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魔法使いの心得  作者: 鹿の子
ジンジャー・ペンの物語
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1.おしるし

「全く、魔法なんて」


 今日、何度目になるかわからない溜息が、ジンジャー・ペンから洩れる。

「本当に、面倒くさい」

 夕暮れ時のあぜ道を一人歩くジンジャー・ペンの顔には、連日の補習による疲れが色濃く出ていた。




 そもそも、ジンジャー・ペンに魔法使いとしての「おしるし」が来たのは、今から五日前の16歳になる前の晩のことだった。

 木枯らし一号が吹くその日の深夜に、毛布に包まる彼女の足元から、突如火が上がった。

 そしてその時から、ジンジャーの「火の属性を持つ魔法使い」としての魔法人生が始まり、さらに次の日からは、魔法の実地練習を行なう補習が始まったのだった。




「別に、魔法なんて、使えなくてもよかったのに……」


 ジンジャーがぼやくように、この国には、「魔法を持つ者」と「魔法を持たない者」がいた。

 そして持たない者の中には、 天才ともいえる領域で頭が良かったり、または芸術的才能に恵まれる者が多かった。


 さて、ジンジャーといえば。

 特に際立つ頭脳もなければ、芸術的才能があるわけでもない、つまりが魔法を持たないただの少女だったのだ。―― あの夜までは。





 すっかり帰るのが遅くなった家の扉をジンジャーが開けると、案の定、 大騒ぎだった。


「あっ、ジンジャー。おかえりっ!」

 弟のリオと妹のミューズが、ジンジャーの両腕に絡みついてきた。

「おかえり、ジンジャー。早く、お風呂に入りなさい」

 母親のチェスターは、リネン類を両手に持ちながらパタパタと歩き回っている。

 ジンジャーは、今日これから起きることを考えると、頭が痛くなってきた。 「おしるし」を受けた者は、魔法使いとしての儀式を、済ませなければならなかったからだ。


 たくさんの親戚が、やって来る。

 ――いや。

 既に、何人かは来ているかもしれない。


 ジンジャーは、苦手だった。 話し出すと止まらなくなるおじさま方も、噂好きなおばさま方も。 その苦手な皆様方が、ジンジャーの儀式を観るためにそろってお出ましになる。

 塵みたいな小さな失敗でも、一生言われ続けるに違いない。


「全く、魔法なんて」

 『面倒くさい』の言葉をぐっと飲み込みながら、ジンジャーは一人、浴室へと向った。


2002年に執筆しサイトに掲載していたものに、加筆修正したものです。

当時交流のあったshionさんのバースディ企画参加作品として書きました。

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