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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
13/25

13・本を届けに④

 あんたが解いてくれても。


「無理、無理」

 基本のきの字の火も出せないのに、国や学校でも解けない魔法を解くなんて、そんなことができるわけがない。

 ふーん、とアレックスがジンジャーを眺めてきた。なんだか、すごく嫌な視線だ。

「まさか、まだ魔法が使えないとか?」

「そんなわけないでしょ!」

 思わず出てしまった台詞に、ジンジャーはあわわとなった。

「だよねぇ。儀式が済んで、もう何日も経っていることだしね」アレックスが笑う。


 憎たらしい! もう、この本、絶対に帰さないんだから。

 しかし、本を抱きしめようとしたジンジャーの腕は、そのまま空を抱きこむことになった。 どういうこと? 腕を広げてみるが、本は消えていた。

 ジンジャーが茫然とアレックスを見上げると、彼は無言で家の中へと戻っていった。

 ジンジャーはどうしていいのかわからず、その場に立ちつくしてしまった。


 すると、またアレックスが家から出てきた。


「本棚に戻っていたから」

その言葉に、ジンジャーはへなへなとしゃがみ込んだ。

「はぁ。よかった。なくしたかと思ったぁ。あぁ、本当によかったぁ」

  ジンジャーは、肺が空っぽになるほどの大きなため息をついた。

「だから、言っただろ。あの本の心配するなんて、余計なおせっかいなんだって。こっちの都合もお構いなしに、行きたいところに行ってはいつの間にか帰って来るんだから」

「帰って、来るの?」

「うん。今のところは、必ず」


 本は行きたいところに行くだけでなく、アレックスの家に必ず帰る。


「本、なの?」

 ジンジャーの問いかけに、アレックスは顔をしかめる。

「なにがさ」

「本、なのかなぁ。帰って来るってことは、本、なのかなぁ」 

「だから、なにがさ」

「だって、帰って来るんでしょ」

「あんたも、たいがいしつこいね」

()()のは、そこが家だからでしょ」


 本を届けてから帰るか、そのまま帰るかで悩んだジンジャーだ。

 ()()先は、勿論、家。我が家。


 思えば、学校の廊下の出窓に、なんで「本」が行きたがるのかも疑問だ。


「帰るなんて、本じゃなくて人みたいだと思ったの」

 まるでこの家に住む、誰か。もしくは、住んでいた誰か。


 ジンジャーの言葉を、肯定も否定もせずに聞いていたアレックスは、足元に溜まっていた落ち葉をぱっと蹴った。 


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