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十話 魔王ダイゴン

 まずいで……。

 わしら完全に迷ってしまったでな。


「サーシャちゃん、これどっちに行くの?」

「左だよ」


 今さら迷ったなんて言えんで……。

 スレナとダルロに心配かけぬように、自信満々でそう答えるしかないでの。

 先に進むにつれて、迷路のような複雑な道が続いておる。

 床には相変わらず人骨が散乱して、ときおり魔物も出るで。

 あの闘犬のようなどでかい魔物はあれっきりじゃった。

 出るのは、瞳が赤く光る、鋭いげっ歯を持ったドブネズミみたいな魔物じゃ。

 大きさはドブネズミの三倍ぐらいはあるでな。


 スレナは魔物を炎で焼きはらい魔物退治しているうちに、自信がついてきておる。

 恐怖心も少し和らいだようじゃ。

 ダルロは、「俺にも魔物退治ができたぞ!」と勇ましく誇らしげにひとりで喜んではおるが、あれはただのちっこい虫じゃで。


「サーシャちゃん、また分かれ道だよ」

「うん、今度は右だよ」


 まがまがしいあの霊気のようなものが辺りに立ち込んでおっての。

 どこに進もうが同じじゃ。

 道に迷ったなんてスレナにバレたら末恐ろしいことになりそうじゃ。


「お! また魔物発見! ファイア!」


 だからダルロ、それ虫じゃ。



 ここら一体は地下の最深部なのか、どこを歩いても下に続く階段のようなものは見当たらん。

 最深部であれば、魔王ダイゴンがこのフロアにいる可能性が高いでな。

 どこに幽閉されておるもんかのう。


 最終手段で、わしは右の壁伝いに歩くことにしたでの。

 こうすれば同じ道を何度もさ迷うことはないからの。

 時間はかかるが仕方ないで。

 そろそろスレナは、わしに疑惑の目を向けておる。

 女の勘はあなどれん。


「サーシャちゃん、次どっち?」

「右だよ」

「さっきから右ばかりなんだけど……本当にこっちでいいの?」

「う、うん……」


 じ~っと、訝しげな眼差しでわしの顔を横目でチラチラと見ておるわい。


 しばらく歩くと行き止まりになってしもうた。

 

 おや?


 突き当りの城壁のような壁には、ペンダントをはめ込むようなくぼみがあるで。

 怪しいのう。

 わしはペンダントをカチャリとはめ込んだで。

 思った通り壁が土埃を舞い上げながら、シャッターのように上がっていくで。

 ここで間違いないようじゃな。

 えがった、えがった。


 二十畳はあろうかという室内の中央に、石像が円を描くようにして中心に向かって十二体建っておる。

 どれも守護聖ミスチルのような石像じゃ。

 顔立ちや、杖の持ち方などは微妙に違うがの。

 その中心には丸い平たい台座が置かれていて、台座の中心には小さな銀のカップが置かれておる。

 その中にはビー玉のような黒い玉がひとつ。

 

「ここにダイゴンが幽閉さてれるのかしら……」

「いかにも怪しい部屋だね……」


 わしらの灯すファイアの淡い炎の光を受けて、石像が影を落としていい雰囲気をかもしだしとるわい。

 

「随分と年寄りな幼子だ」


 カップから誰かの声が聞こえたで。

 

「なに? なにか聞こえなかった?」

「俺も聞こえた。年寄りがどうとか……」


 スレナとダルロはあたりをキョロキョロして気づいてはおらんが、あの声はカップの中からじゃね。

 多分、あの小さな玉に魔王ダイゴンは封印さておるんじゃな。

 しかしあやつ、わしのことを見抜きおった。

 まずいで……。

 

