10.武器を選んで
「うーん」
交換チケットは2枚あるが、はっきりいって何に使おうかまったく考え付かなかった。
一体自分に何が必要になるのか、あんまり分からないのだ。
「エリステルは、何に使うの?」
「私? 私はやっぱり、武具店と防具店。戦えるようにならないと、あちこち移動するのも一苦労だからね」
「はあ」
そういうものなのか。
そもそものルールというか、システムを理解していないから、いまいちわからないんだけど…。
「あ、あそこ。武具店って書いてある」
エリステルの示す先を見ると、剣と槍の交差した絵の描かれた看板に、確かに「サゲン武具店」と書いてあった。
スキルを手に入れる前と違って、文字が読めるので非常に助かる。
イベントに参加を進めてくれたミニスの提案に従ってよかったな。
「コハク、早く」
先に店に近寄っていったエリステルが振り向いて私を呼んだ。
「今行くよ」
私が歩き出したのを見ると、また背中を向けてエリステルが先に武具店に…と思ったら。
「エリステル! 行き過ぎてる!」
「え?」
エリステルは、あっさりと通り過ぎてその先へ行こうとしていた。
あちこち移動…、できるのかな、この人は。
「ミニス、エリステルの肩に乗って。どこか行きそうになったら代わりにとめてくれる?」
「いいよ」
「わっ」
追いついたエリステルの肩にミニスが飛び乗る。私の肩にウルルが乗れたんなら、逆ももちろん出来るわけで。
エリステルは肩に乗ったミニスを撫でようとして、するりとかわされていた。
「あぁ、もふもふが…」
かなり残念そうな声を上げている。
対してミニスは若干迷惑そうな顔をしている。…ように見える。
ミニスにはかわいそうなことをしているかもしれないが、まあいざとなれば背中の羽で飛んで逃げてくれるだろう。
「さて入ろうか!」
エリステルの手を握って武具店に入った。
「いらっしゃい」
若干無愛想なおじさんが店番をしていた。
手元ではなんだか武器の手入れをしているようだ。
壁には見本の武器が飾ってあり、様々な種類があるようだ。
ナイフやら剣やら、金槌とか、槍とか、棒みたいなものもあるし、よくわからないようなものもある。
「色々あるねー」
「うん…」
色々ありすぎて途方に暮れるよ、これ。
「最初の武器は大事だよ、コハク。選んだ武器の系統しか、極められないようにできているからね」
「そうそう。装備できても、最初に選んだ武器以外は中々レベルが上がらないように出来てるんだって」
ポカンと武器を見上げていたら、ミニスとエリステルがタッグを組んで説明してくれた。
正直あまり分からなかったけど、どうでもいいというか。
「武器なしじゃダメなのかな…」
戦う気がないので、正直武器とか要らないなーなんて思うんだけど。
「おい譲ちゃん。武器の一つも持ってなきゃ、この街の周辺より他へはとてもじゃねぇがいけないぜ」
唐突におじさんがそんなことを言った。
愛想のないおじさんかと思っていたら、以外にも親切な発言だ。…愛想はないままだけど。
「さっき言ったでしょ、あちこち移動するのも、戦えないと大変なんだって。乗合馬車もあるにはあるけど、料金高いし数は少ないし、はっきり言って不親切極まりないって話だよ。護身用でもいいからとりあえず武器選べば、街道を移動する程度なら何にも問題ないくらいまでは勝手にレベルが上がるし、何か選びなよ」
しかし、エリステルは何か説明するときはすごく強気というか、頼りになるというか。
「と、言われてもね…」
武器…何を選べばよいのやら。
「まあ、まずは見せてもらいましょ」
無愛想なおじさんのところへエリステルに引きずれらるようにして移動する。
「私たち、交換チケットを持ってるんですけど、交換できるもの教えてもらえますか」
「どれだい」
「これです」
交換チケットといっても色々あるのか、現物を見せないといけないようで、エリステルはアイテムを取り出しておじさんに見せた。
「これなら、どの武器でも一番下のランクと交換だな。そこの一番下の段だ」
おじさんは、私から見て右側の壁にかけてある武器の端から端をなぞるように指差して、そう言った。
「私はやっぱりこれね」
エリステルが迷うことなく手にしたのは、細身の剣…フェンシングとかで使われていそうな差すことに特化したタイプの剣だった。
どうやらレイピアというらしい。
「私、こういう手数の多いのが得意なんだよね」
自信満々に言うからには、きっと他のゲームで使ったことがあるとか、何か理由があるんだろう。深くは聞かないけど。
「…あれ、こんなところに本がある」
一番端のほうに、なにやら場違いな雰囲気の代物が。
「それは魔術を使いたい奴専用だ。まだ中身は白紙で、余所で書き込んでもらわにゃ使えん」
「はあ…魔術師になるのって大変なんだね」
直接攻撃しなくてよさそうなところはいいなと思うけど、手間かかりそうだし、何より、誰かと組んで冒険に繰り出そう、とは思っていない私にはあまり向いていない気がした。だって、街道の移動が安全に出来れば問題ないわけで。
まあ、本や映画の物語で見るような魔法使いに憧れはするけど、実際なってみたいかといわれると…考えることや覚えることが多そうなのでやめておきたい。
「うーん…」
「決めかねてるなら、また後で来る? 交換チケットも二枚しかないし」
「でも、結局武器がいるなら、ここで選んじゃいたい」
二度手間はちょっと面倒だ。
「ミニス、私と一番相性のよさそうなのってどれ?」
「コハクは狐族だからね、相性がいいのは刀と、お札、それから鈴とかかな」
「刀はいいとして、お札は使いこなすの難しいって聞くし、鈴は支援職向けだから、もし一人で移動したりするならお勧めしないけど」
エリステルからすかさず補完説明してもらった。
「じゃ、刀で」
「え、あれだけ迷ってもう決めるの?」
「だって、相性が良くて一番使いやすいんなら、それがいいでしょ?」
「まあそうだけど」
納得いかない、って顔をしているエリステルを余所に、私はあっさりと刀とチケットを交換したのだった。
『初心者のための刀:重量3:攻撃力5:耐久値∞
武器系統:刀。初心者向けの武器。
耐久値は減らないので修理の必要もない。
製錬不可。』
以上が手に入れた武器の説明である。あわせて、刀剣スキルなるものを身につけた。
というか、戦う私がまったくもって想像できない。
大丈夫か私。
「さあ次は防具店にいこ~!」
腰に装着されたレイピアで気分がかなり上昇したらしく、エリステルはますます元気だ。
私も腰に刀を装備してみたけど、洋服に刀のせいかあまりしっくりこない。
考えてみたら、着物には中々似合うのではないだろうか。
そんなことを考えていたら、ミニスがニャーニャー鳴く声がした。
「だから! そっちは教会のほうだからお店ないよ!」
エリステルの方向音痴は、ミニスではどうにも止めようがないらしかった。
なので。
「…あの、コハク」
「何か文句があるの?」
「いや…」
「ないよね? あるはずないよね? 迷っちゃうもんね?」
「…はい、文句ないです」
結局、私と手をつながせるという手段に出ました。迷子には、一番です。
別に私は恥ずかしくないのだが、どうもエリステルは違うらしい。
女の子同士なんだし、いいんじゃないの?
「さあ、防具店はこっち」
恥ずかしがるエリステルを引っ張って、今度は防具店の看板目指して歩く。
なんだか私も、ちょっと楽しくなってきたかも。
ときおり聞こえる金属音に、どことなく胸がはずむようだった。
3/21 表現訂正