12・本を届けに③
「あんた、面倒くさい奴だな」
「悪かったわね」
びんびんにアレックスからの冷たい視線を感じながらも、ジンジャーは本を離さなかった。
「それ、所有の魔法がかかっているって、知っているよね」
「知っているわよ。だから、返しに来れたんでしょう」
「だったら、所有者以外の人物が、不正に長時間所持すると罰則があるってことも知っているよね」
アレックスの言葉に、ジンジャーは胸から本を離した。 途端に、アレックスの口角がいじわるに上がる。
「不正じゃないわ。正当な理由があるもの。本を大事にしない人が所有するほうが不正よ」
「ほんと、わかってないよなぁ。上っ面ばかりで」
「はぁ? なによ、それ」
「その本だけど、ぼくが、置き忘れたんじゃないよ。その本が、勝手にそこに行ったんだから」
「本が、勝手に? あなたが置き忘れたんじゃなくて?」
「そうだよ」
「あなたは、この本が勝手に、あの出窓に行ったって言いたいの?」
「出窓にいたんだ」
「私、そう言わなかったったかしら」
「あんなところ、としか聞いてなかった」
ジンジャーは、じっとアレックスを見つめた。
「あなた、熱でもあるんじゃないの」
「言いたいこと、言うじゃない」
ジンジャーは、再びアレックスを見つめた。
「あなた、本が、勝手にあの出窓に行ったって、本気で言っているの?」
「信じる?」
ジンジャーは、本を見下ろした。
「それって、この本に意思の魔法がかかっているってこと?」
「ってことになるよね」
つまり、この本は考えを持ち、それを行動として移せる力もあるということになる。
「そんなことしちゃ、ダメよ。物に、そんな魔法をかけちゃ」
誰に聞こえる筈もないのに、ジンジャーはささやくようにアレックスに訴えた。
魔法には、いくつかの約束ごとがあった。
物に意思を持たせることは、建前上はアウトだが見逃されることも多い。けれど、物が意思のままに行動までできる魔法をかけてしまうのは、明らかに違反になる。 もし、そんなことをしたら、人々の日々の生活が混乱に陥るのは明らかだからだ。
「ぼくがかけたわけじゃないし、ダメだってこともわかっているよ。でも、解けないんだからしかたないだろう。こっちだって、困っているんだ。国にも、学校にもこの本については報告済みだよ。そして、残念ながら、今のところ解決方法はなしなわけ」
アレックスがジンジャーをちらりと見た。
「なんなら、あんたが解いてくれてもいいんだけど」