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十四話 パチンパチン

 じいさんは朝になると、何度もわしに感謝して自分の家に帰っていきおった。

 朝飯を元気に食べておったところをみると大丈夫そうじゃったで。

 無断で外泊したことで、意地悪な嫁にいびられなければよいのじゃがのう。


「あの……スレナさんですよね?」

「はい、そうですけど?」


 ステルピア学園の食堂で、わしら四人が昼飯を食べておるときじゃった。

 男子生徒がスレナに声をかけてきおったで。

 

「俺、三年のバレルっていいます。もしよければ友達になってくれないかな?」

「え~と……」


 まあ、こんなことはぐらいは予想しておったでな。

 男子生徒のみの学園じゃ。

 いくら剣士と魔法使いの間に隔たりがあるとはいえ、所詮は思春期の男の子。

 異性に興味が湧くのも仕方ないじゃろう。

 おまけにスレナはべっぴんさんじゃ。

 さて、スレナはどうでるじゃろうか。

 相手の男はなかなかのハンサムじゃでな。


「あたし付き合ってる人がいます」

「友達だけでもダメかな?」

「ごめんなさい。彼氏に心配はかけたくはないので」

「そっか、わかったよ……」


 おおおお。

 きっぱりと断りおったわい。

 スレナは本当に芯の強い娘じゃね。

 ダルロは涙ぐんでおるで。

 もっと男らしくスレナを引っ張っていかんといけんよ。


「サーシャちゃんだよね?」

「はい」


 また違う男子生徒がやってきおったわい。

 う~む。

 ここにもロリコンがおったでな。

 

「放課後にでも僕の家に遊びにこないかい?」

「ごめんなさい」


 直球にもほどがあるじゃろが。

 この国はどうなっておるんじゃ。

 日本ならPTAで注意喚起されとるで。

 こやつの部屋の中を想像するのが怖いわい。


「ダルロ君だよね?」

「はあ?」


 また新たなる男子生徒がダルロの元にやってきたでな。

 おるんじゃね。

 どこの国にもおるんじゃね。

 別にわしは偏見はもってはおらん。


「友達になってくれるかな? うほん」

「本当ですか! 俺でよければ!」


 やってしもうたねダルロ。

 固く握手を結んではおるが、これからが大変じゃよ。

 わしゃ知らんで~。

 しかしこの先の展開がどうなるのかも気になるところじゃて。

 むふふふふ。


「さあ、みんな食べ終わったわね。行きましょうか」

「え、え? もう少しゆっくりしていこうよ!」


 それから昼休みぎりぎりまで、食堂で茶をすすりながら雑談しておったが、キリエの元には誰もやってくることはなかったのじゃった。




 ☆★☆★☆




 ステルピア学園では模擬訓練の他に、わしらも教室に混じって社会史のような授業も受けたでな。

 ダイゴン王国の建国からはじまり、現在にいたるまでの経過を学ぶというものじゃ。

 ザルド魔法学園でもそのような授業はあったのじゃが、剣士の立場から考察した社会史には奥深いものがあるで。

 とくに王宮との関わりが深い剣士だけあって、政治面に重点をおいた授業が多かったでな。

 わしは、寝たきりになる前には必ず選挙で投票に行っておったのでな。

 政治に関心は高いでの。


 そんな生活を繰り返しながら、王都に来て一週間が経ったわい。

 裁縫屋のおばさんとの約束の日じゃ。

 わしは夕方に裁縫屋に向かったでな。


「こんな感じでいいかしら?」

 

