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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
15/25

15・秘密と温室②

 目の前にある、紫の花をつけるこの植物は、一般栽培を禁止されている紫野草だった。


「へぇ。それがなんだかわかるんだ」

 アレックスの声に、ジンジャーは飛び上がるほど驚いた。

「一般栽培禁止の草だろ? でも、これを見てそうだとわかる人って少ないよ。ほんと、勉強してんだね」

 アレックスは、小さな紫の花をポツリと摘んだ。

「『紫野草』俗名『死の草』。主に根の部分を乾燥し煎じ、気付け薬のお茶として飲用される。しかし取り扱いが難しく強い毒性を持つために、栽培は限られた機関のみで行なわれる。特に花の部分は毒性が強く、それを口にした瞬間に」

 そう言うとアレックスは、指でつまんだ花を口に入れようとした。

「わっ! な、なにを!」

(この人、一体なにを考えているの!)

 ジンジャーは、アレックスの腕めがけて手を伸ばした。

「わっ、ちょっと!」

 アレックスの叫び声とともに、二人してそのまま温室の通路へと倒れてこんだ。 倒れる瞬間、目をつぶってしまったジンジャーは、その目をこわごわと開いた。


(死んでいたら、どうしよう)

 しかしパチリと開いたジンジャーの瞳には、アレックスの真黒な瞳が飛び込んできた。

 ジンジャーは、脱力した。

「すごい。胸よりも骨が当たった」

 ジンジャーは顔を赤くしながら、アレックスの上から飛び退いた。

「だって、あなたがあの花を口にしようとしたから」

 ジンジャーは、しどろもどろになりながらもそう答えた。

 けれどそれは、ジンジャーがアレックスに覆いかぶさった理由にはなったけれど、胸と骨に関する説明には勿論なっていなかった。

「心配無用さ。この花は食べても大丈夫なんだから」

 そう言うとアレックスは、寝そべったままでその花をポンと口に入れ飲み込んだ。

「うそ! やだやだ、だめだめ!」

 ジンジャーは、再びアレックスの上に乗る。

「口! 開けて! お願い! 死んじゃう、死んじゃう!」

 ジンジャーはアレックスの口をこじ開けようと、指をぎゅうぎゅうと中に入れた。

「ちょっと、落ち着けよ!」

 アレックスが口を開いた。

「……生きてる」

 ジンジャーは、アレックスの上に跨ったまま再び脱力した。 アレックスは、自分の体を起こした。 アレックスとジンジャーは、向き合っていた。


「これ、改良種だから。毒は、ないんだよ」

 そう話すアレックスの唇からは、血が出ていた。 ジンジャーが、引っかいてしまったのだろう。

「血が出ているわ」

 ジンジャーの言葉で、アレックスが唇をぺろりと舐めた。

「少し、ふざけ過ぎたな」

 そう言うと、アレックスは笑った。


 でも、ジンジャーは、笑えなかった。

 ジンジャーは、のろのろとアレックスの上から体をどけた。 全く、ここに来てからは、何もかもがアレックスのペースだ。 完全に遊ばれている。 ちがう。


 ―― ばかにされている。


 ジンジャーはそう思いながらも、ポケットからハンカチを出し、アレックスに差しだした。

「これ、きれいだから。口を押さえて」

 アレックスは驚いた顔をしながらも、素直にそれを当てた。 その様子に少し安心して、気が緩んだジンジャーの耳に、再び自分のお腹の音が聞こえきた。

「あのさ。なんか、食べていく?」

 今度はしっかりと、聞こえてしまったようだ。

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