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三話 課外授業

 今日はポカポカと天気がいいでな。

 まるで小春日和じゃ。

 ザルド魔法学園の前庭の綺麗に刈り込まれた芝生の上に座り、わしゃ弁当を食べておる。

 午後からはこの庭で課外授業と聞いての、昼飯がてらここに来たのじゃ。

 ちなみに昼飯はタリルがこしらえてくれておるで。

 自分でつくれるのじゃがの、母の尊厳を傷つけてはならん。

 しかし不思議なところじゃのう。

 馬に乗って剣を突き上げた騎士の銅像やら、杖をかざしたマント姿の女性の石像が庭のあちこちに置かれておるで。


「あれ? サーシャちゃんお弁当?」

「うん」


 同じクラスのダルロとかいう男子生徒がやってきたで。

 正義感が強く、学級委員長みたいな存在での。

 十五かそこらとはいえ立派な少年じゃよ。

 綺麗で整った顔立ちじゃね。


「サーシャちゃんが来てからもう一週間は経つね。もう慣れたかい?」

「うん」


 ダルロはわしの隣に座り、爽やかな笑顔を向けておるで。

 

「サーシャちゃんはいいな~」

「どうして?」


 ダルロは青空を眺めながら寂しそうな表情を浮かべとるのう。


「まだ小さいしさ、好きな男の子なんかいないだろ?」

「そんな人いないよ」


 もしかして、ダルロは誰かに恋心を抱いておるんじゃなかろうか。

 年寄りに相談するがええ、だてに長生きしとらんでよ。

 ちなみにわしは死んだじいさん一筋じゃ。


「片想いって辛いな~」

「誰が好きなの? 内緒にするから教えて」


 まず相手が誰かわからんことには作戦のたてようがないでの。

 歩兵第○連隊で連隊長をやっておったじいさんがよく言っておったわ。

 戦の要は作戦にあり、と。

 

「恥ずかしいな~、本当に内緒だよ?」

「うん」


 この手の内緒は大概、本人の知らぬところで内緒じゃなくなるもんじゃがの。

 ふふふふ。


「スレナさん……」


 ほう、あの気の強い娘じゃの。

 確かにあの手のプライドの高そうな相手に直球勝負で告白しても、撃沈する可能性は高いじゃろう。

 だからこそ古典的な手法がよい場合もあるで。

 若返ったせいか、最近ではわしの思考も横文字がちらほらと出るようになってきたでな。

 

「あのね――」


 わしはもにょもにょとダルロに耳打ちをしたで。





 ☆★☆★☆





「それではみなさんブリザードの魔法の授業をはじめます」

 

 みんなも庭に集まって課外授業がはじまったで。

 どうやら氷の魔法の実技をするらしいの。

 氷の魔法はキツネのような顔をしたメガネをかけた中年の女の先生が指導をしておる。

 名前はミケロット先生じゃ。

 まだ教科書でしか氷の魔法の授業は受けておらんのじゃが、基本はファイアと同じようなもんらしいの。

 教科書も少しではあるが読めるようになってきたで。

 

 

「それではまずスレナさんから」

「はいわかりました先生」


 スレナは一歩前に出ると杖を天にかざしよった。

 五メートルほど前方には等身大の藁人形が置かれておる。

 ダルロは緊張したおももちでそれを見つめておるわ。

 

「凍てつく氷の精霊よ汝の杖にその力を! ブリザード!」


 振りおろした杖の先から雪がぎょうさん噴き出しておるのう。

 まるであれじゃ、家庭用の除雪機の排雪口から勢いよく雪が飛び出しているみたいじゃ。

 目標の等身大の藁人形はみるみる真っ白になっていくわい。

 すごいもんじゃのう。


「次、サーシャさん」

「はい」


 わしの出番じゃな。

 詠唱とやらはよくわからんでな。

 わしも母のタリルに買ってもらった杖で同じようにやってみるかの。

 

「ブリザード」


 雪というより握りこぶしほどの大きさの氷の塊が無数に杖の先から飛び出しておる。

 まるで氷の弾丸のようじゃ。

 目標の藁人形はあっという間に砕け散ってしまたっのう。

 先生に叱られるかもしれんわい。


「サーシャさん……」

「はい」

「それはブリザガンドといって、ブリザードの魔法の最上級魔法です……」

「そうなんですか」

「その魔法を使えるのはこの学園でもガルロ学園長ただ一人です……私ですらまだ無理な最上級魔法なのですよ……」


 まあ、ちょっと予定がくるってもうたが、大丈夫じゃろう。

 

「先生」

「なんでしょうサーシャさん?」

「もう一度練習してもいいですか?」

「わかりました」


 あとはダルロ、頼んだで。

 目で合図をすると、ダルロはこくりと頷いたわい。

 

「ブリーザード」


 今度は氷のイメージから雪のイメージを頭で思い描くと、見事に杖の先から雪が噴き出しおった。

 壊れた藁人形に向けられたこの杖を、転んだふりをして――。


「きゃ」


 スレナに杖の先を向ける。

 ごうごうと猛吹雪がスレナめがけて飛んでいくで。


「危ないっ!」


 今まさに目の前に迫るトラックから子供を助けるように、ダルロはスレナに突進していきよった。

 間一髪、スレナはわしの魔法から逃げのびることができ、ダルロは猛吹雪を全身に受けて後方に吹っ飛びおった。

 うまい演技じゃのう。

 

「危ないじゃない! なにするのよ!」

「転んじゃって……スレナさんごめんなさい……」


 わしはうつむいてスレナに謝ったが、口元はにやりと笑っておったでな。


「ダルロ大丈夫!」


 スレナはダルロに駆け寄っていきよる。

 ここまで作戦通りじゃ。

 ここでダルロが一言「ケガはなかったかいスレナ」っと言って気を失うのがシナリオじゃ。

 

「先生! ダルロの意識がありません!」


 おや? おかしいのう。

 スレナを案ずる言葉を発してから気を失う演技じゃ。

 まさか本当に気を失ってしまったのかのう……。


「保健室に! 誰か保健室にダルロを運びなさい!」


 ダルロは男子生徒二人に担がれ保健室に運ばれていきよった。

 その後をスレナが「ダルロ! ダルロ!」と声をかけながらついていくで。

 まあ少し予定変更になってもうたが、成功じゃろうて。


「サーシャさん」

「はい」

「今日はもう帰っておうちで反省しない」

「はい」


 まあダルロのためじゃ、たまにはこんな役回りもいいじゃろうて。

 のう、じいさん。

 

 わしはスキップをして、こがね色の髪を跳ね上げながら家路をたどったのじゃった――。





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