。


 すると、右側に出ていたステータス欄の中で、防御力の数値が赤くなった。


「…なんか数字が赤くなったんだけど」


「ステータス欄が青くなれば数値が上がっていて、赤くなれば数値が下がっているってことだよ」


 エリステルのもとを離れて、いつの間にかミニスが私の肩に戻ってきていた。


「そうなんだ…でも、あれ?」


 どの装備品にしても、数値が青くなることはなかった。


 やっぱり、この町人の服+2っていうのは、普通の品じゃないのかも。


 うーん…この防御力っていうのは、どのくらいあると安心なのだろう。


「やっぱり初心者用だから、どれも似たり寄ったりか。違いって言っても何を上げるかくらいだねぇ」


 一通り見てみたのか、エリステルがため息とともにそう言った。


「私は皮の胸当てにするけど、コハクはどうするの?」


 数値が上がるのは頭につける装備くらいで、それだって上昇値は微々たるものだ。正直にいえば必要性を感じなかった。


「とりあえず、道具屋も見てみようかな」


「まあ、気に入るものがないなら、そのほうがいいかもね。武器と違って、最低限は着てるわけだし」


「うん」


 最低限? といっていいのかは謎です。


 二人で道具屋に移動して、あれでもないこれでもないと品物を見るのは、現実で買い物をするのとそう変わらない。


 ただ、現実にはないような物を見るというのはなかなかに面白いことだった。


 結局、道具屋で交換したのは小さな冊子だ。



『植物図鑑:ランク1

 初心者にも見分けやすい野草が紹介されている。

 ランク1の植物が見分けられるようになる。』



 道具屋で聞いたところによれば、食べられる木の実とか、ちょっと体力を回復する薬草とか、そういったものが見分けられるようになるらしい。植物図鑑もピンからキリまであるらしいけど、レベルが上がらないと上のランクの本は読めないそうだ。


 そもそも、この周辺に生えているのは初心者向けの植物ばかりだそうで、始まりの町ではどの道具屋でも、植物図鑑はランク1しか扱っていないのだとか。


「コハク、本当にありがとね!」


 道具屋を出たところで、エリステルはにっこり笑って私の手を握りそう言った。


 これから第1の町と呼ばれるところに向かうと言ったエリステルに、私はもう少し町を歩いてみると申し出たのだ。だから、ここからは別行動。


 エリステルは一足先に始まりの町を出て、冒険に繰り出すのだ。


 胸当てをしたせいか、町娘のような格好でもどことなく冒険者っぽく見える。…まあ、見えるだけで冒険の経験値はまだゼロだけれども。


「私こそ、エリステルと一緒で楽しかったよ」


 それは本当の事だ。


 ミニスがいるとはいえ、一人でアレやらこれやら見ても、楽しさはたかが知れていただろう。


 おまけに、エリステルには色々と教わった。


「せっかくフレンドになったんだし、暇なときは連絡してよ? しばらくは第1の町でレベル上げする予定だし。よければ一緒にレベル上げもしようよ」


「うん。連絡する」


 正直今日はもう疲れていたので、今度こそアセントするつもりでいた。


 楽しかったのは事実だけど、やっぱりVR自体に慣れていないせいか、疲れを感じないはずなのに、疲労感があるのだ。きっと、精神的に疲れたのもあるだろう。


「でね、ひとつお願いがあるんだけど」


 エリステルの瞳が、期待を訴えてこちらを見つめる。


「…なに?」


 何を言われるのかはなんとなくわかっていたんだけど、それでも一応聞いてみた。


「第1の町がね、この街の東側の街道をまっすぐ行くとあるんだけど…」


 もじもじして、その先を言わないエリステル。


 いや、かわいいんですけどね、分かってるんですけどね。


「うん、頑張ってね」


「!!!」


 にっこり笑って言ってみたら、エリステルがこの世の終わりみたいな衝撃の表情をして見せた。


 やっぱりちょっと、面白いんではないだろうか。


 でもまあいつまでもニコニコ笑ってエリステルの顔を眺めているのも疲れるので、早々に切り上げて冗談だよ、と言ってあげる。


「コハク、ひどい!」


「いや、どっちがひどいか考えてみてよ」


「…、やっぱりコハクだよ!」


「いやいや、私をナビ代わりに使うエリステルもどうかと思うけど」


「でも…分かってやってるコハクって…!」


「それはエリステルもだって」


「でもでも」


 なんかこのやり取りも、楽しくなってきたなあ。


 でもキリがないのでこの辺で。


「じゃあ、お互い様ということで」


「そう言うことにしてあげてもいいけど」


「うんわかった。また今度ねエリステル」


「待って待って! お互い様です! いやむしろ私が悪かったです! ごめんなさい!」


 あれ、やっぱり私のほうがひどいことしてる?


 いやいやそんなことないよね?


「わかってる。東側の街道まで連れていけばいいのね?」


「コハク様! ありがとうございます!」


「いや…さすがにそれはちょっと」


「えー!」


 なんてじゃれながら道を行く。


 始まりの町はそう広くもないので、東側の街道なんてあっという間についてしまった。


「じゃ、今度こそ、またね」


 もう一度握手をして、気持ちばかりの出入り口として設置された、二本の柱の間をエリステルが通って歩いていく。


「第1の町で、待ってるからね!」


 一度だけ振り返り、エリステルが手を振ってそう言った。


「じゃあね!」


 手を振り返して、エリステルを見送る。


 エリステルの進む先には、他にもちらほらとプレイヤーの姿がある。


 それぞれの武器で、なんだか小さな生き物と格闘しているようだ。


 エリステルもほどなく小さな生き物と遭遇して、戦い始めた。


「…やっぱり、第1の町に行くのは当分先かな」


 生き物と戦うとか、ちょっとなあ…、あれ?


 ところで、第1の町と始まりの町って、同じ意味じゃないのか?


 始まりはゼロということなのか?


「………」


 考えたって分からないことは、必要でない限りはあきらめるのが一番楽だ。特に名前なんてものは、由来を知らなくても問題なし!


「ミニス、おいで」


 手のひらを広げて呼ぶと、ミニスが肩から手の中に移動してくれる。


 ふわふわつやつやの毛を撫でて…あ~癒される。頬ずりもしちゃえ。


 滑らかな毛皮を十分堪能した後、ミニスを送還してパネルを開く。


 一番右下にあるのが…あれ、アセントじゃない?


 なんと表示はログアウトだった。


「え~? どうして?」


 VRをやめるときはアセントだって習ったんだけど…あれ、どうしよう。


 私が思い切ってログアウトをするまで、それから10分も悩んでしまいました。


 考えてみれば簡単なことで、ゲームからログアウトした後、VRからアセントするという単純な構造だったんだけど…そんなこと知るわけないよ!


 戻ったら真っ先に、何も教えずにゲームを始めさせたお兄ちゃんに文句を言ってやるんだと意気込んで、私は


「アセント!」


した。

とりあえずこれで一区切り。

準備段階しか終わっておりませんが…。

次からはもう少し冒険始めます。

不定期にもかかわらずお気に入り登録してくださっている方々に感謝。

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