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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
16/25

16・火の魔法①

 ジンジャーの目の前には、先程目にした落ち葉の山があった。

 なんか、食べていく?と、アレックスに連れてこられた先が、ここだったのだ。


「ええと、これは?」

「この枯れ葉の中に、芋が仕込んであるんだ」

「あぁ、焼き芋にするのね」

 それで? と、ジンジャーが首をかしげる。

「確か、火の属性だったよね。折角だから、火をつけてもらおうと思ってさ」

「あぁ、火を。えっ? まさか、私が?」

 ジンジャーの問いに、アレックスが大きく頷いた。


 ジンジャーは、冷汗が出た。

 さっき、勢いで魔法が使えると言ってしまった手前、今更できないとは言うのは、ちょっとアレである。唸りながら落ち葉を睨んだ。 睨んだところで、火は出ない。


(あぁ、あの時、このお腹がならなければ!)

 今更ながらに、自分のお腹が恨めしくなる。

(つまり、そうよね。やっぱりここは、悔しいけど、言いたくないけど。正直に「できない」と言ってしまうしか、ないわ)


 不承不承ながらも、ジンジャーがそう思い始めた時。

「まさか、実は火が出せないなんてことは、ないよね」 と、アレックスが、悪魔のほほ笑みを浮かべて言ってきた。

「そんなことっ。あるわけないじゃない!」

 よせばいいのにジンジャーは、ついまたうっかりそう啖呵を切り、せっかくの機会を逃してしまったのだった。





 目の前には、落ち葉の山。 後ろには、悪魔のほほ笑みのアレックス そして、落ち葉とアレックスの間には、冷汗たらりのジンジャー。

 ジンジャーは、親の敵を見る様な形相で、落ち葉の山を見つめていた。 できるとかできないじゃなくて、これはもう「やらねばならない」のだ。

 ジンジャーは、覚悟を決めた。


「では、やります」

「どーぞ」

 ジンジャーは大きく深呼吸をすると、今日やった補習を思い出した。


 補習は「火が出たら直ちに水で消す魔法」がかけられた教室の中で、行われた。 対象物は、耐熱容器の上に乗せた新聞紙の切れ端だ。

「ジンジャー、想像するのですよ。この紙が燃える未来を思うのです」

 コッペル先生は「実践魔法の基礎は想像だ」と、説明をした。 魔法をかけたことにより起こる現象を、想像すること。そうすることで、自分の中にある力の通る道を作ることになるのだと。


 ジンジャーは、先生に言われたとおりに、何度も何度も心の中でそれを思った。 けれど、そう思ってみたところで、新聞紙は燃えもしなければ、焦げ臭くもならなかった。 火はつかなかったのだ。


 目の前の枯葉を見る。 これが燃える。 炎となる。

 

(本当に燃えてくれるの?  この枯葉が私の魔法で燃えるなんて、あるのかしら?)

 ジンジャーには、枯葉が鉄の塊に見えた。

(燃えるわけない。 私にできるはずない)


 先生がつきっきりで何日も補習をしているのに、できないのだ。

 おしるしが来たって、儀式をしたって、魔法が使えなくては魔法使いとはいえない。 魔法が使えない魔法使いなんて、前代未聞だ。


 嘆くジェッターおばさんの顔が浮かぶ。 そして、興味津々で儀式にやって来た人達の顔も。


「15歳でおしるしですって」

「しかも、両親とは違った属性だそうよ」

「とんだ、出来損ないね」

 そんな、はっきりとした言葉。

(一族の誰に似たんだか)

(いっそ、魔法が授からなければよかったものの)

 そんな、声にならない思い。

 家族は気にするなと言ってくれるけれど、魔法が使えない劣等感は、日に日に募っていった。

 

 自分が出来損ないなのは、わかっている。

 人に言われなくても、わかっている。

 あれは、あのおしるしは、何かの間違いだったんだって、思っている。

 多分、何かのまぐれで、あの夜だけ火が上がってしまったんだ。


 ―― 全部、全部、わかっている。


 欲しくなかった、魔法なんて。

 できない自分を、知りたくなんてなかった。

 できないのに、欲しくなんてなかった。

 祝福なんかされても、いいことなんて一つもない。


 魔法なんて、面倒くさい。


 だってどうやったって、私にはできっこないんだから。

 


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