「あっ! あれ!」


 わしはスレナとダルロの後方を指を差したで。


「なに?」

「なんだ?」


 二人はわしの指さす方を振り返りおった。

 わしはダイゴンが封印されておろう玉を素早くカップから取り出し、マントのポケットにしまったでな。


「ごめん、小さな魔物だと思ったら、ただの石コロだった」

「ビックリしたじゃない……」

「驚かすなよ……」


 危なかったで。


「ごめん、ちょっとおトイレ!」


 わしは部屋を飛び出し、曲がり角を曲がったで。


「よけいなこと言うんじゃないで。わしのことは秘密になっておる」

「私が誰だか知っているのかね?」

「お前さんがダイゴンじゃろう?」

「その通り。察しのいいばあさんだ」


 魔王というわりには元気がなさそうな声じゃ。

 もっとすごいの想像しとったんじゃがの。


「私が封印されてからどれほどの時が経ったのだね?」

「千二百年と聞いておる」


 ダイゴンは沈黙しておるで。

 千二百年と聞いて衝撃を受けたのかのう。 


「貴様の名は?」

「サーシャじゃ」

「サーシャとやら、私は守護聖たちの長きにわたる封印により力を奪われ、かつての魔力はない」

「そうなんかいの」


 残念じゃ。


「台座から離れた今、自らの力で封印を解くことは容易い。しかし貴様の魔力には遠く及ばない。貴様の魔力はザルドすら凌駕している。貴様に勝てる見込みはまったくない」


 本当かいな。


「私をここから連れ去ってはくれぬか? サーシャとやら」

 

 ここは悩みどころじゃね。

 こやつは嘘を言っておるかもわからん。

 しかし、はなから疑うのはいけんね。

 わしは寛大じゃ。

 

「わかったでの」

「ありがとう。お礼として、ひとついいことを教えてあげよう――」




 ☆★☆★☆




「遅くなってごめんね」

「はしたないわね……」

「ははは、仕方がないさスレナ。サーシャちゃんはまだ子供なんだから」


 呑気なもんようのう。

 わしのポケットにダイゴンがおるというのに。


「さあ、もう帰ろうよ」

「え? もう帰るの?」

「ダイゴンはいいのかい?」

「うん、気配は感じない。とうの昔に死んじゃってるんだよきっと」

 

 仲間の絆といっても、言っていいことと悪いことがあるでな。

 魔王ダイゴンを持って帰ったなんてバレたらとんでもないことになりおるで。


 しかし、帰る前にやることがあるでの。

 カップの置かれた台座の側面にはペンダントをはめ込むくぼみがあるでな。

 ペンダントをはめ込むと台座が動いて下にスペースがあるで。

 その中には、剣や杖だらけじゃ。

 石像の守護聖の魔力に守られてるせいか、剣も杖も新品同様じゃ。

 歴代の守護聖たちの杖や、ダイゴン討伐にたずさわった名のある剣士の剣らしいで。

 ダイゴンが教えてくれたわい。


「すっごーい! この杖素敵!」

「うわすげー! この剣かっこいいー!」 

「二人とも頑張ったんだもん。好きなの持って帰ろうよ」


 冒険にお宝はつきものじゃからな。

 成り行きとはいえ二人には迷惑かけたのでの。

 ダルロは虫退治しかしておらんじゃがの。


 ダイゴンの話によると秘密の通路があるらしいでな。

 教えられたところにペンダントをはめ込むと入り口が現れおった。

 そこを辿ると階段が上へと一本道で続いておったでな。

 帰り道が不安じゃったが、最短距離で戻れそうじゃ。

 

 階段を折り返しながら上がりようやく到着したわい。

 えらいくたびれてもうた。

 天板のくぼみにペンダントをはめ込むと天板が横に動いたで。


 ん? ここはどこじゃ?


「ここ談話室だわ」

「本当だ」


 後を振り返ると談話室の暖炉の中の床が動いて元に戻っていくの。

 一方通行なのかこちらからは進むことはできないようじゃね。

 ここから出入りできるようにすれば楽じゃろうに。

 なにかわけがあるんじゃろうな。


 就寝時間は十一時なので談話室には誰もおらん。

 暖炉の上に置かれた大きな砂時計を確認すると夜の十二時じゃった。


「さあ、寮に帰って寝ましょうか」


 スレナはきらびやかな宝石のはめ込まれた杖を選んだようじゃね。

 まるで守護聖ミスチルの杖のようじゃ。

 大事そうに胸に抱えておるわ。


「おう!」


 ダルロは満足げな表情で高らかと両刃の剣をかざしておる。

 というか、おぬしは魔法使いじゃろうが……。


 ポケットの中のダイゴンはとりあえず大人しくしとるみたいじゃね。

 明日にでもいろいろと話をしてみようかね。

 思っていたより悪い奴ではないと思うのは気のせいじゃろうか。

 それともわしが騙されておるんじゃろうかの。


 こうしてわしたちの冒険は幕を閉じたのじゃった。



  

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