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8.クエスト5/5

「……ごめんね?」


 店の外に出ると、エリステルが仁王立ちで待ち構えていた。


「…おいて、いかれたかと…思ったじゃないの~!」


「だ、だ、だから、ごめん、って、ば」


 思い切り両肩を掴まれて揺さぶられたため、言葉がどもった。


 どうやらライトさんからスキルを教わっている間に、結構時間が経ってしまったようだ。


『これはもういらないんだから、没収!』


 最終的にはスキルを教わり、NPCからもこれを使えば話を聞けるのかなー、とか思いながら紹介状を眺めていたら、ライトさんにそう言われて取り上げられてしまったので、それは少し残念だったけど。


「もう、許さないんだからね!」


「…エリステル」


 むくれ具合が可愛いんですが、立ち位置近いので胸が目の前に。


 邪魔です。


 …別に、うらやましいわけじゃ…。


 と胸に気を取られていたら、ピン、と音が。


『エリステルからフレンド申請されました。フレンドリストに登録しますか?』


 展開したウインドウにはそう書いてあった。選択は、イエスとノーの二択だ。


 思わずエリステルの顔を見ると、涙目でむくれた表情の中にどこか照れがある。


「フレンド登録しなきゃ、許さないんだから」


 これ2パターンあるよね、可愛いと思う場合と、うざいと思う場合と。


 私は断然前者でした。ていうか、エリステルがすると、可愛くないですか?


「フレンド登録しておけば、離れてても通信できるから、便利なんだから…別に、置いていかれるのがやだから登録しようってわけじゃないんだからね?」


「うん、ありがとう」


「………///」


 もちろんフレンド申請には、イエスの選択をしました。


 私のフレンドリストに、初めて名前が載る。


 なんだかすごく嬉しくて、顔がゆるんで仕方なかった。


「改めてよろしくね、エリステル!」


 フレンド申請が許可されたことがエリステルにも伝わったらしく、にっこりほほ笑んでくれた。


「コハク、イベント終了まで1時間切ったよ」


「えっ、うそ!」


 突然のミニスの言葉に思わずクエストを確認すると、確かに制限時間が1時間を切っていた。


「急がないとね」


 興奮していたためか若干頬は紅いものの、調子を取り戻したのかエリステルも手元のパネルを確認しているようだ。


「次は4/5で『道具屋で初心者ポーションを購入せよ』だけど、コハクも?」


「うん」


「確かこの辺に道具屋あったよね」


 私も覚えがあったので、来た道を少し戻って店先を探す。大体のお店には看板が付いていて、それぞれに決まったマークがついているようなのだ。


 気が付けば店を探して変な路地に入ろうとするエリステルを引き戻しつつ、無事に道具屋にたどり着けた。


 先ほど宿屋に入った時と違って、中には他に二人のプレイヤーらしき人がいた。


 コの字型のカウンターと、その背後の棚には商品が陳列してある。販売の対応は一人のようで、今プレイヤーの一人と話をしていた。


 もう一人のプレイヤーは特に待っているわけでもないのか、端のほうで棚に並んだ商品を眺めている。


 知覚の商品に目をやると、それぞれの商品のところにカードが付いていて、品名が書いてあるようだった。だが、読めない。


「ほらコハク、前の人帰ったよ」


 エリステルがすでに店員と話をしていた。


「いらっしゃいませ」


 三つ編みの女性の店員さんだ。そばかすがちょっと垢ぬけなくてそこが可愛い。


「初心者ポーションをください」


「初心者ポーションですね。ひとつでよろしいですか?」


 エリステルのほうを見ると、同じような顔をしていると思った。数は明記されていなかったのだ。


 ただし、初心者ポーション代に、と渡されたお金がある。


「ひとついくらですか?」


「10qになります」


 qというのはクイルと読む。このゲームでの通貨単位だ。現実で言うと円とかドルとか。


 実は私も先ほどライトさんから教わったばかりなわけですが。


 クイルだといいづらいとかで、慣れたプレイヤーはその表記からキューと呼んでいるらしい。これもライトさんの話。


「じゃあ、10個ください」


「それではこちらになります」


 用意された10個の初心者ポーションに触れると、支払い画面が出現した。


 右上には所持金が、真ん中には商品の名称と数、合計金額が上がっており、支払いとキャンセルの選択ボタンがある。


 もらった金額通り、100q分。無事にお買い上げした。


「私には初心者ポーション1個もらえますか」


「それではこちらになります」


 エリステルは1個だけ買ったようだ。


「1つでいいの?」


「別に数の指定はないんだから、いいんじゃない? 最初の所持金が少ないんだし、節約できるところは節約しても悪くないと思うけど」


 そこは考え方次第かもしれないけど、確かに、足りなければ後から買い足してもいいわけだし、商品に変えてしまうとお金に戻すとなれば同じだけの金額にならないのは間違いない。


