5・ハナつまみ者⑤
芋を片手に家に帰ると、棚から本が一冊消えていた。
まただ、と思いつつ所有の魔法専用の地図を広げると、赤い光が学校の上で止まっていた。 この地図を見れば、本が今どこにいるのかがわかるのだ。
「今、学校から戻って来たっていうのに」
アレックスの気まぐれな本は、どうやら学校へ行ってしまったようだ。 とはいえ、今までの経験上、本は必ず家に帰って来た。 アレックスはもう少し様子を見たうえで、学校に連絡を入れればいいと判断した。
時間つぶしも兼ねて、気になっていた庭の落ち葉や枯れ枝を掃き集め、その中に芋を仕込んだ。 グレイス自慢の芋は、思いのほか小ぶりだったので、焼くにもそう時間はかからないだろう。
一通りの用意を済ませ、一旦家の中に戻り地図を確認すると、なんと本が学校から移動し始めているのがわかった。
家に向って、進んでいるようだ。
―― それはいい。
問題なのは、このゆっくりとした進み方が、人の足に因るものだと思えたことだ。
放っておいても勝手に帰って来るのになぁ、と思うと同時に、学校から離れたこんな場所までわざわざたった一冊の本を届けに来るなんて、そいつは相当のおせっかいか、変わり者決定だなと思った。
アレックスは、そのままじっと地図を見ていた。赤い点はちまちまと、変わらぬ速さで、その上を進んでいた。本は、この人物に運ばれることをよしとしているようだ。 でなければ、とっととそいつの側から離れて、勝手に帰って来るのだろうから。
「自由だよなぁ、ばあちゃんは」
アレックスはため息交じりにそう言うと、念のためにお茶の用意だけはしておこうと動き出した。
おせっかいで変わり者は、噂のジンジャー・ペンだった。
ジンジャー・ペンは、本を宝物のように扱っていた。
―― あ、笑っている。
そんなはずないのに、アレックスには懐かしい祖母の笑い声が聞こえた気がした。
だからアレックスも、ほんの少しだけ、おせっかいになることにした。