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十八話 王宮にご招待

「サーシャちゃん! 大変だよ!」


 宿屋のおばさんが転がり込むようにしてわしの部屋へと飛び込んできたわい。

 晩飯の準備をしていたのか、包丁を握りしめたままじゃ。

 危ないのう。


「おばさん、なんの騒ぎなの?」

「なんの騒ぎじゃないよ! 国王陛下だよ! ラピリス十三世国王陛下がやってきたんだよ!」


 おばさんは「えらいこっちゃ」とつぶやきながら階段をドカドカと駆け下りていったでな。

 わしら四人もおばさんの後に続いたで。

 階段を下りると、宿屋の食堂の食卓にラピリス十三世国王とやらが座っておる。

 わしらを見て山羊ヒゲをいじりながら、にやにや笑っておるわい。

 スレナはおでこから何本もの縦筋が入ったかのように青ざめておる。

 ダルロはそんなスレナの後に隠れて「お許しください、お許しください」と呪文のように謝罪の弁を繰り返しておるで。

 キリエは最悪じゃ。

 雑貨屋の前でキリエが言った言葉を思い出せば無理もないじゃろう。


(どうせ貧乏じいさんよ)


 自らの言葉を思い出したのか、キリエは宿屋のおばさんの握る包丁を奪い取り、自らの首に刃を当てておる……。

 慌てて、王宮の兵士がそれを止めたでな。


「だから言ったじゃろ? わし金持ちかもしれんって」

 

 国王はそう言ってウインクしとるで。

 う~む。

 状況がよくつかめんわい。


「おじいさ……いや国王陛下はなぜあんな芝居をしたのですか?」


 わしは素直に疑問を投げかけたで。

 国王がボロボロの服でなにをやっておったんかいな。


「わしの芝居に気づいておったのか……やるのお嬢ちゃん……」

「いえ……」


 自分では迫真の演技をしとったらしいの。


「お嬢ちゃんが最近倒れたじいさんを助けたじゃろ? そしてそやつは敵国のスパイであったと聞いておる」

「その通りです」

「で、今度は助けた小汚いじいさんが、実は国王陛下でした、というのも面白いんじゃないかと思ってのう」


 話を聞くと、国王陛下は一般市民に扮装した護衛の兵士を何人も連れて、わしらがやってくるのを何時間も待っておったらしいでな。

 そして古典的王道ネタでわしらをビックリ仰天させようとひと芝居うったのじゃが、わしらに相手にもされず涙をのんだということじゃ。

 どんだけ暇な国王なんじゃ……。


「まあ、ザルド魔法学園の天才児サーシャはわしの耳にも届いておるでな」

「そうなんですか」

「実は何度か、食堂サーシャで食事をしたこともあるんじゃよ。もちろん変装しておったがのう。オムライスとやらは絶品じゃったのう」


 食堂サーシャにも来ておったのかいな……。

 この国の国王は自由すぎるじゃろが。

 暗殺とか、もうちょっと心配したほうがいいで。


「とりあえず、晩飯はまだじゃろう? 演技だったとはいえ命の恩人にお礼をしなくてはな! わしの馬車にはよ乗りんさい!」


 食事の準備をしていた宿屋のおばさんに、王宮の兵士が金一封の謝罪して、半ば無理やりわしら四人は国王の馬車に乗せられたでな。

 辺りは大騒ぎじゃ。

 一般市民は間近で国王なんぞ見たこともないのじゃろう。


 明日の朝刊の一面はでかでかとこの記事で埋め尽くされ、わしの顔が全国に知れ渡って有名人になってしまうでな。

 テレビ局のリポーターがわしのあとを追いかけまわし、お昼のワイドショーではわしの卒業文集が晒されて――。

 いや、そんな心配は無用じゃったか。




 ☆★☆★☆




 ダイゴン王国の王宮はザルド魔法学園とは比べ物にならないくらいの大きなお城じゃ。

 城壁がぐるりとお城を囲み、数か所ある門扉には二十四時間護衛の兵士が王宮への侵入者を見張っておるらしいで。

 国王が王宮までの道のり、馬車の中でそう言っておったわい。

 まるで首相官邸じゃね。

 馬車の窓から遠目に見ても、王宮は姫路城より大きそうじゃね。

 昔じいさんと城巡りをしたことがあるでの。

 城の外観は三角屋根の塔が何本もそびえ建つ、いかにも外国のお城じゃがの。

 

