9・忘れ物②
ジンジャーは、浮き出た地図をもう一度見ると、唸り声をあげた。
この本の持ち主の家が、自分の家とは反対の方向にあったからだ。
補習で遅くなった上に、本まで届けていたら、いつ家に帰り着くか、わかったもんじゃない。
(悪いけど、この本はこのままここに置いて帰ろう)
ジンジャーは、本を閉じると、それをもとあった場所に静かに戻した。
―― 誰もいない廊下の出窓に置かれた本。
閉じられた本は、またもとのただの古本となって、地図も出てこなければ、点滅もしなかった。
(忘れたほうが悪いんだもん)
今のことはなかったことに、あの本を私は見なかったってことにしようと、ジンジャーは歩き出した。
……歩き出した、が。 立ち止まった。
そしてそのまま、誰に向けてとも言えない文句をぶつぶつと言いだした。
「あぁ、もう! はいはい。わかりましたよ。持って行きますよ。持って行けばいいんでしょ!」
そう言うと勢いよく振りかえり、その勢いのままで出窓に近づき、本の前へと立った。
「言っておくけど、あなたの持ち主に会ったら、一発ガツンと言わせてもらうんだから」
本に向いそう言い放つと、ジンジャーは、ふぅとため息をついた。
「あなたに、罪はないものね」
ジンジャーは、再び本を開いた。
地図が浮き上がる。
そして今度は、点滅している家の下に小さく書かれた持ち主の名前までを読み取った。
「え? ラウ? アレックス・ラウ?」
その名まえは、ジンジャーのセレモニーの時に土の属性として来てくれた、あのラウ家の少年のものだった。