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九話 絆

 やはりわしの勘は当たったようじゃの。

 石像が手前に動いて、一メートル四方の縦穴があいておるで。

 縦穴の側面には下に降りられるようにくぼみがあるでな。

 吸い込まれそうな闇が奥に続いておる。

 深さはまったくわからんで。

 

「なんだ? なんだ?」

「サーシャちゃん……なにそれ……」


 ダルロとスレナが駆け寄ってきたでな。

 困ったのう。

 なんて説明すればいいんじゃろか。

 この穴は魔王ダイゴンが幽閉された地下へと続いてる可能性は非常に高いで。

 穴からはどす黒い霊気のようなものがぷんぷんしとるでな。

 わくわくよのう。

 しかしスレナは魔王ダイゴンをあれほど怖がっておったでの。

 正直に話してもついてくることはないじゃろう。

 スレナの尻に敷かれたダルロはなおさらじゃ。

 説明してる暇もないで。

 幸いエントランスホールにはわしらだけじゃて。

 誰かに見つかる前に急がんといけんの。

 説明を一切はぶいて、わしは無言で穴の中に入り下へと向かったでな。


「おいおい! どこに行くんだよ!」


 ダルロがわしの後に続いたで。

 

「ちょっとダルロ!」


 スレナは迷いながらもダルロの後に続いたようじゃ。

 作戦成功じゃ。

 友達が無言で謎の穴に入れば、わしだって心配して追いかけてまうで。 

 

 上の方でゴゴゴォと石像が元に戻る音が聞こえるの。

 一定時間経つと閉じる仕掛けなのかもしれん。

 まあ、エントランスホールは広いでな。

 隅っこの石像がちょっくら前に移動したからといって、石像の後に隠れた穴まで誰かに気づかれる可能性は低いとは思うが、好都合じゃな。

 

「ちょっとサーシャちゃん、なんなのよこれ! 真っ暗でなにも見えない!」

「サーシャちゃん! なんなんだよ!」


 二人の叫び声が石造りの縦穴に反響しとるでの。

 わしは二人の問いには一切答えず、ファイアで明りを灯したで。

 二人が灯台の明りに導かれるようにの。

 ふふふふ。


 感覚的には十メートルほど降りたじゃろうか。

 底に辿り着いたで。

 六畳一間といった空間じゃ。

 縦穴は空間の壁伝いに続いておったんじゃね。

 そしてわしの目の前には大きな鉄の両開きの扉があるでの。

 大きな南京錠で施錠されはおるが、朽ち果ててボロボロじゃ。

 

「灼熱なる炎の精霊よ、汝の息吹となりて全てを焼き尽くさん。ファイナル!」


 最上級火炎放射魔法ファイナルをぶっ放すと、扉が前方に吹っ飛んだわい。

 きちんと詠唱を唱えると威力もすごいでな。

 鍵を壊すまでもなかったわい。

 二人も降りてきよったで。


 さあ、ここからが本当の冒険じゃ。

 わしのあくなき探究心がメラメラと燃えておるでのう。


「スレナさん、ダルロ君」

「な、なによ……」

「なんだいサーシャちゃん……」


 わしは小さなファイアを手のひらから繰り出して、自分の顔を下から照らしたで。

 演出も大事じゃて。


「詳しく話すと長くなるのですが、この先は魔王ダイゴンが幽閉されたという地下へと続いているかと思われます」

「冗談でしょ……」

「おいおい、嘘だろ……」


 さすが二人は驚いておるの。


「あたしは、ある事情からどうしてもこの先に進まねばなりません。しかし、あたしはまだ幼く二人の助けが必要です。力をかしてはくれませんか?」


 ぶっちゃけ、わしが行きたいから行くだけじゃ。

 二人の力をかりるつもりなどなかったのじゃが、見られてしまった以上成り行きじゃわい。 

 

「事情ってなによ!」

「なにがあったんだよサーシャちゃん!」

 

 わしはうつむき寂しげな表情を浮かべたで。


「それは言えません……お二人がこの先に進むのが、どうしても嫌とあれば仕方がないでしょう。あたし一人で進みます。もしあたしが戻らなければ、父のドーロンと母のタリルに、あたしの死を伝えてください」


 幼いわしを助けなかった烙印が一生つきまとうでな。

 ふふふふ。


「わ、わかったわよ……」

「俺も行くよ……」


 こうして今ここに、確固たる固い絆で結ばれた魔法使い三人のパーティーが結成されたのじゃった。




 ☆★☆★☆



 扉の向こうには下へと続く階段があったでの。

 三人並んで降りられぐらいの広さはあるでな。

 階段は枝分かれすることなく一本道じゃ。

 下へ下へと続いておるで。

 ダンジョンというのはただの噂じゃったんかの。

 わしら三人は、ファイアの魔法を松明を灯すようにして先に進んだで。


「きゃあ!」

「うわっ!」


 これは骨じゃね。

 しかも人骨じゃ。

 人骨がバラバラと無数に落ちておるわ。

 ボロボロになった剣もいくつか落ちておるで。

 地下三十メートルといったところかの。

 なにかあったんかの。

 

 おや? 


