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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
18/25

18・おせっかいと意地悪

「……あぁもう、なんだか。いろいろとお世話になってしまって」

 目と鼻の頭を真っ赤にしたジンジャーの腕には、袋一杯の焼芋が入っていた。


 芋が焼きあがるまでの随分な時間を、ジンジャーは泣いたり、はたまたアレックスに淹れてもらった(!)お茶を飲んだりしながら、過ごしたのだった。


 当然、どっぷりと日は暮れている。

 周りに家がないだけに、その暗さは余計感じられた。 


「まぁ、こっちも、うまい芋が食べられたし」


 アレックスはそう言うと、ジンジャーに灯りを渡した。 夜道には必要な品である。 腹ペコ具合は解消されたので、あとはぐんぐんと家まで歩くのみだ。


 そう思った途端、鼻がむずっとした。

 ―― へ、ヘブシッ!

 こんな最後の最後まで、間抜けな音のくしゃみが出てしまったのが、情けない。

「あ、ちょっと待ってて」

 アレックスはそう言うと、家の中から紺色の襟巻を取って来て、それをそのままジンジャーに巻いた。


「これ一つで、洋服一枚分暖かいっていうからね」

「へぇ、そうなんだ。ありがとう」

 確かにマフラーは、暖かかった。 ジンジャーの中に、ほわんと優しい気持ちが広がる。


 ―― 意外と、いい人かもしれない。アレックスって。


「えっと、じゃあ。その。さよなら」

「さようなら」


 よしっと、気合を入れて帰ろうと、テクテクと歩き出したジンジャーだが、はたと思い立ち止まり、振り返った。


「襟巻は、明日学校で返せばいい?」

「うん」

「わかった、さよなら」

「さようなら」


 明日、学校に持って行くのを忘れないようにしないと。そういえば、アレックスは何組なのだろう。ジンジャーは立ち止まり、振り向いた。


「ところで、アレックスって何組?」

「7組」

「そっか。7組ね。明日、持って行くわ。さよなら」

「さようなら」

 

 ジンジャーは少し歩き、また、立ち止まる。7組? そんなわけない。

 

「ねぇ、私も7組だけど、あなたいたっけ?」

 思わず一歩後戻り。

「ジンジャーとは、学年が違うから」

「あぁ、そっか。私よりも上の学年なのね」

 そして、また一歩戻ろうと足を踏み出したときと 「いや。1つ下の――」 と言うアレックスの言葉が重なって。





 ―――――――― パッ。





「お帰り、ジンジャー」

 チェスターがアツアツの皿を持って、ジンジャーの前を横切った。

「ジンジャー! 遅いよ」

 ミューズも野菜がたくさん入ったお皿を運びながら、ジンジャーの周りをぐるりと回った。

「あっ! 焼芋だぁ!」

 リオは、目ざとくジンジャーの腕から焼き芋の入った袋を取ると、走っていった。


 ジンジャーだけが、厚着のままで灯りを持ったまま広間に立っていた。彼女は 灯りを置き、アレックスに巻いてもらった襟巻を外すと、手にとった。

 すると、襟巻からは「10歩目に家に着く魔法」という文字と、「おせっかいへ。注意力不足。他人から物を借りる場合は、慎重に」との短文が浮かび上がってきたのだ。


 アレックスだ! 彼は、ジンジャーにもわかるように、わざわざ魔法の文字表示までかけていた。

 

「なんてヤツ!」

 ジンジャーは、自分の顔が赤くなっていくのがわかった。

「うー! なんてヤツ! なんてヤツ!」

 そう言いながらジンジャーは、襟巻を縦や横に引っ張った。

「おや、ジンジャー。帰ってたんだね」

 二階からおりてきたジョナサンが、ジンジャーに声をかけた。

「あっ。ただいま」

 遅くなりました、とジンジャーもジョナサンに挨拶をした。



 そう答えるジンジャーの顔を見て、ジョナサンは思わずほほ笑んだ。

 なぜなら、彼の目に映る可愛い可愛い娘の顔には、久しぶりに、本当に久しぶりに、心からの笑顔が広がっていたからだ。






 ジンジャー・ペン 16歳。

 火の属性を持つ魔法使いとして、遅ればせながら、ここに誕生。


(おしまい)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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