 どれどれ。

 パチンパチン。


「完璧だよおばさん! ありがとう!」

「あらよかったわ。こんなお財布見たことないので、うまくつくれるか心配だったけど」


 わしが頼んだガマ口の財布は完璧な仕上がりのようじゃね。

 深みのあるえんじ色のガマ口の財布は、わし好みの渋さをかもしだしておる。

 やはりこれじゃなくては、しっくりこんでな。

 パチンパチン。


 裁縫屋のおばさんにお金を支払い、ルンルン気分でスキップしながら宿屋に向かう途中のことじゃった。

 誰かにつけられてる気配を感じるで。

 最近そんな気がすることが多いでな。

 後ろを振り返ると、酒屋の店先に置かれた大きな酒樽の後に、誰かがさっと身を隠すのが見えたわい。

 困ったのう。

 ストリートキングだかストーカートンだかいったかの。

 人のあとをつけまわし、歪んだ愛情を無理やり押し付けて、ときには殺人事件にまで発展するというあれじゃ。


 とりあえず気づかぬふりをして、誰なのかを確かめねばならんのう。

 へたに詰め寄って相手を興奮させてはならんからの。

 わしは宿屋に直行することなく、商店街をウィンドウショッピングしながら遠回りすることにしたで。


 ほう。

 この果物は見たことがないでの。

 果物を手に取りながら、横目で――。


 チラ。


 おるで。

 商店街というだけあって、人の数は多いでな。

 しかし、曲がり角にある食堂の石壁から半身でこちらをうかがう者がおるで。

 距離にして二十メートルじゃ。


 この金のネックレスは綺麗じゃね。

 わしに似合うかの。

 金のネックレスを手に取り横目で――。


 チラ。


 おるでおるで。

『元祖味噌ラーメン』と書かれたラーメン屋の立て看板に隠れながら、わしを観察しておるわい。

 ちなみに元祖は食堂サーシャじゃ。

 店のメニューにラーメンもあるからの。


 しばらくそんな横目作戦をしとったが、相手が誰なのかはよくわからん。

 しかし蛇のようなしつこさで、わしのあとをつけましておるのは確かじゃ。

 

 少し思いきった作戦でいくかの。

 わしはスキップをしながらつまずきを装い――。


「きゃ」


 転んだふりをする。

 ダルロのブリザード失神事件が懐かしいで。

 しかしこれは困ったもんじゃの。

 転んだふりをして後の様子をうかがうと、八百屋の前で白菜を両手でつかんで顔だけを隠してる人物がおるで……。

 あの体格、そして腰に携えた剣。

 顔が見えんでもわかるでな……。


 あれはゴンドルア先生じゃ……。

 最近わしのあとをつけましておったのは、あやつじゃったのかい……。




 ☆★☆★☆




 その日の夜にダイゴンがようやく口を開きおった。

 深い眠りに落ちておったそうじゃが、本当かどうかはわからんがの。


「ミーテルエ……。覚えている」

「強かったのかいな?」

「卓越した魔法剣士だ。剣術のみを極めた名のある剣士にもひけをとらない腕前だろう」

「魔法のほうはどうだったのかいな」

「貴様やザルドには及ばないものの、高等魔族同等の魔力を秘めていた。私はミーテルエに片足を切り落とされ動きを封じられた」


 魔王の片足を切り落とすとはすごいもんじゃのう。

 相当の腕前だったらしいの。

 ダイゴンによると、片足を切り落とされようが、時間が経てば自己再生するらしいがの。

 

「私の体に傷を負わせた剣士は二人のみ。ミーテルエとステルピアだ」


 ステルピア学園の名前の由来は、ステルピアという剣士のことだったようじゃな。

 ステルピア学園の社会史の授業では神話にはあまり言及しておらんかったからの。

 今はじめて知ったわい。


「それでお前さんは足は二本なのかの? それとも四本かいの?」

「……」


 こういう質問には答えたくないんじゃね。

 また沈黙しおってからに。

 本当に困った魔王もおるもんじゃな。


 

 ゴンドルア先生という新たな問題を抱えて、困ったことになりそうじゃ。

 のう、じいさんや。

 わしはこの世界でうまくやっていくことができるかのう。

 あの世から見守ってておくれ~な――。

 

 


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