「門兵! 門扉を開けろ! 国王陛下のお戻りだ!」

「はっ!」

 

 馬車を先導していた馬に乗った兵士が門兵に門を開けるよう命令したでな。


 ん? あの槍を手にした見張りの門兵……。

 ドーロンじゃ……。

 あれはまさしく父のドーロンじゃわい。

 もう一人の門兵はランドルじゃ。

 二人は門兵の仕事をしておったのかいな。

 はじめて知ったでな。

 ここはちょっくら驚かしてやろうかのう。

 むふふふふ。


「よっ! パパ、ランドルさんごくろうさま!」


 わしは馬車の窓から片手を出して、ドーロンとランドルに労いの言葉をかけてやったでな。

 

「サ、サーシャ……なんで国王陛下の馬車に……」

「ドーロンさんの娘さんがなんで……」


 ドーロンとランドルはガニマタで腰を落とし、目ん玉ひん剥いて顎が外れるくらい口を開けておる。

 そういえばここ一カ月はドーロンにも会っていなかったで。

 生徒の自立をうながすべく、研修中はよほどのことがないがぎり親の接見は禁止になっておったでな。


「お嬢ちゃんの父上は王宮の兵士だとは聞いてはおったが、あの兵士じゃったか」

「はい。優しくて頼りがいのある素敵な父です。国王陛下のことを毎日のように話題にしていました」

「ほう、どんなことじゃ?」

「国民に理解があり、素晴らしい指導者であると。父は国王陛下のためならいつでも死ねると申しておりました。国王陛下を神様のように崇拝しております」

「そうか、そうか。なかなかの男じゃの、ほ~ほほほ」


 ドーロンはそんなこと言っておらんかったが、ここでゴマでもすっておけば、ボーナスアップもありうるで。

 もしかすると皮鎧から金ピカの鎧へと役職も上がるかもしれんでの。

 ふふふふふ。


 

 とんでもない豪華な晩餐会でもと期待をしておったのじゃが、少し大きな部屋でわしら四人と国王との小じんまりとした食事会だったでの。

 王宮というだけあって、出される料理は勢を極めた素晴らしい料理ではあったが、わしの口には合わんで。

 こんなもんばかり食べておったら、糖尿病になってしまうでな。

 それに大量の料理で食べきれたもんじゃないでの。

 テーブルの上には、はみ出さんばかりの料理でいっぱいじゃ。

 スレナとダルロは緊張しておったようじゃが、そつなくテーブルマナーをこなして宮廷料理に舌鼓しておったわい。

 キリエは執事のような黒服を着た初老の男性に「タッパはありませんか?」などと訊いて執事を困らせておったでな。

 