「それに、初心者ポーションなら道具袋に5個入ってたわよ」


「え?」


「え、ってコハク、最初に自分が何持ってるか、確認してないの?」


「…してない」


 この時のエリステルの、開いた口がふさがらない、という表情は、しばらく忘れられそうにない。


 だって、そのままの顔で1分は固まっていたんじゃないかと思う。


 先に店内にいたプレイヤーが、なんだこいつら、って顔して横を通り過ぎていった。


「…とにかく、いいわ。まずはクエスト終わらせて、それからしっかりと教えるから!」


「はい」


 かなりの形相で言われてしまい、それ以外の答えは返しようがなかった。


 クエスト5/5は『始まり町の教会へ行け』だった。


 教会というのは町にそれぞれ最低ひとつは存在しているらしくて、大きな規模の町になるほど複数存在しているらしい。


 教会、という文字に触れれば、これはどうやら地図に載っているらしく、あっさりとたどり着けそうだ。


 場所は西大通りの南よりと地図にはなっている。


「よし、いってさっさと終わらせましょう!」


「だからそっちじゃないってば!」


 どうやら先ほどの一件でやる気を触発されたらしく、また無謀な方向に歩きだそうとするので、慌てて引き留める。


 それを三回は繰り返して、どうにか教会にたどり着いた。


 教会は、想像していた『教会』と違って、庭木や遊具がある広場があり、木造の二階建ての家と大きめの平屋、それをつなぐ渡り廊下があって、その向こうには小さな中庭のある、学校のような建物だった。よく見れば、平屋の奥に教会のような屋根が見える。敷地の周辺は、木の板で出来た壁で囲われていた。


「待てー!」


「やー」


「またなーい」


「こら、走ると危ないぞ!」


 そして子供が遊んでいた。


「これ、学校…?」


「か、孤児院かも」


 よく見れば年長者もいるようだ。


「でも、地図には教会って書いてあるし、ここだよ」


「まあ入ってみようか」


 二人で入り口のアーチをくぐる。


「いてっ」


「うわっ」


 その途端に、子供の一人が転んで、それにさらに一人が転んだ。


 そして大きな泣き声が。


 連鎖反応で小さい子まで泣きだす始末。


「ああもう泣くなよ」


「誰かシスター呼んできて」


 年長者が様子を見るが、その場は大混乱。


「あ、そこのおねーさん、手伝って!」


 年長者の一人、少女が私の手をとる。


「怪我をした子がいるの、助けて」


 少年がエリステルの手をとった。


 なるほど、怪我をした子をどうにかすればいいのかな。


「痛いよぉ…」


「わああ~ん!!」


 一人はしくしくと、もう一人は驚きもあったのか大げさなほど大きく泣いているが、怪我はそうひどいことはない。


 一人は膝が小石にでも当たったのか若干えぐれて血まみれ。一人は転んだときに手をついたらしく、その手のひらがすりむけて真っ赤になっている。


「なるほどね」


 エリステルは納得したように一つ頷いて、手元でパネルをいじっている。


 そして取り出したのは、先ほど買ったばかりの初心者ポーションだ。


「連続したクエストなんだから、多分こういうことだと思うんだけど」


 きゅっと初心者ポーションのふたを外して、大声を出して泣く子の手のひらをとり、そこにポーション液をかける。


「痛いイタイ!!」


「我慢して」


 しゅわしゅわと傷口が泡立ち、その泡が収まる頃には傷はすっかり治っていた。


 じゃ、私も。


 もう一人のしくしくと泣く子の側によって、初心者ポーションを取り出す。


「ごめんね」


 痛がるのは分かっていたけど、思い切って膝にかけた。


「ううぅ」


 我慢強い子でよかった。


「まあ! どうしたのですか?」


 そこに、シスターが登場した。

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