 ここで分岐点じゃね。

 二股に枝分かれしておるでな。

 右手に誘導するように、石造りの壁にはでかでかと矢印マークが刻まれておるわい。


「これ、右手に進んじゃいけないパターンよね……」

「右は、絶対なんかあるって、怪しすぎるよ……。サーシャちゃん左だよここは」

「大丈夫。右手だよ」


 二人の心配をよそに右手を選択したで。

 当たり前じゃろが。

 右手からはまがまがしい霊気のようなものを感じるで。

 左は多分、なんもないでの。

 なんもないとこ行ってどうするんじゃ。

 冒険にならんよって。


 先に進むにつれて、落ちておる人骨の量も増えてきよった。

 足元でパキパキと乾いた音が響きおるで。

 スレナはおっかなびっくりこきながら、つま先歩きじゃて。


 なんまいだぶ、なんまいだぶ。


 しばらく進むと出おったで。

 魔物じゃ。

 これを待っておったんよ。


「あ、あれはなんなの……」

「やばいってこれ……」


 二人して怯えながらわしのマントを掴むんじゃないで……。

 わし八歳じゃろうが。


 どでかい闘犬のような魔物じゃね。

 鋭い牙を持つ上あごと下あごの間から、長い下をベロリと出して涎を垂らしておるわ。

 頭からは一角獣のように角が生えておるでの。

 のしり、のしりとこちらに近づいてくるで。


「逃げなきゃ!」

「サーシャちゃん逃げたほうがいいよ!」

「え? 戦うんだよ?」


 ここまできてなにを言っておるんじゃ。

 確固たる絆を忘れおったんかいの。

 苦難を乗り越えずして得られるものはないでな。

 

 う~む。

 なんの魔法にしようかの。

 こやつは寒さには強い気がするで。

 やはり炎の魔法が無難じゃな。

 と、思ったら魔物は口から炎を吐き出しおった。


 これは大変じゃ……。


 わしが慌てておるのは魔物が怖いんじゃないでな。

 ここでスレナの髪の毛がチリチリパーマになってもうたら、わしはあの世いきじゃて。

 確実に殺されるで。

 

「凍てつく氷の精霊よ、我が身を灼熱なる炎から守りたまえ。ブリザベスト!」


 高等部二年で覚えた氷のシールド魔法じゃ。

 分厚い氷の壁が目の前に立ちはだかり、魔物の吐き出す炎を遮ることに成功したでな。

 危なかったわい。

 間一髪じゃ。

 こやつは火の属性の魔物じゃったらしいでの。


 そうとわかれば簡単じゃの。

 この学園でわしとガルロ学園長しか使えることのできない、あれでいくかね。

 ブリザガンドじゃ。


「ブリザガンド!」


 ブリザガントの詠唱はくそ長いでの、後手を取ってはいけん。

 氷の弾丸をイメージするだけじゃ。

 ちなみに魔法は杖なしでもできるよて。

 実はあれ、恰好だけらしいで。


 氷の無数の塊が弾丸となって飛んでいき、魔物は粉々の肉塊になってもうた。

 なんまいだぶ、なんまいだぶ。

 成仏しておくれ~な。


「サーシャちゃん……怖くないの……」


 スレナは青ざめた表情でそう言ったで。

 ダルロは腰が抜けたのか、顎をガクガクさせて尻もちをついておるでな。

 ここが肝心じゃの。


「もちろん怖いよ! とっても怖い! でも二人がいるからこそあたしは戦えるの! 二人がいなかったらあたし怖くて前に進めないもん!」

 

 ここで両手で顔を覆って、首を左右に振るんじゃ。

 迫真の演技じゃの。

 歩兵部隊で連隊長をやっておった、わしのじいさんが言っておったでな。

 後方支援してくれる仲間がいるからこそ、最前線で士気を失うことなく戦えるとな。

 しかしこの二人は後方支援にならなそうじゃがの……。


「わ、わかった! サーシャちゃん前に進もう!」

「お、俺だって少しは役に立てるぞ!」


 スレナは決意の表れか、固く口を結んでおるで。

 ダルロはスレナの手前無理しとるでな。

 おもらししおってからに。

 

 しかし、これが絆じゃ。

 わしの言っておった絆はこれなんじゃよ。

 


 じいさんや。

 成長していく子供というのは素晴らしいでの。

 わしらはもっともっと強くなるで――。




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