3・ハナつまみ者③
「アレックス!」
昼休みに廊下に出ると、グレイスから大声で呼ばれた。彼女は、自身よりも大きなずた袋を、ずるずると引きずりながら歩いてきた。 彼女は、アレックスの一学年上のクラスに在籍していた。
「おすそわけ、美味いよ。私が作った芋」
つややかなおかっぱ頭をふりながらグレイスはそう言うと、ずた袋に手を突っ込んだ。そして、小分け用の紙袋に芋を詰め込むと、アレックスに渡してきた。
「ふふふ。土の改良をしたのだよ」
内緒だと言わんばかりの小声でそう言うと、グレイスは芋を掴んだ手で顔をふいた。頬にすっと茶の線が入る。
「旦那。まずは、その芋を食ってみてちょうだいよ。場合によっては、格安で土の配合を教えてもいいよ」
ふふふとグレイスは満足そうに笑うと、他の土の子にもこれを渡しに行かなくちゃいけないからさ、と再び廊下を歩き出した。
グレイスも、アレックスと同じ土の属性だ。
グレイスの言う「土の子」とは、土の属性の仲間と言う意味だ。
土の属性は、他の属性に比べ人数が少ないので、学年に関係なく一緒に学ぶ授業があった。
アレックスにとっても、さばさばとした土オタクのグレイスは付き合いやすい相手だった。
―― と。視線を感じた。
あぁ、またかぁと思いつつ、面倒なので気がつかないふりをする。 うっとおしいその視線を受けつつも、アレックスは完璧に無視したまま教室に向い歩き出した。すっと、横に気配を感じた。今日は、逃げられなかったなと、アレックスは生暖かい気持ちになった。
「あのさ、その手提げの中を見せてよ。グレイスに、なにを貰ったの? 」
そんなことは本人に直接聞け! と言いたいところだが、そうすると会話が長引くことは想像に難くないので、アレックスは乱暴に手提げ袋をまさぐると、無言で芋を二本掴んで隣の明るい金髪の主に渡した。
彼は、イフティ・ブラッドはグレイスと同じ学年だ。
アレックスとグレイスは同じ属性とはいえ、はっきり言ってしまえばそれだけの間柄だ。付き合いやすいが、特別仲良くはない。つまり一緒にいるのも授業絡みか、若しくはこういった土関係の収穫ネタ云々の時だけだ。
なのに、そのたびにアレックスは視線を感じるのだった――イフティの。
人のことはどうでもいいと思っているアレックスにしたって、いくらなんでもイフティの気持ちはわかる。かわっていないのは、グレイスだけだ。
かといって、自分がそんなことをグレイスに言うのも面倒なので黙ってはいるが。全く、変な相手にグレイスも好かれたもんだと思い、ちろりとイフティを見ると、彼は、なんと芋を掴んでほほ笑んでいた。
気味が悪い。
こんな奴と一緒に儀式をしたのかと思うと、なんとも言えない気持ちになりつつ、アレックスはそのことで再びジンジャー・ペンのことを考えてしまった。




