7・補習
がらんとした学校の廊下を、ジンジャーは一人とぼとぼと歩いていた。
「筆記テストは、そう悪くないのになぁ」
確かにジンジャーは、筆記の面での成績は悪くない。中の上といったところだ。
コツコツと調べものをして勉強をすることを苦と感じないので、先生たちからの評価も高い。
だから、このまま魔法が使えなくても、今まで学んだことをいかした(例えば薬草学の授業なんかは、ジンジャーの好む分野だ)仕事に就いて生活を送るのでも一向に構わないと思っていた。
ところがどうだろう。
火の属性の実践魔法の補習ときたら。
今までの人生で味わったことがないほどの、挫折の連続だった。
そもそも、肝心の火が出せないのである。
つまり「おしるし」以来、ジンジャーは、自分の意思で火を出せていなかったのだ。
「おしるし」というのは、予め開かれていた魔法の蛇口から出た自分の潜在魔力が、バケツに一杯になって溢れ出た状態の時に起こるものだと、ジンジャーは聞いて育ってきた。
そして「魔法を使う」というのは、その蛇口を自身の力でコントロールをして、開け閉めする行為なのだと。
火の属性のコッペル先生も、根気よくジンジャーに火を使うコツをあれこれ教えてくれていた。
でも、今日もジンジャーは、火を出すことができなかった。
最低、最悪な気分だった。
「おしるし」さえこなければ、「火の属性」なんて持たなければ、そこそこの成績の真面目な生徒といった評価だったのに、今では世界で一番出来の悪い生徒の烙印が押されていると、ジンジャーには思えてしょうがなった。
ジンジャーは、大きく溜息を一つついた。
夕闇が、窓枠の長い影を、廊下に落としていた。
黄金色の光が、ジンジャーの目に優しく映った。
連日こんな時間まで学校に残っている自分に悲しくなってきたジンジャーの瞳には、じわじわと涙が溜まってきた。