「おじいちゃん!」


 食後のだんらんの中、なにやらちびっこが室内に飛び込んできおったでな。


「これこれ、ランテスや、お客様の前で失礼じゃろう」

「おじいちゃん! サーシャってのはどいつ!」


 誰じゃこのちびっこは。

 五~六歳といったところじゃろうか。

 気品に満ち溢れた子供服と裏腹に、わしに敵意でもあるのか呼び捨てじゃ。

 金髪のかわいらしい坊やなんじゃけどのう。


「これはみなさん失礼しましたのう。わしのひ孫のランテスですじゃ」

「おじいちゃん! こいつがサーシャだね!」


 う~む。

 なにやらわしのことを知っておるらしいでの。

 背格好でわしのことがわかったらしいでな。

 ビシっと指をわしに突き出して憤慨しておるようじゃ……。


「お嬢ちゃん、許してくだされ。ランテスはなにやらお嬢ちゃんにライバル意識があるらしいのじゃ」

「はあ」


 国王によると、ランテスは六歳で魔法使いの修行中とのことじゃ。

 国王の直系というだけあって、ザルド魔法学園で勉強するのではなく、専属の魔法使いの教師が王宮でランテスの指導にあたっているらしいの。

 その教師からわしの噂を聞いたらしく、なにをどう思ったのか知らんが、わしをライバル視しておるらしいのじゃ。

 ランテスは六歳という若さながらも、魔法使いの才能は高いらしいでな。


「おい! お前! 僕と勝負しろ!」

「……」


 どうするんじゃこの展開は……。

 まあ、かわええ幼子のことじゃ、寛大に受け流してやるとするかね。


「なにを黙っている! このクソババア!」

「……」


 もちろんわしの頭の中はババアじゃが、それを言っておるのではないのはわかるで。

 二歳上のわしを揶揄した言葉じゃ。


「お前なんて将来、寝たきりのババアになって意地悪な嫁にいびられて死んでしまえ!」

「……」


 まるでわしの前世を知っているかのように痛いところをついてくるで……。

 六歳にして早くも悪口にかけては達観しておるようじゃ。


「お嬢ちゃん、申し訳ないのう。もしよかったらランテスの相手をしてやってはくれんかのう? ちょこっと遊んでやるつもりでいいんじゃが」

「わかりました」


 国王に頼まれたとあっては断ることはできんからの。

 父のドーロンの手前うまく接待勝負してやらんといけんわい。

 面倒よのう。

 



 ☆★☆★☆




「サーシャちゃん、わかってるわよね?」

「うまく負けてあげるんだよ」

「ケガでもさせたら大変よ」

「相手は幼子だ」


 王宮の離れにある道場のようなところでランテスと勝負することになってもうた。

 ここでランテスは日ごろ魔法の勉強をしておるようじゃ。

 道場といっても石造りの建屋で炎や氷の魔法を放っても大丈夫なようになっておる。

 ちなみに国王は「眠いから寝るわい」と言って先に床に向かったで。

 一応、あの初老の執事が角の方で見守っておるがの。

 なんか最後に一人さらっとしゃべりおったが、まあええわ。


「いくぞ! ババア!」

「はい」


 ランテスはちっこい杖を振り上げて戦闘態勢に入ったでな。

 わしは杖なしで平気じゃ。


「灼熱なる炎の精霊よ、創生の力を我に与えよ! ファイアド!」


 ほう、ファイアの上の火炎放射魔法のファイアドかいな。

 ザルド魔法学園の小等部一年生の六歳児でもファイアがやっとのはずじゃから、これは有望なのかもしれんのう。

 杖の先から溶接のガスバーナーよりも幾分勢いのある炎が噴き出しておる。

 しかしランテスとわしとの距離は五メールは離れておるで……。

 わしにその炎が届くことはないでの……。

 しかしここは演技が大切じゃ。


「きゃあ」


 わしは少し前に出て炎を受けたふりをして倒れ込んだでな。


「どうだ参ったか! ババア!」

「参りました」


 わしらのお遊びを見て、執事はクスっと笑いながら道場を出ていったわい。

 よしチャンスじゃ。

 ここで最上級魔法でもぶっ放してランテスにひと泡……。

 いやダメじゃな。

 わしは自重せんといけんの。


「これでもくらえ!」

「きゃあ」

「次はこれだ!」

「きゃあ」


 スレナやダルロにキリエは微笑ましく笑っておるで。

 お遊びといえども子供は元気じゃねえ。

 わしは疲れてきたでな。

 少し眠くなってきたかのう。

 おかしいのう、意識が薄らいでいくでな。

 遠くでスレナがわしの名を呼んでおるような……。

 ああ、ダメじゃ。

 意識を保つことが難しくなってきたでな……。


 そうして意識が深い深い暗闇に吸い込まれるようにして、わしは気を失ったのじゃった――。

 

 


 

 


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