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十一話 王都研修

「魔王とは魔族を束ねる王のことだ。そして魔族は人に忌み嫌われる生き物。魔族も人を嫌う」

「ふむふむ。そうなんじゃ」


 翌日の昼休みに、食事を食べ終えたわしは、ダイゴンとおしゃべりをしておるでな。

 学園の裏手にある庭の木陰ならば人目につくこともなかろうて。

 

「支配するかされるか。捕食するかされるか。そこに知能の優位性は存在しない」

「魔物なんてものは動物みたいな知能なんじゃろ。年寄りの知恵袋は役に立つでな」

「魔物とは下級魔族の総称であり、人語を操る高等魔族の知能は貴様ら人間と変わらない」


 かつてはそういう魔族がいたらしいでな。

 しかし、軍配が上がったのは人間の方で、魔族はほとんど殺されてしまったようじゃ。

 

「しかしのう、お主らと違って、人は魔族を食わんじゃろ?」

「貴様は勘違いをしている。かつての人間は魔族を魔力の糧とし捕食していた」


 あのドブネズミの魔物を煮て焼いて食ったらうまいんかのう。

 人に忌み嫌われる魔族というからには、本能的な嫌悪感があるはずじゃ。

 しかしゲテモノは美味だともいわれておるし、案外魔物の肉はうまいのかもしれんの。

 食堂サーシャの新メニューとして考案してみる必要があるで。


 ダイゴンの話を聞くかぎりでは、人間と魔族のどちらかが食物連鎖の頂点に立つという、いわば種族間戦争じゃね。

 しかしダイゴンは、ザルド大魔道士のデスファイナルの最終魔法で敗れたとはいえ、秘められた魔力は強大。

 百日間業火に焼かれても死ぬことはなかったそうじゃ。

 人間側としては苦肉の策ではあるが、魔王復活を阻止するべく地下深くに幽閉して封印したそうな。

 そして千二百年という、とても長い歳月が過ぎゆくなか、神話のように脚色され尾ひれがついて今にいたるというわけじゃな。

 ミッチル先生によればダイゴンが神聖視されている古い文献もあるらしいで。

 守護聖の存在ですら事実かどうかわからんと言っておったしな。

 そして、もう何百年も前から守護役の守護聖はおらんのじゃろうな。


 封印の力も弱まり、魔王復活が近いから「もっかいビシっと封印してこんかい!」と守護聖ミスチルがわしに役目を託したのかの。

 だとしたら逆に魔王を救出してしまったで……。

 まあええわ。

 なんとかなるじゃろ。


「そういえば、人骨が散乱しておったが、あれはなんなんじゃ?」

「どこから入ったのかわからないが、お宝目当ての盗掘者だろう」

「あの魔物はなんじゃ、闘犬みたいなのやら、ドブネズミみたいな魔物がおったで」

「私の同族ではない。宝目当ての輩から盗掘されぬために守護聖が解き放った聖獣だろう」


 あれは聖獣だったんかいな……。

 わしらは聖獣をぶっ殺してしまったで……。

 どう見ても化け物じゃろうが……。


 ペンダントでも見せれば、鼻をクンクン鳴らしてじゃれついてきたのかもしれん。

 まあ仕方ないで。

 サッカーでもバレなきゃファウルにならんでな。

 生前はプロ野球に並んでサッカーも好きじゃった。

 BSでプレミアリーグをよく見とったわ。


「ところで、お主はどんな姿形をしておるのかの?」

「……」


 ん? こやつ沈黙しおったで。


「聞いたらまずいことじゃったのか」

「……」


 怪しいで。

 わしの問いに一切答えなくなりおった。

 

「好きな食べ物はなんじゃ?」

「……」


 雑談にも応じないで。

 困った奴よのう。

 まあ大体のことはわかったでな。

 午後の授業もあるし戻るとするかね。


「こら! 爆弾娘! お前は芝生に座るな!」

「すみません」


 用務員のおじさんに見つかってもうた。

 まだわしが芝生に座ってくつろぐことは許されておらんでな。

 用務員のおじさんがつくった特別ルールじゃて。

 

 

 


 ☆★☆★☆





 放課後になってわしは学園長室に呼ばれたでな。

 ガルロ学園長はどっしりと腰を落として、机の上で手を組んでおる。

 その向かいの応接ソファには、スレナとダルロにキリエが座っておった。

 はて? なんじゃろう?

 

「そろったようだね。サーシャ君もそこに座りなさい」

「はい」


 秘密の地下に入ったことでもバレて、怒られるんかいな?

