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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
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6・土の属性②

「君はさ、魔法の実践とか今までしてこなかったから知らないかもしれないけど」

 そう言うとイフティは、唇を湿らすような仕草をした。

「あるんだよ。つまり、属性の領域とか……優劣、ってもんがさ」

 優劣、の言葉を聞き、ジンジャーはコチの顔を見上げた。 ジンジャーには、彼の表情が読めなかった。


「水や風や火みたいに、土はさ、はっきりとした魔法としての表現っていうのかな、そういうのがないんだよ。それはさ、まぁ、いいんだ。土は劣る属性なんだってことで、そう処理すればいいんだから。でもさ、それだけじゃないんだよ。ほんと、始末が悪いっていうか」

 そう言うと、イフティは足元の石を蹴った。

「あいつらって、他の属性の領域に入ってくるんだ」

「他の属性の領域?」

「そっ。自分以外の属性の魔法も、使いこなしちゃうってこと」

 そう言うと、なにかを思い出したのか、イフティはぶつぶつと文句を言いだした。 ジンジャーは、コチにそっと尋ねる。

「ねぇ、コチ。それって、土の属性は優秀って意味よね?」

「そうだね」

 コチは穏やかにそう答えた。

「ちょっと、ちょっと、そこの二人。こそこそとして、感じ悪いじゃないか」

「ちょっと。感じが悪いのは、そっちでしょ。土の属性をそんな風に言って。土の属性といえば、グレイスだってそうだけど、彼女は全然変じゃないし」

「彼女はさ、グレイスはいい子だから。だから、彼女は特別っていうか」

 イフティがグレイスを好きなのは、グレイス以外の学年のみなが知るところだった。

 なのに、イフティが、グレイスの属性でもある土の魔法使いについてあまり良く思っていないというのは、ジンジャーにとって意外だった。

「あぁ、もう。属性はともかく、ともかくラウ家は、問題が多い家なんだってば!」


 ―― 問題が多い?


 儀式の最後でジンジャーは気絶してしまったため、後の様子は今朝家族から聞いたのだが、そこでも確かにラウ家の話が出たのだ。

 

 朝から、双子のリオとミューズは元気だった。

「昨日の、儀式、面白かったね。ジェッター大おばさんの迫力ったらさ」

 リオの言葉にミューズが笑う。

「ジンジャーにも見せたかった。大おばさんね、母さんの作ったプリン、八個も食べたんだよ!」

「しかも、怒りながらね」

 双子が顔を見合わせて笑う。

「『ラウ家は来るは、ジンジャーは倒れるわ。今日の儀式は、語り草になります!』だって。よくあれだけ怒れるよねぇ」リオがパンを口いっぱいに頬張る。

「なにそれ。ラウ家って、なにかあるわけ?」 

 そう訊くジンジャーに、双子は揃って「そんな話は、聞いたことないよ」と、のんびりと答えてきた。 ミューズが、そういえばと、話し出す。

「父さんと母さんが大おばさんに言ってたよ。『ラウ家だからって、そんなに騒ぐ事じゃないですよ』って。だから、大おばさんのいつもの思いこみだと思う」

 それきり、双子の話は別の話題に変わった。 双子のジンジャーも、ジェッター大おばの意見よりも、両親の言葉を信じたのだ。



 ラウ家には、なにがあったのだろう?



「確かに、土の属性は、僕たちと違って目に見えて自分の属性を表現するってことは少ないし、属性以外の力も強く、さらにそもそも土の属性の数も少ないから、どうしてもそんな誤解を受けるけど」

 コチの声が静かに響く。

 土の属性の魔法使いの数が、他の属性よりも少ないことは、ジンジャーは知識としては知っていた。

「多くの賢者が出るのも、土の属性からだってことを忘れちゃだめだよ」

 コチが、イフティを軽くたしなめる。


 ジンジャーは、このコチの平等な物の見方がとても好きだった。 しかもコチは、この年ですでにいくつもの「伝説」を持つ少年だった。 優秀なのだ。恐ろしいほどに。

 イフティはまだなにか言いたそうだが、コチの言葉に黙って頷いていた。 イフティの中にも、コチの言うことは正しいといった思いがあったのだろう。


「あのさ。ともかく、私は、昨日の儀式で倒れちゃったけどこの通り元気だし、みんなから譲り受けた力も体に適応しているみたいだし」

 ジンジャーが明るい声で、二人に話す。

「だから、補習も頑張ります~って?」

 イフティが、ジンジャーをからかう。

「補習は、そう。あるわ。……頑張るわよ」

 そのジンジャーの諦めたような声に、コチが涼しい声で小さく笑った。



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