13・本を届けに④
あんたが解いてくれても。
「無理、無理」
基本のきの字の火も出せないのに、国や学校でも解けない魔法を解くなんて、そんなことができるわけがない。
ふーん、とアレックスがジンジャーを眺めてきた。なんだか、すごく嫌な視線だ。
「まさか、まだ魔法が使えないとか?」
「そんなわけないでしょ!」
思わず出てしまった台詞に、ジンジャーはあわわとなった。
「だよねぇ。儀式が済んで、もう何日も経っていることだしね」アレックスが笑う。
憎たらしい! もう、この本、絶対に帰さないんだから。
しかし、本を抱きしめようとしたジンジャーの腕は、そのまま空を抱きこむことになった。 どういうこと? 腕を広げてみるが、本は消えていた。
ジンジャーが茫然とアレックスを見上げると、彼は無言で家の中へと戻っていった。
ジンジャーはどうしていいのかわからず、その場に立ちつくしてしまった。
すると、またアレックスが家から出てきた。
「本棚に戻っていたから」
その言葉に、ジンジャーはへなへなとしゃがみ込んだ。
「はぁ。よかった。なくしたかと思ったぁ。あぁ、本当によかったぁ」
ジンジャーは、肺が空っぽになるほどの大きなため息をついた。
「だから、言っただろ。あの本の心配するなんて、余計なおせっかいなんだって。こっちの都合もお構いなしに、行きたいところに行ってはいつの間にか帰って来るんだから」
「帰って、来るの?」
「うん。今のところは、必ず」
本は行きたいところに行くだけでなく、アレックスの家に必ず帰る。
「本、なの?」
ジンジャーの問いかけに、アレックスは顔をしかめる。
「なにがさ」
「本、なのかなぁ。帰って来るってことは、本、なのかなぁ」
「だから、なにがさ」
「だって、帰って来るんでしょ」
「あんたも、たいがいしつこいね」
「帰るのは、そこが家だからでしょ」
本を届けてから帰るか、そのまま帰るかで悩んだジンジャーだ。
帰る先は、勿論、家。我が家。
思えば、学校の廊下の出窓に、なんで「本」が行きたがるのかも疑問だ。
「帰るなんて、本じゃなくて人みたいだと思ったの」
まるでこの家に住む、誰か。もしくは、住んでいた誰か。
ジンジャーの言葉を、肯定も否定もせずに聞いていたアレックスは、足元に溜まっていた落ち葉をぱっと蹴った。