2・ハナつまみ者②
「火が出せてない?」
ジンジャー・ペンは、火の属性の魔法使いだ。 実践魔法の最初の一歩に当たる魔法は、その属性のものと概ね決まっている。
「あぁ、なるほど。自分と違う属性の魔法を使ってしまったのかぁ」
儀式で、自分以外の属性の祝福も受けるため、ごくたまにそういったことも起きてしまうらしい。
「まぁ、いいんじゃないですか。人それぞれってことで」
どの属性のものでも、魔法には変わりない。
「それがな。かわいそうに。そういったことじゃ、ないんだなぁ」
「もしかして、まだ魔法が使えないんですか?」
火が出せていない、というのは、つまりが魔法自体が使えていないってことだろうか。信じられないといった思いでアレックスが訊くと、先生は静かに頷いた。
アレックスにおしるしが来たのは、本人にも記憶がないほど幼い頃だ。 よって、おしるしのことも、儀式のことも、初めて魔法を使った時のことも、自分の記憶にはない。
その時の様子の全ては、家族から聞いたことによるものだ。 だから、どうやったら魔法の使いとしての最初の一歩が踏み出せるかなんてことは、わからない。
考えるよりも前に、魔法は自分の中にあり、そして現れたのだ。
そしてそれはアレックスを含めた多くの人がみな同じで、魚が川を泳ぐように、鳥が空を飛ぶように、説明しがたいことなのだ。
ジンジャー・ペンのおしるしは、遅かった。
アレックスは、儀式で初めてジンジャーに会ったわけで、その時はジンジャーの年を知る由もなかったけれど、当然、自分よりは年下の子なのだろうなとは思った。
それが、あとになって学年で言えば一つ上だったと知り、正直驚いた。
驚いたけれど、でも、それだけだった。 そこで、ジンジャー・ペンへの興味は、失せていた。
「コッペル先生も頑張っているんだがな。どうにもこうにも、先生にとっても稀な状況なようで、苦戦しているようなんだな」
「先生、もし、ジンジャー・ペンが、このまま魔法が使えないとしたら、どうなるんですか? そんな事例、今まであったんですか?」
「記録としては残ってない。しかし、だからといって、ないとはいえない。デリケートな問題だからな」
いつもは暢気な先生が珍しく顔をしかめた。
頬に手を置きながら、アレックスは考えた。 まさか、ぼくが、祝福を授けたのが良くなかった、とか。今朝、因縁をつけてきた、同級生のふくらんだ鼻の穴を思い出す。 奴も、そう言いたかったのかもしれない。
ジンジャー・ペンが魔法が使えないのは、おまえが祝福したせいだと。
アレックスが儀式に呼ばれたのは、今回が初めてだった。 その相手が、魔法を使えずにいる。 それは、あまりいい気分ではない。
冷静に考えれば、それが自分のせいだなんて筈はないってことはわかっている。
そう、頭では、わかるけれど。
それに、だからって、まぁ。
自分に何ができるってわけでもない。
気の毒だけど、凄く。
アレックスはため息をつくなり、はっとした。
もしかして今、なにかしてあげようなんて、少し思っちゃった?
うわっ! がらでもないし!
自分の考えに鳥肌がたったアレックスは、勢いよく両腕を摩った。




