4・ハナつまみ者④
放課後になり、アレックスは学年主任のラビド先生の部屋に呼ばれた。
部屋の前で待っていると、開いた扉から、今朝の同級生が母親と一緒に出てきた。
二人揃って、固まったようにアレックスを見つめた。 こんな視線は、今に始まったことではないので、アレックスは二人とは視線を合わさずに、室内にいる先生の声に促されるようにして前に進んだ。
「こんにちは、アレックス」
「こんにちは、先生」
アレックスの挨拶に、ラビド先生は頷いた。 アレックスはいつものように、先生の机の前で立ち止った。
「今朝は、災難でしたね。もう、体は大丈夫ですか?」
ラビド先生の問いに、アレックスは「はい、先生」と答えた。 先生はじっとアレックスの顔を見ると、また頷いた。
「今日呼んだのは、あなたの学年戻しの件についてです」
ごくりとアレックスは唾を飲んだ。
「あなたが、本来とは違った学年で過ごしていること。そして、あなたが魔法の実戦でも理論でも優れた成績をおさめていることは、よくわかりました」
先生は、机の上で腕を組んだ。
「学年の先生方も、あなたを正当な学年に戻すことに概ね賛成しています。遅れた一年分の授業も、といってもあなたは独自で勉強を進めていると聞いていますので、それを取り戻すのも簡単なことでしょう」
先生はそこで一旦言葉を切ると、じっとアレックスを見つめた。
「ただ、一つ、心配な事があります。それはあなたが、人に対して無関心だということです」
その言葉に、アレックスは、自分の顔がこわばるのを感じた。
「それを、そのことをどうしたらいいのか、今、協議中です」
「協議中、ですか」
「そう、協議中です」
―― 協議中。
つまりは、未定だということだ。
主任室を出た後、アレックスはまっすぐに教室に帰る気にはなれずに、ふらふらと中庭へと向かった。
次々と降り積もる落ち葉を掃くのが間に合わないのか、そこは一面の黄金色だった。その乾いた一枚の葉を、アレックスは手に取った。軸をつまみ、指先でくるんと回したあと、さっとその指先から葉を離した。ひらひらと葉は舞い降り、そして地面に広がる元にいた場所――仲間がいる場所へと戻って行った。もうどれが、さっきまで自分の手の中にあった一枚なのかわからない。
―― 人に対して無関心。
それは、まぁ、そうなのだろう。
他の人と関わるよりも、遅れた一年を取り戻すことだけしか、アレックスの頭にはなかったからだ。 だからこそ、学年戻しの話が出るまでのことができたのだ。
そして、人に対して無関心でいることで、奴らの、例えば、今朝の同級生のような面々の戯言にも付き合わずにこれたのだ。
けれど、そこが足りないのだと突かれるのなら、何も言えない。そこから始まっての、今の自分があるのだから。
いまさら人とかかわるなんて、無理だ。因って、学年戻しは不可能だ。
ため息をつくアレックスの肩に、黄金色した葉がはらりと優しく舞い降りた。




