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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
17/25

17・火の魔法②

「枯葉が燃える匂い。炎により徐々にかたちを崩していく、重なる葉。パチパチと爆ぜる音。そして、空に向い上がっていく、白く細い煙」


 ジンジャーの耳に、アレックスの静かな声が響いてきた。

 はっとした。

 気持ちが、澄んできた。

 今まで頭や心の中を占めていた黒いモヤモヤとしたものが、霧が晴れるように失せていった。


 ―― リーン、リーン


 ミューズとリオが鳴らした鈴の音が、聞こえた気がした。

 そして、ジンジャーの頭の中には、アレックスの言葉通りの枯れ葉の未来が浮かんできた。

 

 ――「想像するのですよ」


 先生の言葉が重なる。

 

「熱を持った枯れ葉。周りの温度は徐々に上がり、そして空気は揺らめく」

 

 アレックスの言葉に身を任せる。

 すると、体中の神経が研ぎ澄まされて、細胞の一つ一つが目覚めていくような感覚が走った。

 ―― 意識が今までとは違い、ぐっと何かに入って行くような。

 

 

 そうだ。

 火が生まれるってことは、枯れ葉が燃えるってだけじゃないんだ。

 

 ジンジャーは、アレックスの言葉を心の中で繰り返した。

 そして、それを繰り返すうちに、その言葉が自分のものになっていくのを感じた。

 

 火が生まれることで、空気も変われば、匂いや音も、そして熱も煙も生じる。

 そう、変わるのだ。

 火が生まれることで、周りの全てが。


 全ては繋がっている、かかわりがある。


 ―― 「上っ面ばかり」


 アレックスの言葉が頭をよぎる。


 そうだ。私は、火を出すことしか考えていなかった。

 火が生まれる意味を、考えていなかった。


 全ては繋がっている、かかわりがある。


 その繋がりの中で、私は火を生み出すのだ。

 繋がりを感じること。

 魔法を使うということ。


 考えて、想像して。

 あの日、おしるしの夜に上がった火を。

 思い出して。

 あの時感じた、空気を。

 


 ふいに、ジンジャーの体の中に、熱が生まれた。

 そしてそれは、体の隅々まで、ぴりぴりと駆け巡っていった。

 ―― そう、儀式の時のように。

 ジンジャーは、腕を高く上げた。

 そして、その指先を鋭い矢のように枯れ葉に向い下ろした。



 何かが風を切る音がした直後、枯葉の山がパチパチッと燃えだした。

 赤く揺れる炎が、ジンジャーの瞳に映った。

 枯葉は、燃えていた。


「出た……」

 ジンジャーは、自分が出した火に見とれていた。

 火は枯葉に宿り炎となり、そしてじわじわと燃え広がっていったのだ。

(私が出したんだ。私が 、何もないところから、火を出した!)

 すごい! 

 すごい! 

 できた!

「とても綺麗な火を出すんだね。ジンジャー・ペン」

 アレックスがいつのまにか隣に立っていた。

「わ、わ、私」

 今更ながらジンジャーの体は、ガクガクと震えだした。

「あ、わたし。火……」

 歯が上手い具合に噛み合わず、顎がガチガチとなった。

 言いたいことはたくさんあるのに、言葉になって出てこない。

 そんなジンジャーを見下ろすアレックスの真黒な瞳は、意地悪じゃなかった。

 悪魔でもなかった。

 ジンジャーは、「おしるし」の日からの感じていた緊張が、ふわふわと解けていくのを感じた。


 そして、ジンジャーは。

 アレックスの胸にしがみつくと、わんわんと泣きだしてしまったのだった。

 


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