18・おせっかいと意地悪
「……あぁもう、なんだか。いろいろとお世話になってしまって」
目と鼻の頭を真っ赤にしたジンジャーの腕には、袋一杯の焼芋が入っていた。
芋が焼きあがるまでの随分な時間を、ジンジャーは泣いたり、はたまたアレックスに淹れてもらった(!)お茶を飲んだりしながら、過ごしたのだった。
当然、どっぷりと日は暮れている。
周りに家がないだけに、その暗さは余計感じられた。
「まぁ、こっちも、うまい芋が食べられたし」
アレックスはそう言うと、ジンジャーに灯りを渡した。 夜道には必要な品である。 腹ペコ具合は解消されたので、あとはぐんぐんと家まで歩くのみだ。
そう思った途端、鼻がむずっとした。
―― へ、ヘブシッ!
こんな最後の最後まで、間抜けな音のくしゃみが出てしまったのが、情けない。
「あ、ちょっと待ってて」
アレックスはそう言うと、家の中から紺色の襟巻を取って来て、それをそのままジンジャーに巻いた。
「これ一つで、洋服一枚分暖かいっていうからね」
「へぇ、そうなんだ。ありがとう」
確かにマフラーは、暖かかった。 ジンジャーの中に、ほわんと優しい気持ちが広がる。
―― 意外と、いい人かもしれない。アレックスって。
「えっと、じゃあ。その。さよなら」
「さようなら」
よしっと、気合を入れて帰ろうと、テクテクと歩き出したジンジャーだが、はたと思い立ち止まり、振り返った。
「襟巻は、明日学校で返せばいい?」
「うん」
「わかった、さよなら」
「さようなら」
明日、学校に持って行くのを忘れないようにしないと。そういえば、アレックスは何組なのだろう。ジンジャーは立ち止まり、振り向いた。
「ところで、アレックスって何組?」
「7組」
「そっか。7組ね。明日、持って行くわ。さよなら」
「さようなら」
ジンジャーは少し歩き、また、立ち止まる。7組? そんなわけない。
「ねぇ、私も7組だけど、あなたいたっけ?」
思わず一歩後戻り。
「ジンジャーとは、学年が違うから」
「あぁ、そっか。私よりも上の学年なのね」
そして、また一歩戻ろうと足を踏み出したときと 「いや。1つ下の――」 と言うアレックスの言葉が重なって。
―――――――― パッ。
「お帰り、ジンジャー」
チェスターがアツアツの皿を持って、ジンジャーの前を横切った。
「ジンジャー! 遅いよ」
ミューズも野菜がたくさん入ったお皿を運びながら、ジンジャーの周りをぐるりと回った。
「あっ! 焼芋だぁ!」
リオは、目ざとくジンジャーの腕から焼き芋の入った袋を取ると、走っていった。
ジンジャーだけが、厚着のままで灯りを持ったまま広間に立っていた。彼女は 灯りを置き、アレックスに巻いてもらった襟巻を外すと、手にとった。
すると、襟巻からは「10歩目に家に着く魔法」という文字と、「おせっかいへ。注意力不足。他人から物を借りる場合は、慎重に」との短文が浮かび上がってきたのだ。
アレックスだ! 彼は、ジンジャーにもわかるように、わざわざ魔法の文字表示までかけていた。
「なんてヤツ!」
ジンジャーは、自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
「うー! なんてヤツ! なんてヤツ!」
そう言いながらジンジャーは、襟巻を縦や横に引っ張った。
「おや、ジンジャー。帰ってたんだね」
二階からおりてきたジョナサンが、ジンジャーに声をかけた。
「あっ。ただいま」
遅くなりました、とジンジャーもジョナサンに挨拶をした。
そう答えるジンジャーの顔を見て、ジョナサンは思わずほほ笑んだ。
なぜなら、彼の目に映る可愛い可愛い娘の顔には、久しぶりに、本当に久しぶりに、心からの笑顔が広がっていたからだ。
ジンジャー・ペン 16歳。
火の属性を持つ魔法使いとして、遅ればせながら、ここに誕生。
(おしまい)
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