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八話 守護聖の導き

「サーシャさん、なにを見ているんですか?」


 昼飯を食べ終えて、談話室で茶をすすりながら、ひとりでくつろいでいるときじゃった。

 ミッチル先生がやってきたわい。

 生徒たちとの交流の一環として、先生たちもちょくちょくやってくるでな。

 しかし気まずいのう。

 ミッチル先生は牧師のような黒い帽子を被っておる。

 以前はそんなものは被っておらんかったで……。


「どうしたんですかそのペンダント?」

「拾ったんです」


 お化けからもらったなんて言えんからの。

 トイレの花子さん、いやトイレのミルチルさんの話なんてしたら大変なこっちゃ。

 仏教がこの異世界に広まってまうで。

 わしは教組になってしまうわい。


「それは、ザルド魔法学園を首席で卒業した者に与えられるペンダントですね」

「そうなんですか」

「私も持っています」


 ミッチル先生は胸元からキラリと光るペンダントを見せてくれたでな。

 そういえばミッチル先生は首席で卒業したんじゃったな。

 

「ちょっと見せてもらえますか」

「はい」


 くすんで輝きを失ったペンダントをミッチル先生に手渡したでの。


「ペンダントには、ナンバーが刻まれていますから、落とし主がわかるかもしれません」


 確かにペンダントの裏には、なにやら数字が刻まれておったでな。

 表にはザルド魔法学園の校章が刻まれておる。

 杖をバッテンに交差させた絵柄の校章じゃ。


「サーシャさん、これをどこで?」

「あたしの家の庭先です」


 トイレと正直に言ってもいいのじゃが、学園内の紛失物として没収されてまうかもしれんでな。

 わしの第六感がこれは重要なアイテムだと告げておるで。

 私有地なら問題なかろうて。

 この世界に土地の権利書なんてものがあるのかわからんがの。

 ちなみにひと月に一度は家に帰って親孝行しとるでな。


「これ、ナンバー27ですね」

「はあ」

「おおよそ千二百年前のザルド魔法学園を首席で卒業した者のペンダントですか」


 ミッチル先生の話によると、ザルド魔法学園が創立されて、はじめての首席の卒業生に渡されるペンダントがナンバー1じゃ。

 ちなみにミッチル先生はナンバー1168だったで。


「誰かがイタズラでつくったのでしょう。そんなものがサーシャさんのおうちの庭先に落ちてるわけがありませんからね」

「そうですか」

「まあ、午後からは私が教える授業はないので、暇つぶしに文献でもあたってみますよ」


 ミッチル先生はわしにペンダントを返すと、図書室に向かったでな。

 先生が暇つぶししとったらいかんでよ。

 給料泥棒じゃて。




 ☆★☆★☆



 

 わしは放課後に図書室に呼ばれたで。

 あまりにも古すぎるナンバーなので首席者リストにも載っておらんらしいでの。

 ミッチル先生は古い文献を手当たりしだい探ったようじゃ。

 古事記みたいなもんじゃろか。


「サーシャさん、わかりましたよ」


 机の上は文献の山じゃの。


「守護聖ミスチルです」

「誰ですか」

「ザルド大魔道士亡きあと、地下深く幽閉された魔王ダイゴンの魔力を封じ、復活を阻止した者の一人です。まあ神話のレベルの話です」

「はあ」

「魔王ダイゴンは幽閉されたのではなく、死んだだとか、諸説ありますがね」


 そう言いながらミッチル先生は分厚い文献をパタンと閉じたでな。

 

「本館のエントランスホールの壁際に銅像や石像が置かれていますよね?」

「はい」

「そこにミスチルの石像がありますから見てくるといいでしょう。古い石像だからすぐわかります」

「わかりました」


 


 トイレのミルチルと名前が似とるが、ミルチルは守護聖ミスチルではなかろうて。

 在校中に自殺しとるでな。

 そこから推測するに母から譲り受けたペンダントじゃね。

 ミルチルはミスチルの娘じゃ。

 まあ確証はないのじゃが、多分そんなところじゃろう。

 この世界には名字なんてもんはないのでややこやしいで。

 しかしあのお化けは、千二百年ほど近くあのトイレで泣いておったのかいな。

 とんでもない忍耐力のお化けじゃて……。


 ミッチル先生はこのペンダントが偽物だと言っておったが、お化けがイタズラでそんな偽物をつくれるわけはないでの。

 これは本物なのじゃろう。

 

 大きな両扉を開けて本館に入ると、まずエントランスホールが広がっておるで。

 左右の壁には二メートルほどの高さの銅像や石像が立ち並んでいるでの。

 唐草模様の赤い絨緞が敷かれて、奥には二階の回廊へと続く階段があるでな。

 階段の左右横にも扉があって、食堂の大広間やら、トイレなどに繋がっておる。

 回廊に面した壁には、くり抜いたような四角い穴がいくつも空いておるでな。

 そこから階段が迷路のように分岐して、各階への入り口となっておる。

 案内板なんてもんはないでな。

 不親切な設計じゃわい。

 

 わしはエントランスホールで守護聖ミスチルとやらの石像を探したで。

 すぐにわかったでの。

 台座にはミスチルとの名前が刻まれおるでな。

 

 ローブというんかの、フードを被って大切な赤子を守るように杖を胸に押し当てておる。

 わしらの先がくるりんとした杖ではなく、丸い宝石をはめ込んだような杖じゃ。

 

 かなり古い石像じゃね。

 長いこと雨風にさらされて浸食したような、朽ちかけた石像じゃ。

 所々ヒビも入っておる。

 

 ん? なんじゃろ。


 胸元に四角いくぼみがあるで。

 丁度ペンダントをぶら下げたような位置じゃ。

 そして、わしがトイレのミルチルから譲り受けたこのペンダントのプレートがピッタリとはまりそうじゃね。


 むふふふふふ。


 これはなにかありそうじゃの。

 ここにペンダントをはめ込めば、台座が動いて秘密の地下への入り口が!

 なんてことはなかったでな。

 ペンダントをはめ込むもなにもおきんかったわい。

 残念じゃ。 

 

「あれ? サーシャちゃん」


 ダルロがスレナと二人でやってきたで。

 エントランスホールの外へと続く両扉が重厚な音を立てて開きおった。

 外にデートでも行って帰ってきたのじゃろうて。

 繋いだ手を慌てて離しよった。

 ウブよのう。


 そのときじゃった。

 守護聖ミスチルの石像の台座がずずずと動いたのじゃった――。

 

 

 

 

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