10・本を届けに①
街外れにある、目的の家がジンジャーの目に入った。
「……古い」
しかも古いだけでなく、人が住んでいるんだかいないんだかわからない、微妙なボロくささも醸し出していた。 景色と相まって、寒々しい。
アレックスは、ここにはいないかもしれない。 あの家は、既に空家なのかもしれない。 引っ越したにもかかわらず、本の住所は直さないままでいたのかもしれない。
ジンジャーは、今更ながら、のこのことここまで来てしまった自分が情けなくなった。 それによくよく考えると、本は先生に預けて帰ってもよかったのだ。 そんな簡単なことにさえ気づかなかった自分に、ジンジャーは驚いた。
でも、あの時は、本を持ち主に渡さなきゃいけないと思ったのだ。 それは、ジンジャーの気持ちでもあったけれど、本の希望でもあると思えたのだ。 本を手にした時、あの紙の柔らかさを感じた時、この本がとても大切にされていると思ったから。だから、立ち去れなかった。
勿論、文句も言いたかった。 あんなとこに置いて帰るなんて、何を考えているんだって。 そして、持ち主がアレックス・ラウだとわかったとき、朝から散々名前が出ていたその人だって知った時、ジンジャーは不思議な縁を感じた。
アレックスに、会ってみたいと思った。 そして、ラウ家が一体どんな様子なのかも見てみたいと思ったのだ。
ひなびた道を進み、家に近づくにつれ、当初抱いた「人が住んでいるんだかいないんだかわからない」といった印象は、「人は、暮らしているんだろうな」に変わった。
家は確かにアレだけれど、その庭の手入れはされていたし、小さな煙突からは微かながらも煙が上がっていたからだ。
こうした家の佇まいを見る限りでは、確かにやっぱり少し、ラウ家の人は変わっているかもしれない。
(でもまぁ、とにかく入ってみよう)
ジンジャーは、家をぐるりと囲んだ低い木の柵を、ゆっくりと押して入った。 すると、家の中から一人の男の子が出てきた。
―― 黒い髪。
アレックスだ。
「こ、こ、こ、こんにちはっ!」
まさか、いきなり、こうも都合よく本人が出てくるなんて思っていなかったジンジャーは、声をひっくり返しながらも、なんとか挨拶をした。