 しかしスレナとダルロには、退学になったら困るでしょと、口止めをしておるし……。

 キリエがいるのも解せんのう。


「まあ、まあ、みんなそんなに固くならないで。王都研修の件だから」

「もしかして、俺、いや僕たちに決まったんですか?」


 ダルロはカチカチの緊張を和らげて、瞳をキランとさせて中腰で立ち上がったわい。

 王都研修の件じゃったか。


「そうだよ。君たち四人が今年の王都研修生だ」


 ザルド魔法学園はその名の通り、魔法を学ぶ学校じゃ。

 しかし王都にはステルピア学園という剣士を育成する学校があるでな。

 研修はそこで行われることになっておる。


 王都といっても、ダイゴン王国は百万人にも満たない小国なので、お城のふもとに広がる城下町みたいなもんじゃね。

 ザルド魔法学園から王都までは五キロほどの道のりで、すぐ近くじゃ。

 父のドーロンも毎日馬をぽっかぽっかと走らせて王都に出勤しとるわい。

 ちなみにわしも母のタリルと何度か行ったことがあるでな。

 杖やら教科書やらも王都でしか買えん。

 まあ郊外に住んでる田舎もんが、ちょっくら町の中心部の商店街にお買いものに行く感覚じゃな。

 

 ステルピア学園に入学するということは、王宮の兵士になるということでの。

 この学園はダイゴン王国直属の剣士育成機関で、ドーロンもここの卒業生じゃ。

 

 魔法の世界とはいっても、魔力がなく魔法が使えない者も多いでな。

 そのような者たちは、剣士を目指すのがセオリーじゃ。

 剣士としての名声を上げれば給金が跳ね上がるでの。

 なかには魔法剣士なるものもおるらしいが、まれのようじゃね。

 二兎追うものは一兎をも得ず。

 力が分散されて、へっぽこ魔法使いとへっぽこ剣士を足したような使い物にならん者が多いと聞くで。


 研修の目的としては剣士との親睦を深めるのが目的じゃ。

 戦では剣士が前衛でふんばり、魔法使いが後方支援するのが効率がいいのはなんとなくわかるで。

 戦国の戦の弓と鉄砲みたいなもんじゃね。

 

「先生!」

「なんだねスレナ君」

「ステルピア学園の生徒たちは、ザルド魔法学園の生徒に対して、あまり良い印象を抱いてないと聞いています。大丈夫なんでしょうか」


 そうらしいの、わしも聞いたことがあるで。

 魔力のない者にとって、魔法使いは憧れの的なのも周知の事実。

 それだけに、魔法使いに偏見もつ剣士も多いらしいでの。

 剣士を見下したプライドの高い魔法使いもいるらしいので、まあお互い様じゃろうか。

 

「大丈夫だ。毎年の慣例行事だし問題はない」

「わ……わかりました……」


 スレナは女の子じゃからね。

 筋肉ムキムキの男子生徒が集まる中、少し怖いんじゃろう。


「学園長!」

「なんだねキリエ君?」

「ステルピア学園内の寮で寝泊まりをするのでしょうか……」


 おさげをモジモジしながらキリエはソバカス顔を赤らめておるね。


「いや、近くの宿屋を手配している」

「そ、そうですか……」


 おさげをブランコの鎖を持つようにしてキリエはがっくりとうつむいたわい。

 あれじゃね。

 ムキムキがタイプなんじゃね。

 どんなことを想像しておったのやら。

 

「学園長!」

「はいダルロ君」

「剣を持っていってもいいでしょうか?」

「君は剣を持っているのかね」

「ま、まあ……」

「別にかまわないよ。杖でも剣でもただの媒体だ。その物自体に魔力はないからね」

「ありがとうございます!」


 ダルロは剣士に憧れているふしがあるね。

 しかしその細い体では、今さら剣術を覚えて剣士になるのは難しいじゃろう。

 まさか魔法剣士にでもなるつもりなんじゃろうか。


「それでは明日の朝出発するので、自宅に戻りご両親に挨拶をして準備をはじめなさい」


 明日とかありえんじゃろが。

 ハードスケジュールにもほどがあるで。

 おなごは身支度に時間がかかるんじゃ。

 キリエはすっ飛んで帰っていったわい。

 さてはこやつ、王都研修のことを忘れておったんじゃないじゃろうな。

 ボケがはじまっておるで。

 どこまで無茶させるんじゃ、この学園の先生というもんは……。




 ☆★☆★☆




「ママただいまー」

「あれ、サーシャ? 次に帰ってくるのは来週じゃなかった?」

「ちょっとね」


 今日は食堂サーシャは休みじゃ。

 週に一回、定休日があるで。

 タリルは物干し竿から取り込んだ洗濯物を丁寧に畳んでおるね。

 どれどれ。

 ほう、シワひとつないでの。

 畳み方も完璧じゃ。

 わしが口出しすることはもうないで。


「パパは?」

「もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら」

「じゃあ今日は、あたしが料理つくるからママはゆっくり休んでて」

「あら、うれしいわねえ。じゃあサーシャお願いね」


 急いで荷物をまとめんといけんのじゃが、親孝行は肝心じゃで。

 研修期間の一カ月は王都から帰ることを許されておらん。


「ふ~疲れた、疲れた。おや? サーシャじゃないか!」

「パパただいまー」


 ドーロン、そんなにわしを抱きしめるんじゃないで……。

 汗臭いんじゃって……。

 

 わしは食事の席で王都への研修を両親に告げたで。

 タリルは寂しいような嬉しいような中間ぐらいの顔で、「おめでとうサーシャ」といってくれたでな。

 ザルド魔法学園の歴代の首席はこの研修に必ず参加しておるそうな。

 母の期待も高いのじゃろう。

 ドーロンは鼻水を垂らしておいおいと泣いておるわい。

 

「パパ」

「ぐず……ぐず……なんだいザージャ……」

「はぁ~としてね、スリスリしてあげる。肩こってるでしょ」





 ドーロンの幅広い肩は、いつまでもいつまでも小刻みに震えておるのじゃった――。

 

 


 

 

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